“猫ブーム”の裏で繁殖重ねるメス猫ら「過酷どころか虐待」でボロボロの現状

週刊女性PRIME / 2018年11月2日 22時0分

※写真はイメージです

 空前のペットブームと呼ばれて久しい。犬・猫の飼育頭数は、いまや15歳未満の子どもの数を上回るほど。テレビや雑誌では頻繁に特集が組まれ、SNSから人気に火がついたペットも数知れず。

 なかでも、ネットで圧倒的支持を集めるのが猫。ツイッターで22万超のフォロワー数を誇る“ホイップちゃん”、しょんぼり顔が愛らしい“ふーちゃん”など、企業とコラボしたグッズまで販売される人気ぶりだ。

未曾有の猫ブームはなぜ起きた?

「かつて社会学の世界では、“ペットは家族か否か”との論争がありました。20年ほど前は“家族の一員”“ペットは家族とは呼べない”が半々で、大まじめに議論していたんです。しかしこの20年の間に、飼い主側に前者の意識がどんどん強くなりました。それに押される形で、いまでは学者も、ペットを家族の一員とみなす風潮に変わってきています」

 そう話すのは、東京大学大学院の赤川学教授(社会学)。ペットを取り巻く状況は、時代に応じて変化しつつある。

 例えば、飼育頭数。猫人気に沸き立つネットとは裏腹に、リアルの世界では長年、ペット界の頂点に犬が君臨していた。ところが、ここへきて状況が少し変わってきたようだ。

 一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、昨年の全国犬・猫の推計飼育頭数は、犬が892万頭、猫が952万6000頭。初めて猫の飼育数が犬を上回ったのである。

 いまや空前の猫ブーム。その経済効果は2兆円超といわれ、2年後の東京五輪をしのぐほど。ネコノミクスなる言葉も誕生した。なぜ未曾有のブームが続いているのだろうか?。

「猫人気に火がついたのは、おおよそ10年前。テレビなどメディアの影響もありますが、それよりもやはり、SNSの影響のほうが大きいと思います」

 と赤川教授は指摘する。とりわけ有力視されているのが、室内飼いのメリットを重視する説だ。

「基本的に室内飼いである猫は1日中、家の中で過ごすため、写真や動画が撮りやすい。ネットの猫人気と相まってインスタ映え、動画映えするし、ほかの人もつい“いいね”を押してしまうんですね」(赤川教授、以下同)

“ツンデレ”具合もたまらない

 また一方で、家族構成の変化も、猫ブームを後押ししているという。

「核家族化、少子化、それから共働きが多くなったことも関係していると思います。犬はかまってあげないといけない動物ですが、猫は犬ほどではなく、餌と水さえ与えていれば、家を空けても大丈夫なところがあります。泊まりがけのときも猫のほうが出かけやすいということにもつながる」

 一戸建てではなくマンション住まいが多くなったことも一因。猫は犬のように大きな声で鳴かないので、近所迷惑になりにくく飼いやすい。現代の住環境に適したペットといえるのだ。

 さらに赤川教授は、愛猫家の立場でこう分析する。

「猫の性質もある。例えば、猫は独立心が強く、犬のようにはなつかない。どれだけ愛情を注いでも、愛情を返してくれるとは限りません。飼い主にとっては“見返りのない愛”ですが、たまに甘えてくれる。そこがたまらないんです」

 また、関係性が変化するところも、猫ならではの魅力だという。

「飼い始めたころは赤ん坊のようですが、成猫になると、息子(娘)になり、次には妻(夫)、あるいは愛人のような存在になる。相談相手のような存在にもなるんですね」

 そして10歳を越えると、今度は親のような存在に。晩年は人間と同様、介護の対象となる場合も。その親たる猫を失ったとき、ショックは計り知れないものがある……。赤川教授も、ようやく最近、6年間のペットロス症候群から抜け出したばかり、と打ち明ける。

「本当の親を亡くしたときよりショックが大きいという人までいるそうですから。いずれにしても、わずか20年足らずの間に、関係が変化するところも猫ならではといえます」

 さらなる盛り上がりを見せそうな猫ブーム。だが、そこには光があれば影もある。右肩上がりの飼育頭数の裏で、殺処分される猫があとを絶たない。ペットショップでの生体販売や、悪質業者による遺棄、多頭飼育の崩壊も社会問題となっている。これらに対し動物愛護の観点から、法整備を求める声も根強い。

 動物愛護管理法が2013年に施行されてから5年、今年は同法の改正年である。そこでも取りざたされているペットの流通をめぐる課題に、まずはスポットを当てていこう。

ペットビジネスの根深い闇

「ペットショップではいま、猫が爆発的に売れています。販売頭数は統計を始めた'14年から2年で2割増え、年間16万頭が販売・譲渡されているバブルの状態。最近では、犬のブリーダーの3割が猫のブリーダーも兼ねているほどです。犬と猫は、まったく違う動物だというのに」

