医師が自分の精子で49人の父親に。不妊治療スキャンダルはなぜ頻発する?

女子SPA! / 2019年5月5日 8時45分

写真はイメージです(以下同)

 「オランダの医師が、自分の精子で49人もの子どもを無断体外受精させてしまった」というニュースについて、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)の著者でジャーナリストの草薙厚子さんに寄稿いただきました。(以下、草薙さんの寄稿)

◆医師がこっそり自分の精子を使った例は、オランダだけじゃない

「この子は自分と似てない」「私は親に似てない」「私はいったい誰の子なのだろう…」不妊治療スキャンダルが世界で話題になっています。

 先日、オランダの不妊治療クリニックの男性医師ヤン・カールバート氏が、患者に無断で自分の精子を使って体外受精を実施し、49人もの子どもと親子関係にあることが判明して日本でも大きく報道されました。不妊治療が広まっていくにつれ、こういった事件は世界のいたるところで明らかになっているのです。

 昨年、カナダのオタワで不妊治療クリニックを営んでいたノーマン・バーウィン医師が、1970年代から2000年にかけて人工授精に自分の精子を使って患者を妊娠させ、少なくとも11人の子どもを誕生させたとして集団代表訴訟を起こされました。

 他にも16人の子どもが父親と思われていた男性と遺伝子が一致しないことが判明。さらに35人の子どもが、母親が選んだ提供者の精子が使われていなかった可能性があるとのことです。

◆子どもが36才になってしたDNA検査で分かったのは

 アメリカのアイダホ州では、不妊治療を行っていた医師のジェラルド・モーティマー氏が自分の精子を使って患者の女性を妊娠させたとして、この女性や生まれた子どもが医師と医療機関を提訴しています。

 この女性が不妊治療を受けていたのは1980年でした。子どもが36才になった2017年にDNA鑑定を依頼した結果、明らかになったのです。

 さらにショッキングな例もあります。アメリカのバージニア州の不妊専門医、セシル・ジェイコブソン医師が、患者に自分の精子を使って人工授精を行い、少なくても15人の子どもの父親であることわかり、詐欺と偽証罪で逮捕。

 1992年に懲役5年の判決を受けましたが、さらに75人の子どもの父親であることも疑われたのです。当時はこの種の行為そのものを規制する法律はありませんでした。

◆何も言わず600人もの子どもの父親に

 また、オーストラリア人の生理学者で医師でもあるベルトルト・ウィスナー氏は、1943年から1960年代の半ばまで、ロンドンで不妊治療クリニックを運営していた際、患者の女性に何も言わず自分の精子を使い、600人以上の子どもの父親だったと非難されています。この医師は1972年に亡くなっていますが、2012年になって明らかになった事件です。

 日本でも夫が無精子症など、生殖機能に問題があることが判明した場合、第三者のドナーから精子の提供を受けて人工授精を行う治療が行われてきました。

 ドナーは匿名でしたが、現在は生まれた子どもの「出自を知る権利」の法制化が検討されており、ドナーの情報が将来公表される可能性が出てくると、提供者が現れなくなり、現在、慶應大学病院では患者の受け入れを中止しています。

◆ただ「妊娠させて出産させる」数字が出したかった

 不妊治療を受けたいと思っている夫婦が重要視するのは「妊娠率」です。自由診療で一回の治療費が高いこともあり、妊娠率が高いクリニックに駆け込むのは当然です。

 今回事件が表面化したオランダ人のカールバート医師は、自らを「不妊治療界のパイオニア」と呼んでおり、ただ「妊娠させて出産させる」数字のみを目的にして評判を高めていました。

 倫理的な問題や、生まれてくる子どもたちの将来に起こり得る問題などについては、全く意識がなかったのでしょう。

 2014年には日本人実業家の男性が、少なくともタイ、インドで19人の子供を代理母に産ませていたことが発覚して話題になりました。このケースでは正式にこの男性の親権が裁判で認められましたが、関係者には「毎年10~15人の子供が欲しい」「100~1000人の子供をもうける計画だ」と語っていたといいます。

 不妊治療医による事件とは背景が異なりますが、男性にとっては経済的な余裕や、不妊治療を自由にコントロールできる立場にあれば、自分の遺伝子を持った子孫を数多く残すことが可能なのです。

◆不妊治療の現場はブラックボックス

 日本でも不妊治療を行う医療機関が増加し、成功率をめぐっての競争が激しくなっていますが、不妊治療を受けて一度受精卵が作成されてしまったら、患者側はどうすることもできません。性交渉を伴っていない場合、「これは間違いなく自分たちの配偶子だ」という証拠はないのです。

 現場はブラックボックスであるため、クリニックを信頼して全てを委ねざるを得ません。万が一、同意のない人の精子を使われたとしても、それが特徴として現れるまでには最低でも生まれてから数年、場合によっては十数年もの時間を要するのです。

 現在は受精卵の取り違えなどの対策としては、タブルチェックの体制強化の指導が行われており、実施責任者の監督下に、医師・看護師・いわゆる胚培養士※のいずれかの職種の職員2名以上で行っています。しかし、実際の医療行為の現場は患者からは見えないところ行われているため、こういった事件が明るみに出てしまうと、不安を感じる人も出てくるではないでしょうか。

※胚培養士とは、体外に取り出した卵子や精子、受精した胚を取り扱う技術者のこと。

◆本当に自分たちの子どもなのか、生まれる疑惑

 先月、芸能人の息子だと豪語して飲食を繰り返し、金銭トラブルを抱えていた男性が、DNA鑑定によって全く血が繋がっていなかったことが判明した事件がありました。事件が早急に解決した背景には、DNA鑑定が短時間で安価で出来るようになったことがあります。

 日本は、血縁をとても重視する傾向にあります。『本当は怖い不妊治療』(SB新書)でも述べましたが、実際に不妊治療を行なった夫婦が間違いを疑い、本当に自分たちの子どもかどうか、DNA鑑定を依頼するケースも増えているといいます。

 不妊治療ブームともいえる現在、今回のオランダの事件が対岸の火事であることを願うばかりです。

<取材・文/ジャーナリスト・草薙厚子>

【草薙厚子】

ジャーナリスト。元法務省東京少年鑑別所法務教官。著書に『ドキュメント 発達障害と少年犯罪 』『本当は怖い不妊治療』『となりの少年少女A』など多数

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