電通初公判、異例の社長出廷 不要な残業を減らすには?
JIJICO / 2017年10月2日 7時30分
電通初公判、異例の社長出廷 不要な残業を減らすには?
法人代表、異例の出廷
新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が過労のため自殺したことをきっかけに捜査が始まった、電通の違法残業事件の初公判が22日、東京簡裁で開かれました。同種の事件が公開の法廷で審理されるのは異例のことです。出廷した山本敏博社長は、違法な残業だったことを認め謝罪しました。
今回、公開の裁判を開く必要がないとした検察の判断を、東京簡裁の裁判官の求めにより覆し、電通側の出廷にいたったことで、より一層「違法残業が企業の社会的な信用や企業イメージを損なう」ことを印象づける形となりました。
違法残業はなぜなくならないのか?
違法残業は労働者にとってはもちろん、イメージダウン、人材流出、法的制裁など、企業にとっても多大なリスクがあります。それでも違法残業がなくならい原因のひとつとして、山本社長が法廷で語った、「仕事に時間をかけることがサービス品質の向上につながるとの思い込み」があります。
何となく耳にすることも多いこのフレーズですが、違法残業をなくし、サービス品質の向上につなげるためには、掘り下げて考える必要があります。
日本では未だに仕事に時間をかけることを過剰に良しとする風土が残り、長時間働く人ほど評価されやすい状況があります。たしかに、高い品質のサービスを提供するために時間がかかる場合もあるでしょう。ただし、計画性や明確な目的なく「長時間労働しただけ」では、サービス品質は向上しない、むしろ品質コントロールをする能力が落ちてしまうこともある、ということをまず知っておく必要があります。
そのうえで、「自社のサービス品質の向上につながることは一体何なのか?」まで踏み込んで考えなければ、違法残業がなくなることも、サービス品質があがることもありません。
しかし、さらにその前提となる「自社のサービス品質とは何か?」が、そもそも不明確な企業も多く、結果として違法か適法かに関わらず「不要な」残業が発生してしまっているケースもあります。
まずは、「自社にとってのサービス品質」の定義、そして、それをどのように実現するのかを考えるところから始める必要があるでしょう。無理をしなければ実現できない品質を無計画かつやみくもに目指すのではなく、実現するための仕組みづくりも合わせて検討することが大切です。
不要な残業を減らすには?
「不要な」残業を減らしていくためのポイントのひとつとして、仕事の出来・不出来の尺度を「労働時間の長さではなく、生産性の高さに変える」ことがあります。
生産性とは、簡単に説明すると、「いかに少ない時間、労力、費用で、多くの成果を生み出せるか」ということです。つまり、原則として、同じ成果であれば、時間、労力、費用は少ない方が良しとする考え方であり、生産性に対する意識を高めることにより、必然的に仕事に時間をかけることを過剰に良しとする意識は薄れていきます。
とりわけ関心が高まってきている『生産性向上』については、「どうやって時間、労力、費用などを減らしていくか」という方法論に目が行きがちですが、「目的とすべき自社の成果とはそもそも何か?」を明確にして、全社で共有する必要があります。労使が共に目指すべき目的や指針がないままでは、個人個人の価値観に強く影響を受けてしまい、広く労働者などからの共感を得られず、新たな企業風土を定着させることも困難です。
近年、情報が溢れ、多くの企業で変化への対応に追われざるを得ない状況です。しかし、企業としての使命や本当に望む成果について「本気で見つめ直す時間」を、定期的・強制的に確保していくことが、不要な残業を減らしながら企業価値を向上させていく近道になるのではないでしょうか。
(岸本 貴史/人事労務コンサルタント、社会保険労務士)
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