子宮頸がん「HPVワクチン」は打つべき?安全性や効果を医師に聞いた

女子SPA! / 2020年10月29日 8時46分

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 厚生労働省がHPV(子宮頸がん)ワクチンの積極的な接種勧奨を控えていることで、避けられたはずの子宮頸がん患者が約1万7000人、死者が約4000人発生するとの推計を10月22日、大阪大学の研究チームが発表しました。

 日本では、HPVワクチンは対象年齢であれば無料でうてる「定期予防接種」であるにもかかわらず、現在“積極的接種勧奨の差し控え(国が積極的に接種をすすめない)”の状態となっています。そのため、いったいどんなワクチンなのか、国民が知る機会がとても少ない状況です。

 そこで今回は、HPVワクチンについて正しい知識を広める活動をする医療者有志の会「HPV Vaccine for Me」の一員である、細部小児科クリニック院長の細部千晴先生に話を聞いてみました。

◆性交経験が一度でもあるなら、感染の可能性がある

――そもそも、HPVとは?

細部千晴(以下、細部):HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんの原因になる、どこにでもいるウイルスで、性交渉によって感染します。つまり、性交経験が一度でもある女性なら、誰でも感染する可能性があります。

――子宮頸がんはどんな病気なんですか?

細部:子宮頸がんは子宮下部の「子宮頸部」にできるがんで、96%がHPVによるものだということがわかっていて、日本では毎年約1万人がかかり、約3000人が命を失っています。とくに妊娠・出産を考える20~40才でかかる人が多く、子どもを残してなくなる人が多いことから“マザーキラー(母親殺し)”と呼ばれている非常に悲しい病気です。

――予防するには?

細部:定期的な子宮頸がん検診と、HPVワクチンの接種が有効です。子育てや仕事で忙しくて病院に行く時間がないという声も聞きますが、自治体によっては無料クーポンを発行していますし、昔に比べれば少しずつ有給休暇などが取りやすくなってきていると思うので、ぜひ検診に行ってもらいたいです。

――子宮頸がん検診で異常が見つかるとどのような処置をするのでしょうか。

細部:がんになる前段階(前がん病変)である「異形成」が見つかると、子宮頸部を一部切り取る手術(円錐切除術)を行うことになります。病変の広がりによってはさらに広範囲での摘出(広汎子宮頸部摘出術)を行います。これらは妊娠する力を残す方法ですが、年齢的にもう妊娠は望まないということであれば子宮全部を取ってしまう「全摘出」という方法もあります。

――妊娠する力を残す方法もあるのですね。

細部:はい。でも、「ちょっと取るだけでしょ?妊娠できるならいいじゃない」って、そんなたやすいものではありません。手術で取った組織や転移の有無などを調べて、それによっては放射線療法や化学療法を行うことになります。その後は、膀胱炎や腸炎を起こしたり、髪が抜ける、身体のしびれ、性交痛などのつらい合併症と闘うことになりかねません。

◆「子宮頸がんのリスクを63%低下させた」との調査結果も

――HPVワクチンとは?

細部:HPVワクチンには、2価(16型、18型)と4価(6型、11型、16型、18型)、そして9価(6、11、16、18、31、33、45、52、58型)があります。型というのはHPVの種類のことで、100種類以上あると言われていて、その型によって悪性化するものとそうでないものがあることがわかってきています。

 日本では現在、2価と4価が「定期予防接種」として小6~高1の女性であれば無料で接種できます(厚労省が2020年3月19日に発表した「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う定期の予防接種の実施に係る対応について」により、高校2年生はこの対象となり定期接種として接種できる自治体もあります)。

 ただ、国内で2020年7月21日に承認されたガーダシル9価ワクチンは、現状では定期接種になっていません。また、定期接種の年齢を過ぎると全額自己負担にはなりますが、接種は可能です。9価ワクチンを接種できる医療機関は、予防医療普及協会のウェブサイトでリストを見ることができます。

――効果や安全性は証明されているのでしょうか?

細部:世界ではHPVワクチンの有効性や安全性について、すでに多くの論文で示されていて、子宮頸がんの一歩手前の異形成という状態を抑制することがわかっています。近年は「新潟スタディ」という日本人の調査でも同様のことが示されました。また、直近では2020年10月、スウェーデンのチームが「HPVワクチンが子宮頸がんそのもののリスクを63%低下させた」との研究成果を発表しました。

 また、子宮頸がんワクチンという名前から、女性にしか関係のないものだと思われがちですが、HPVは口腔がん、咽頭がん、外陰がん、膣がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因にもなるため、海外では男性にも打たれています。

――HPVワクチンは定期接種の年齢(小6~高1)を過ぎた大人でも、効果があるのでしょうか。

細部:もちろん子宮頸がんの予防に有効です。性交渉でうつるものなので、検診で異常がなく、極端な話、もう一生セックスをしないということであればうつ必要はありませんよね。でも、たとえ既婚者であっても夫がHPVを持っていて、一度でも性交渉をすれば感染する可能性があります。逆に言えば、自分が相手にうつす可能性もあります。自分の身体を守るためだけではなく、性交渉の相手への思いやりの意味でも、HPVワクチンは必要だと考えます。

◆自己負担で接種するといくらかかる?