 そう語るのは、ペット業界を取り巻く問題に詳しい、朝日新聞記者でジャーナリストの太田匡彦さんだ。

 過熱する猫ブームは、ペットビジネスの世界にも異変をもたらしている。猫の繁殖が比較的容易なことも一因。犬の繁殖には屋外にある程度のスペースを必要とするのに対して、猫はマンションなど屋内の一室で繁殖できるからだ。'17年に飼育頭数で猫が犬を逆転したが、販売価格もその傾向をなぞっているという。

「現在、1番人気のスコティッシュフォールドには、犬よりも高い30万円の値段がついています。50万円で売られているケースもある」(太田さん、以下同)

 かつてペットは店で「買う」ものではなく、雑種を人から譲って「もらう」ものだった。特に犬の場合、スピッツ、マルチーズなどの血統種をペットショップで購入するのは、もっぱら富裕層に限られていた。

「でも、店で血統種を買うのが一般的になってきた。そのあとを追って、いまでは猫も似た状態になっている。若い人ほど、その傾向が目立ちます」

 ところが、ペットビジネスをめぐる実態は、いまだにあまり知られていない。

「ブリーダーの繁殖から、ショップでの小売りまでの間で、犬猫あわせると年間およそ2万5000頭が病気などで死んでいます」

 環境省の最新統計によれば、'16年度に殺処分された犬猫は5万5998頭。その数は年々、減少している。それなのに、殺処分の半数に近い犬猫が流通過程で命を落としているというのだ。

「とりわけ猫は、犬よりも新しい環境になじみにくい。下痢や嘔吐が続くなどして死ぬケースもあります。環境が変わると免疫力が落ちるなど、感染症にかかって死ぬことも多い」

繁殖の中でメス猫はボロボロに

 繁殖方法にも大きな問題がある。

「犬は通常、年に2回、繁殖させるのですが、猫は季節繁殖動物といって、日光が12時間以上当たると、メスに発情期がくる。交尾すると、67日前後で出産。それから2~8週間で再び発情期がきます。それを利用して、蛍光灯などを当ててやると、最大で年間4回まで子どもを産ませることができるんです」

 さすがに年間4回のケースはまれというが、年間3回の繁殖は「普通にやっている」(太田さん)のが現状。年3回であっても、当然ながら繁殖用のメス猫には相当な負担がかかる。

「歯がボロボロになったり、骨がすかすかになったりする。過酷どころか、虐待ですよね。繁殖を終える8歳前後までそれを繰り返すと、メスの体はまさしくボロボロになります」

 もうひとつ、繁殖をめぐり懸念されているのが、遺伝性疾患の問題だ。

「猫は犬ほど種雄の数が多くないので、より近いところでの近親交配になる。そのため、遺伝的な疾患が多くなってしまうんです。折れ耳と、ゆったりとして穏やかな動きが人気のスコティッシュフォールドが典型的。あの折れ耳自体が骨軟骨形成不全症という病気。骨が痛くて動けないから、動作も鈍くなる」

 いわば、売って儲けるために、わざわざ病気の猫をつくり出しているのだ。

「動物愛護管理法の順守事項に、業者は遺伝性疾患のある動物をつくるとか売ってはいけないとあります。したがって、愛護法の細目違反にあたる。自治体は指導、勧告、命令ができるとありますが、処分が下されるどころか放置されている状態ですね」

 こうした問題に対し、規制強化を求める声が後を絶たない。ペットショップでの生体販売そのものを取り締まるべきだとの意見も、よく耳にする。しかし、ペット業界にメスが入ることはほとんどない。なぜか?

はっきりいうと、環境省をはじめ自治体にやる気がないからです。ペット業界は巨大な産業で、ロビー活動もやっていて、政治家も味方につけている。むろん業界は自主規制などやるつもりはない。それに……」

 と、太田さんの口がややよどみ、こう切り出した。

「飼っている側にも問題がある。自分のペットがかわいければそれでいい、ほかはどうでもいいという人も多い。つまり行政、業界、消費者と三すくみでダメな状態なんです」

 はたして突破口はあるのだろうか?

「ビジネスとしてだけではなく、本当に動物のことを考える若い経営者も出てきています。飼い主さんも、若い世代は認識が変わってきているので、そこに期待したいですね」


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赤川学さん
社会学者。東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は近代日本を舞台にしたセクシュアリティーの歴史社会学

太田匡彦さん
朝日新聞経済部記者として流通業界などを取材。現在は文化くらし報道部に所属。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)など

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