織田信成さんがモラハラ被害を提訴。モラハラとパワハラの違い、職場のハラスメント対策とは
JIJICO / 2019年11月25日 7時30分
織田信成さんがモラハラ被害を提訴。モラハラとパワハラの違い、職場のハラスメント対策とは
プロスケーターの織田信成さんが、関西大学アイススケート部の監督として在任中に、女性コーチからモラハラ行為を受けたとして、11月18日、慰謝料など1100万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴しました。
訴状によると、織田さんがコーチに対して、練習内容について意見したことをきっかけに、無視などの嫌がらせが始まったそう。その後も、陰口や悪いうわさを流されるなどが続き、織田さんは、吐き気や頭痛などに悩まされ、入院するほど体調が悪化。監督業の辞任に追い込まれました。近年、相談件数が増えているという職場でのモラハラ行為。どのように対処すればいいのでしょうか。モラハラの問題に詳しい、弁護士の半田望さんに聞きました。
被害の「見える化」を。メールや録音がベストで、メモは客観的に事実のみを記すことが大切
Q:職場での「モラルハラスメント(モラハラ)行為」。パワハラとはどう違うのでしょうか。 -------- 法的な定義はありませんが、一般的にモラハラは、「モラル=社会常識・道徳」に反した嫌がらせの行為を指します。
類似の問題である、パワーハラスメント(パワハラ)については、厚生労働省が、職場でのパワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義しています。
つまりパワハラは、上司から部下、先輩から後輩、社長から労働者など、「優位性」が高い人から低い人に対して行われる嫌がらせをいいますが、モラハラは、同僚や配偶者など、両者の力関係が前提にならない場合にも発生すると理解されています。 Q:「モラハラ」とは、具体的にどんな行為ですか。 -------- 法的な定義づけがないため、何をもってモラハラとするかの線引きはあいまいですが、合理的な理由がなく、相手の人格や尊厳を傷つける行為がモラハラであると理解してよいと考えます。
具体的には、パワハラと同じく、暴言・陰口など「精神的な攻撃」、無視・仲間はずれなど「人間関係の孤立」、必要な情報を与えない、雑用を押し付けるなど「仕事の妨害」、私生活を言いふらすなど「プライベートの公開」、といった被害が当たるでしょう。
Q:近年、職場でのモラハラ行為は増えているのでしょうか。 -------- 職場でのいじめや嫌がらせは、昔から存在していました。近年、パワハラやセクハラなど、ハラスメントへの社会認識が高まり、そのような行為の「見える化」が進んだといえます。被害者が声を上げやすい社会になりつつあり、相談の増加につながっているのでしょう。
一方で、ハラスメントとして認知できない事案の相談も増えています。「何となくそりが合わない相手」の行動や言動で気に障ることを、モラハラだと訴えるような場合です。
パワハラでは、2020年6月に大企業を対象に施行される、職場でのパワーハラスメント防止策を企業に義務付けた「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」の指針案が提示されました。企業側の強い要望を受け、厚労省がパワハラに該当する例・該当しない例を示しています。
パワハラの「カタログ化」は、逆に「パワハラに当たらない」という加害者側の言い訳に利用される懸念もありますが、予見可能性という点では一定の基準を示す必要があったと考えます。
同僚や家族間のモラハラは、パワハラよりも枠組みや線引きがあいまいなため、将来的に一定の定義づけが必要となるかもしれません。
Q:モラハラ行為を受けた場合、どうすればいいですか。 -------- まずは、対外的にわかるように、何が起きたのかを「可視化」することが大切です。具体的には、証拠を残し、公表できるようにします。証拠としては、メールや録音がベストですが、第三者の証言、暴言や悪口を記したメモも有効です。メモは、できるだけ客観的に、淡々と事実のみを記してください。
会社にハラスメント対応の窓口がある場合、そこに相談することも考えられます。窓口がなく、上司や責任者に相談した結果、隠ぺいされたり、「あなたにも非があるのではないか」「がまんするべき」などと逆に諭されたりするケースも散見されます。社内窓口や上司に相談したことで、さらに精神的なダメージを受ける場合もありますので、社内であれば、信頼できる相手か、独立した窓口で相談してください。
また、早い段階で、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。「モラハラと認定できるのか」「証拠をどう残すのか」など、具体的なアドバイスが受けられます。
Q:加害者を法的に訴えることはできるのでしょうか。 -------- 加害者に対して、損害賠償請求等の法的手段をとることができるのは、「社会的に許されない」と認められる行為を受けた場合に限られるでしょう。モラハラはその定義があいまいであることから、不法行為として認定されるには、難しいケースもあります。
今回、織田信成さんのケースでも、「公表された以外の嫌がらせはどの程度か」「具体的な証拠は」「入院は嫌がらせに起因すると判断できるか」などが、争点となると考えます。
もっとも、弁護士から加害者に対し、今後モラハラに当たるような行為をしないよう警告をすることや、弁護士を通じて勤務先等に改善を求めることなど、以後の被害の発生を防止するために対応を行うことはよくあります。また、モラハラの加害者は、自分の行為がモラハラに当たるとの自覚がない場合もありますので、弁護士が警告をすることで事態が改善することもあります。
パワハラで体調を崩した場合には労災として認められるケースもあり、労災となる場合には会社にも責任が発生します。組織におけるモラハラの場合も同様に、組織の責任を問うというやり方があります。
企業には、従業員の健康・安全に配慮した職場環境を整える義務があります。パワハラ防止法では、対策として「パワハラ禁止の明示」「相談窓口の設置」「被害者の救済」などが挙げられており、これらはモラハラ問題の解決にも参考にされるのではないでしょうか。
Q:モラハラの被害者・加害者にならないためには? -------- モラハラは、事故に遭うのと同じで、被害を受ける側に非はなく、自分自身で防ぐことはできません。それよりも、被害を受けたときには、心や体が壊れる前に、早めに医師や弁護士などの専門家に相談して対策をすることが重要です。
また、誰もが「加害者」になるリスクがあると、意識してください。自分では「そんなつもりはない」と思っていても、何気ない言動が、同僚などを傷つける可能性は大いにあります。ハラスメントの問題をきちんと理解して、自分が加害者にならないよう、発言や行動に気をつけてほしいですね。
(半田 望/弁護士)
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