――HPVワクチンは自己負担でうつと金額はどのくらいになるのでしょうか?

細部:定期接種の期間を逃して自己負担でうつ場合、1回1万5000~1万7000円程度かかり、3回うつと5万円前後です。

――かなり高いですよね。

細部:非常に高価なワクチンです。2020年7月に日本で承認された世界標準の9価ワクチンは1回4万円程でさらに高価ですが、将来的にはもう少し安くなる可能性もあります。

――HPVワクチン、痛いですか?

細部:そうですね。筋肉内注射の方が痛くないと言われていますが、緊張していると痛く感じるようです。

――HPVワクチンはどのようなスケジュールで接種していくのでしょうか。

細部:計3回打つことで十分な抗体ができると言われています。2種類のワクチンが流通していますので、それぞれ1~2か月の間隔をあけて2回接種し、1回目から6か月間隔をあけてもう1度接種します。

――日本ではいつから導入されているのでしょうか?

細部:2009年に2価ワクチン、2011年に4価ワクチンが日本で接種開始となりました。でも、ワクチン接種後の原因不明の体の痛みなどの症状を訴える方々が報告され、たったの2か月で、国による“積極的な接種勧奨”が差し控えられることになり、「定期接種であることには変わりありませんが、積極的におすすめするのは一時的に中止します」となってしまいました。そのころ、テレビでもけいれんを起こす女の子の姿がセンセーショナルに繰り返し報道されていたので、覚えている人も多いかもしれません。

 国による積極的な勧奨がされなくなったことで、日本人はHPVワクチンがどんなもので、子宮頸がんがどんな病気なのか、そして、対象者には無料で受けられるワクチンがあるということすら知らない人が多いのが現状です。

◆“副反応”とHPVワクチンの因果関係は確認されていない

――現在の接種率は?

細部:定期接種化をしたころは接種率70%以上だったのですが、積極的勧奨が中止されたことでガクンと落ち、現在では0.3%(2017年)となってしまっています。WHO(世界保健機関)の「ワクチンの安全性に関する専門委員会」は2015年に出した声明で「副反応とHPVワクチン接種の因果関係は確認されていない」として、日本の状況を名指しで非難しています。

――海外ではもっと接種が進んでいるんですか?

細部:多くの先進国で接種率が7割が超えるなかで、日本の0.3%は異常な数字です。オーストラリアはワクチン完遂率が80%(2017年)と、接種プログラムがもっとも成功していると言われています。このままいけば、2028年には新規の子宮頸がん患者はほぼいなくなるというシミュレーションもなされています。

――HPVワクチンの接種後に報告されている症状とは?

細部:接種部位やそれ以外の部位の痛み、記憶力の低下、倦怠感、運動障害などの「機能性身体症状」が報告されています。ただ、これらは思春期の女子にはよく見られる症状でもあり、さまざまな調査研究が行われていますが、現在、HPVワクチンとの因果関係は証明されていません。

――どういった調査がされているんですか?

細部:「名古屋スタディ」という国内の研究では「HPVワクチンと接種後に報告されている症状に関連性が認められない」という結果が出ています。名古屋スタディは2015年に、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部」の要望に名古屋市が応え、名古屋市立大学が実施した調査です。

 名古屋市の小6~高3の女子約7万人にアンケートを送付し、約3万人のデータによって得られた結論は、「慢性疼痛」「生理が遅れる」「目が痛い」などの24項目もの症状について、接種した人とそうでない人の間で差が見られなかったというものでした。

 患者会の要望に応えて実施した調査であり、河村たかし市長は国会で薬害問題に取りくんだ経験のある方だということで「ワクチンと副反応被害の関連性」を証明したかったのだと思われますが、得られた結果は真逆となりました。2015年12月に速報段階の結果が発表され、名古屋市のウェブサイトにも掲載されましたが、その後、なぜかサイトから突然削除されていたそうです。名古屋スタディの最終報告である論文は、国際ジャーナルの『Papillomavirus Researdh』誌で2018年に発表されています。

◆まずは正しい知識をつけ、判断を

――もし、接種後に気になる症状が出てしまったら?

細部:接種部位の痛みやはれを含め、気になる症状がある場合は医師に相談しましょう。詳しくは、厚生労働省がリーフレットを作っています。また、重い副反応が現れた患者さんに対しては、関係あるなしにかかわらず国が補償する「予防接種健康被害救済制度」が定期接種には設けられています。

――HPVワクチンに関して、日本ではそもそも何も知らないという人も多いですよね。

細部:メディアの影響は大きいと思います。2013年の副反応の報道後、積極的勧奨の中止によって国による啓蒙がなされなかったことに加えて、メディアでも名古屋スタディなど、その後の経過があまり取り上げられませんでした。これは国民の重大な情報格差、健康格差を招いており、非常に大きな問題だと思います。

 正しい知識については、厚生労働省や日本医師会、日本小児科医会など、地方自治体や全国の医師会が出している情報(東京小児科医会・東京産婦人科医会のリーフレットなど)を参照するといいと思います。作成されたリーフレットなどはそれぞれのウェブサイトでも見ることができます。

<取材・文/鴨居理子>

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