コロナ禍の京都・祇園、京大生ホステスらが語る“窮地”と地元民の行政への“怒り”

週刊女性PRIME / 2020年8月28日 8時0分

週末の日中だが人通りは少ない

「今、京都の祇園が本気でヤバい。凄まじい苦境にあえいでいる」。そんな話を耳にした。なんでも悲しいほどに人通りが少なくなり、「ゴーストタウン化が進んでいる」のだそう。

 新型コロナウイルスは日本中の観光地に大きな打撃を与えた。なかでもとりわけ強く影響を受けたのが京都の「祇園」だろう。

祇園が「ゴーストタウン化している」という噂は本当か

 祇園といえば京都を代表する繁華街。八坂神社へと続く門前町であり、参道はいつも賑やかだった。また、舞妓はんがしゃなりしゃなりと歩く花街としても知られている。ひところはインバウンド(訪日外国人旅行)が押し寄せすぎて歩行すら困難になり、舞妓はんの腕をつかむ訪日客が現れるなどマナーも悪化。「観光公害」が起きるほどの活況を呈していた。

 しかし、インバウンドに経済的な依存傾向を強めていた祇園は、2月から海外、とくに中国からの来訪者を失い、第1波と呼べる危機を迎えていた。歌舞伎などが上演される『南座』、吉本興業のお笑いが楽しめる『よしもと祇園花月』など文化・娯楽施設も続々と休館(ともに8月に再開館している。しかし南座は演目により秋期以降も休演がある)。夏の京都の花である祇園祭の山鉾(やまほこ)巡礼は「58年ぶりの中止」に。屋台が立ち並ぶ「宵山」も中止となり、祇園はこれでもかと痛手を負い続けた。

 さらに風向きが変わったのは、皮肉にも緊急事態宣言の解除後。まず6月に祇園で集配を行うドライバー4名の新規感染が確認された。続く7月7日、祇園新地甲部組合は舞妓はん2人の感染を発表。この報道が拡がり、祇園はさらなるピンチを迎えた。

祇園が海外資本に買い占められる?

 京阪本線「祇園四条」駅で降り、地上へ出る。「こ、ここが本当に、あの祇園なのか……」。思わず立ち尽くし、息をのむ。本来ならば祇園は夏休みの観光客でごった返しているはず。しかし、歩く人の姿はまばらだ。まるで財政破綻した街にいるような気分。

 取材を進めるうち、猛暑が訪れる前に肉料理店をたたんだ元・店長に話を聞くことができた。祇園に残存する町家を改装したおしゃれなバルで、昨年秋にオープンした。残念ながら1年を待たず撤退。閉店のあいさつ文など軒先に掲示することなく、ひっそりと幕をおろした。

「4月に祇園祭の山鉾巡行を中止すると発表され、新型コロナウイルスの収束を諦めたグループのオーナーが即決しました。閉店といっても賃貸借契約はまだ残っています。なので、しばらく家賃は払い続けるようです。町家は管理費と維持費が高額なので『家賃を払ってでも閉店したほうが安い』、そんな判断でした」(元・店長)

 元・店長はさらに、契約終了後の物件を「日本には新たに借りる人がいないのでは」と心配する。

「秋以降に第2波? 第3波? とにかく次の波が襲来すると言われていますしね。そうすれば物件を手放すオーナーは増えるでしょう。そして日本に住む人は新たに手を出さないでしょう。祇園には今後、続々と海外資本が入ってくると思います」(元・店長)

 そもそも2020年の今夏は東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だった。それにともない京都市内は、オリンピック観戦と京都観光をセットでめぐる旅行者を当て込む外資系ホテルの開業準備が同時多発していた。新型コロナウイルス禍により1年の猶予ができたおかげで、外資系による「京都買い」はいっそう拍車がかかるのでは、そう彼は予想する。1年後の祇園の風景は大きく変わっているのかもしれない。

「お客さんを連れてきて」と店長から泣きのメールが

 祇園は高級クラブなどナイト営業の接客店が多いのも特徴。新刊『京大生ホステスが教えます。99%の男がしていない恋愛の超基本』(SBクリエイティブ)を上梓した現役京大生のクラブホステス、灯諸(とうもろ)こしきさんは、まさに新型コロナウイルス禍の渦中にいたひとり。

「3月にはもう、どこのテーブルでも新型コロナウイルスの話題ばかりでした。特に志村けんさんがお亡くなりになって以降は『他人事ではない』という雰囲気になっていました」(灯諸こしき)

