大人気の韓国ドラマ「愛の不時着」は「あまちゃん」的存在?!その理由は…

女子SPA! / 2020年6月8日 8時46分

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「愛の不時着 オリジナル・サウンドトラック」キングレコード

 話題のNetflixドラマ「愛の不時着」は、“朝ドラ”における「あまちゃん」のような存在である。

 2013年、「あまちゃん」によって伝統ある“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説がアップデートされ、新たな層が“朝ドラ”を視るようになった。これと同じ流れを私は「愛の不時着」に見る。

 南北に分かたれた男女の胸踊るラブストーリー「愛の不時着」はこれまでの韓国ドラマファン以外の視聴者まで取り込んで、巨大な盛り上がりを見せ、Netflixでランキング上位をいまだにキープしている。コロナ禍によって自宅にこもるお供に申し分なかったという点もあるとはいえ、自粛がはじまる前からすでに韓流ドラマ好きな層以外の支持も獲得し、話題になっていた。

◆韓国ドラマや恋愛ドラマのパロディ化でたくさんの人が楽しめる

「あまちゃん」は歴史ある朝ドラのお約束も盛り込みつつ、新たな表現をプラスした朝ドラを楽しむドラマであった。「愛の不時着」にも韓国のラブストーリーをたくさんの人に楽しんでもらおうという意欲が感じられる。それは、韓国ドラマや恋愛ドラマのパロディ化である。

 財閥令嬢にしてビジネスにも手腕を発揮する主人公・ユン・セリ(ソン・イェジン)はある日、パラグライダーに興じていたところ竜巻に遭って、隣国・北朝鮮に来てしまう。森で木にぶら下がって困っていると現れるのは、北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)。ふたりのファーストコンタクト、そして偶然の再会のシチェーションは、ザッツ・ラブストーリー。

 これを古典的でロマンチックと思う人もいれば、いかにも過ぎると思う人もいるわけで。そこを「愛の不時着」はいわゆるメタ表現――わざとやっていますよ~という雰囲気を漂わす。

 おかげで韓国のラブストーリーに対する偏見がひとつクリアーされ、その先に進むことができるのだ。なにしろタイトル「愛の不時着」からして洒落が効いている。ロマコメなんだなと思うと、視聴のハードルは下る。

◆ソン・イェジンが演じると気の強いセレブはとりつくしまがある

 キャラクター設定も万全である。

 ユン・セリ(ソン・イェジン)は、現代的な自立した女性である。何もかもに恵まれているセレブと思いきや、実は家族に愛されない孤独を抱えている。それによって幸せな主人公が好きな層にも不幸な主人公が好きな層にも支持される。

 ハイブランドをかっこよく着こなしつつどこか庶民的なところもあって、ソン・イェジンが演じると気の強いセレブはとりつくしまがある。これって大事。

 ユン・セリが恋してしまうリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)はパーフェクトなイケメン。前髪をこんなにぱっつんそろえてかっこいい人はなかなかいない。同じく人気のNetflixドラマ「梨泰院クラス」のパク・ソジュンといい勝負であろう。

 リ・ジョンヒョクは軍の中隊長で腕っぷしは強いし、料理もできる。性格は不器用で、女性扱いに長けてないが、いざとなったら愛する者を全力で守り抜こうとする誠実さ。アクションシーンもキマるが、彼女をさりげなくエスコートする身振りはガンアクションよりも心を撃ち抜いてくる。

◆主人公が知っていく流れとつながって北朝鮮の生活への先入観を覆していく

 韓国と北朝鮮を舞台にしたラブストーリーは単なるスイーツにとどまらず、ときに緊張感もはらむ。韓国に帰りたいユン・セリが命の危険にも晒(さら)されていくサスペンス展開も。アクションシーンは本格的で男性視聴者の目を引くものになっている。

 北朝鮮への取材も行われ、未知なる生活様式を再現してみせることで、そこに暮らす人、軍人として従事している人への外部からの一面的な先入観を覆(くつがえ)していく。それは、ユン・セリが知らなかったことをじょじょに知っていく流れともつながっている。

 物質的に恵まれながらもどこか拭えない喪失感を抱えた女が、北朝鮮に迷い込み、しょっちゅう停電にあったり、満足なコスメがなかったり、ネットができないなど不自由を味わいながら、堅物イケメン軍人と、気のいい部下たち、近隣の主婦たちと、祖国・韓国では味わったことのないあたたかくユーモアのある交流を通して、心の欠落を埋めていく。

 印象的なのは、ネタバレになるが、中盤、負傷したリ・ジョンヒョクにユン・セリが輸血するエピソード。両者は同じ人間同士なのである。

◆韓国ドラマへの先入観を超えて、その先のドラマへ

 韓国との情報が絶たれていることや、家族から離れ10年もの兵役があることなど、北朝鮮の社会問題を念頭におきながら、政治的な視点によらず、そこに生きている人たちの恋や笑いや友情を丁寧に描いている。

 リ・ジョンヒョクの部下のひとりキム・ジュモク(ユ・スビン)は韓国ドラマのファン。仕事をさぼってドラマを視ることもある。そんな彼にいつかチェ・ジウと会わせてあげると約束するユン・セリ。

 キム・ジュモクのハマってる10年前の韓国ドラマのスタイルこそ、韓国ドラマファン以外の者たちの韓国ドラマへの拭えない先入観であり、「愛の不時着」はその先のドラマを作っていると宣言しているかのように思う。

◆すっかり身も心も「愛の不時着」世界に慣れ、びっくり展開にも前のめり

 全16話は序・破・急という感じで大まかに3つほどに分かれて、中盤になると、リ・ジョンヒョクの婚約者ソ・ダン(ソ・ジヘ)、謎の実業家ク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)と恋のライバル的なキャラクターが登場し、主役ふたりの恋をかき回す。

 婚約者と実業家のちょっとひねた感じも好感がもてるし、ソ・ダンのお母さん(「パラサイト半地下の家族」にも出ているチャン・ヘジン)も場を盛り上げる。正直言うと、ライバルが出てきたあたりからは、メインのふたりが近づいたり喧嘩したり、ユン・セリが韓国に帰れそうで帰れなかったり、ご都合主義的に問題が勃発し、そこはいかにも韓国恋愛ドラマ調(朝ドラをはじめとする日本の通俗的ドラマもそうですが)。

 でも、俳優たちの芝居が皆、巧いし、序盤で笑ってもいいという空気が提示されていたこともあって気軽に見ることができるし、テンポが早く、次々にシチュエーションが変わり、場面場面に力が入っているので、赦(ゆる)せてしまう(ナニ様)。5、6話まで一気に見て慣れてしまったともいえる。

 そもそもふたりには実は……というびっくり展開、これぞ韓国ドラマの真骨頂! があるのだが、すっかり身も心も「愛の不時着」世界に慣れて、いつしかユン・セリとリ・ジョンヒョクの背景がやたらキラキラしたラブシーンを前のめりで視ているのである。その誘導の手腕たるや、おそるべし。

 いまだに韓流ラブストーリーは……と様子見している人は、その偏見を超えるべき。そう、国境を超える愛のドラマ「愛の不時着」は、あらゆる偏見を超えるドラマなのである。

<文/木俣冬>

【木俣 冬】

フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など

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