「競艇場の保有」に「葬祭事業」他鉄道会社と一線を画す南海電鉄のビジネススタイル

週刊女性PRIME / 2020年10月30日 6時0分

ボートレース住之江

 関西空港へのアクセスを担う南海電鉄は、ホテル・旅館業が極めて小さいことが幸いして、新型コロナウイルスの衝撃は思ったほどではなかった。インバウンドの恩恵も受けてきたが、一方で、競艇場を保有し、葬儀場を運営するなど、不況に強いユニークな事業を運営している。

コロナ禍、南海電鉄の現状は

 大阪には伊丹空港があるため、関西空港は国際線の割合が非常に大きく、旅客数ベースでは約8割が国際線である。その国際線の旅客数は8月実績で前年比-99.4%となっており、事実上のゼロが続く。

 航空会社、関西空港とも大打撃だが、そのアクセスを担う鉄道・バスも大打撃だ。

 関西空港へのアクセス特急と言えば、JR西日本の「はるか」と南海電鉄の「ラピート」だが、「ラピート」は4月24日以来、ほとんどが運休である。

 南海電鉄のサイトでは、「特急ラピートは、一部の時間帯において運休しております」と掲示しているが、実際は、ごく限られた一部の時間帯だけの運行になっている。
いずれにしても、国際線を利用する人がいないのだから仕方がない。

 南海電鉄の鉄道業は、8月の輸送人員は前年比の23.9%減だが、運輸収入は36.9%減と大きく落ち込んだ。明らかに、特急料金が取れる「ラピート」の運休が響いている。子会社が運営する空港リムジンバスも大打撃を受けており、第一四半期(4~6月)の決算は、運輸業だけで56億円の営業損失(赤字)である。

 それでも、不動産業が増収増益を記録したため、全体の営業損失(赤字)は17億円にとどまった。厳しい状況だが、他の鉄道会社に比べれば良い成績だ。

 運輸業で打撃を受けても、不動産で儲けられる。

 南海電鉄の路線は、「なんば駅」を起点にして、関西空港、和歌山、高野山、泉北ニュータウンへと広がる。「なんば駅」は、JR難波駅、大阪メトロの「なんば駅」と隣接し、近年は近鉄と阪神の大阪難波駅が開業したことで、利便性が非常に良くなっている。

 その「なんば駅」には、かつて南海ホークスの大阪球場(正式名は大阪スタヂアム)が隣接していた。

 中高年にとって、南海電鉄といえばプロ野球の南海ホークスという人は多い。野村克也が現役時代を過ごし、“ドカベン”こと香川伸行がいた球団だが、今の福岡ソフトバンクホークスとは違い、貧乏球団として知られていた。

 その頃のイメージを持っていると、現在の南海電鉄に大きなギャップを感じる。

ファンにとって“聖地”
ボートレース住之江を保有

 大阪球場の跡地は、公園と建物が融合した複合施設「なんばパークス」に生まれ変わり、パークスタワー、なんばスカイオと、南海電鉄が開発した大規模なオフィススペースが隣接している。その不動産賃貸が大きな利益を生むのだ。

 南海電鉄の不動産業には、マンションや戸建の販売も含まれるため、年によって振れ幅は大きい。それでも、おおよそ不動産業は運輸業と同じ規模の営業利益を出す。運輸業と不動産業だけで営業利益の7割を占めており、この2つの事業が南海電鉄の柱である。

 運輸業はコロナショックの直撃を受けたが、不動産業は健在だ。

 ホテル・旅館業の規模が非常に小さいのも、このコロナ禍では幸いだった。他の鉄道会社は、インバウンドと出張需要の消失により、ホテル業が運輸業以上の大打撃を受けている。鉄道会社の成長を牽引したホテル業は、今では屋台骨を揺るがす存在だ。

 その他、南海電鉄には「流通業」と「レジャー・サービス業」があり、利益率は高くないが、営業収益では不動産業と肩を並べる。

 南海電鉄の「レジャー・サービス業」は、営業収益の約6割を「ビル管理メンテナンス業」が占めており、「レジャー」の要素が低い。同じ関西私鉄でも、宝塚歌劇団や阪神タイガースを運営し、多くの観光地を開発した阪急阪神グループとは正反対である。

「ビル管理メンテナンス業」を除くと、「レジャー・サービス業」で最大の規模を誇るのが、「ボートレース施設賃貸業」だ。あまり知られていないが、南海電鉄は子会社を通じて「ボートレース住之江」を保有しており、これだけで毎年50億円以上の収入を得ている。

 コロナ禍でも、ボートレースの盛り上がりは衰えていない。

 近年は、ニューヒロインの大山千広選手や、女性ファンを虜にする永井彪也選手など、ボートレーサーの人気が高まっている。田中圭などが登場するCMも、ボートレーサーたちの熱い闘いにフォーカスし、ギャンブルの要素は感じさせない。

 感染リスクの面でも、ボートレースがやり玉に挙がったことはなかった。

 いまだに、遠出するレジャーは敬遠されやすく、“夜の街”に繰り出すにも、パチンコに行くにも、「クラスター」や「三密空間」という言葉が頭をよぎる。感染するのも恐ろしいが、それ以上に世間の目が怖い。娯楽を失った人たちにとって、ボートレースは一つの受け皿になっている。

 しかも、数ある競艇場の中でも、「ボートレース住之江」は聖地とも呼ばれる存在だ。

 年末のSGグランプリなど、重要なレースの舞台になり、なんば駅から地下鉄で数駅というアクセスの良さで、身近な存在でもある。施設を保有する南海電鉄にとっては、先行きが明るく、安定した収入が得られる事業だ。

 先行きが不透明な時代に突入すると、安定した事業こそが重要だろう。

他の鉄道会社の
後追いはしない南海電鉄

「ボートレース施設賃貸業」に続くのが、毎年約30億円の営業収益を上げる「葬祭事業」である。

 南海電鉄は、子会社を通じて葬祭会館「ティア」にFC(フランチャイズ)加盟する。鉄道会社がFC加盟する例は多いが、飲食業が主流で、葬祭会館というのは異例だ。しかも、現在では15会館を運営しており、本格的な事業規模である。

 日本の年間死亡者数は2019年に138万人を突破し、毎年右肩上がりで増加している。家族葬など、低価格な葬儀スタイルも増えているため、死亡者数ほどには市場規模が拡大しないが、それでも、これからの時代に向いている事業だ。

 沿線に密着する鉄道会社が、沿線住民の永遠の別れに立ち会うのは意義深い。相性が良ければ、継続的に利益を生む事業となる。

 このような特徴的な事業が目立つのは、南海電鉄が財務改善に取り組んできた結果でもある。

 今年の3月末、南海電鉄はレジャー施設の「みさき公園」を閉鎖した。経営が改善しなかったのが理由だが、コロナの影響ではなく、それ以前に閉鎖は決定されていた。

 改善が見込めない事業からは撤退し、投資は選択と集中を行い、他の鉄道会社の後追いはしなかった。その結果、鉄道会社が定番とする事業が見られなかったり、他では見られない事業が目立ったり、特徴的な事業内容になっている。

 主力の運輸業は大打撃だが、それ以外の事業に足元をすくわれることがない。これまでの取り組みは、結果的に今の状況に備えることにつながった。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。

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