 灯諸さんは、感染により重篤化する危険性をはらんだ家族がいるため、京都が特定警戒都道府県に指定される以前にクラブへの通勤を休んでいる。休んでいる間、店のグループLINEに入ってくる予約状況がどんどん悪化してゆくのを恐々として眺めていたという。

「緊急事態宣言にともなう休業要請が解除され、クラブ各店舗の営業が再開した6月ごろに、過去に勤めていたクラブの店長から1通のメールが届きました。それは『時給制ではなく売上折半制にするから客を連れてきてくれないか』と、経営難を感じさせる内容でした」(灯諸こしき)

 どの店も「耐えている」状況なのだ。ドミノ倒しのように連鎖しなければよいのだが。

京都の人気YouTuberも祇園の危機を感じていた

 男性でありながら舞妓はんのコスプレをし、祇園はもちろん京都中の有名スポットや穴場を紹介している人気YouTuber「コタツは~~ん!!!」。彼もまた、救いを求める声を耳にしたという。

祇園で働く若い人たちから『うちの店がつぶれそうなんです。ロケをしに来てください。助けに来てください』というメールを何通もいただきました。祇園は幾度もロケをさせてくれた街で、大好きなんです。それだけに、今の祇園の人通りの少なさが、僕にはとてもつらいんです」(コタツは~~ん!!!)

 自らカメラを担いで街をめぐるYouTuberだからこそ、リアルに祇園の惨状を肌で感じ、胸が痛むのだろう。

大型バイクが乗り込んでくる歓楽街

 祇園の東側から鴨川へと向かってせせらぐ清流「白川」。三味線を奏でる音が聴こえるなど、風流なエリアだ。ナイトクラブなど祇園の夜を支える店の多くが、白川に沿って集まっている。そんな白川のほとりで小料理屋を営む女将は「夏になってさらに祇園の様子が変わった」と語る。

「白川の水際には柳の並木があるんです。この頃、そこに大きな大きなバイクが停まっているのを見かけるんです。それも何台も。私はそこそこ長く祇園にいます。けれども街の真ん中であんなにたくさんの大型バイクが駐車しているのを初めて見ました」

 これまで通行量の多さゆえに大型バイクが進入できる余地などなかった祇園。それがここにきてバイクやファミリー向けの大きなワンボックスカーなど、これまでの夜の祇園とは縁遠いタイプの車種が路上に停められるようになったのだそう。しかも話を聞く限りは、違法駐車だ。

 観光客が訪れるのはよいことだ。とはいえ夜の祇園はこれまで「一見さんお断り」な雰囲気を醸すことによって高級歓楽街としての威厳や格式を保ってきた。新型コロナウイルスは人々の流入を減少させただけではなく、これまで長い時間をかけて張り巡らせてきた結界を解いてしまったのでは。

行政への不満は爆発寸前

 喫茶店に集う常連客たちにも話を訊いた。祇園界隈で働く60代以上の女性男性たちは、苦境に立たされる祇園を救おうとしない行政に、そうとうご立腹な様子だ。

「イベントのたびに着物姿ではしゃいでいた門川(大作/京都)市長は、コロナ騒ぎになってから雲隠れしたかのように表舞台に姿を現わさへんようになった。Go To(Travelキャンペーン)には乗り気やったくせに『感染拡大防止に必要なときは店舗名を公表する』と、こっちに脅しをかけてくる。どっちやねん。まるでお店が犯罪者みたいやないの」(女性客)

 おしとやかと言われる京都の女性が、ここまで怒りをあらわにするとは。祇園が今いかに深刻な事態に陥っているかが伝わってくる。同席していた男性も、静かな口調ながら憤りを隠さない。

「和歌山の県知事さん、よう頑張ってはる。羨ましいわ。京都の府知事なんて顔も名前も知らん人、多いんやないかな。毎日どこで何してはんのやろう」(男性客)

 そう言って、苦々しそうにコーヒーをすすった。

「盛者必衰」、それが世の「理」(ことわり/摂理)なのだと『平家物語』は綴っている。しかし諸行無常の鐘の音が響き渡るのを、どこかで食いとめねばならないと感じた。観光産業の推進によって経済成長を遂げてきた京都。だからこそ、独自の補償制度を打ち立て、「いにしえの都」のプライドを見せるべきときなのでは。


吉村智樹(よしむら・ともき)
京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)に参加。

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