お笑い第7世代芸人人気の裏で、悩める「6.5世代」パンサー・向井慧の芸人としての底力

週刊女性PRIME / 2020年11月24日 21時0分

パンサーの向井慧

 お笑い第7世代と呼ばれる芸人たちの活躍が続いている。霜降り明星やEXITといった面々は日々テレビに登場し、YouTubeなどでの活動も積極的だ。最近は若手芸人の中でも3時のヒロインやぼる塾といった女性たちに目が向けられ、第7世代のムーブメントが改めて盛り上がっているようにも見える。

 そんな中、再び注目されているのが第7世代の少し上の世代の芸人たちだ。彼ら・彼女らはいつの間にか、「6.5世代」と呼ばれるようになった。そして、そんな6.5世代の芸人を象徴するのが、パンサーの向井慧である。

“アイドル芸人”としての苦悩

 現在はトリオのツッコミ役として活躍する向井だが、彼はもともとボケ役だった。

 NSC東京校に入学したのは2005年。幼なじみと一緒に「あじさい公園」というコンビを組んだ。しかし、向井はそこで、シソンヌや当時まだピン芸人だったチョコレートプラネットの2人といった同期の存在に衝撃を受ける。それまで「公式に当てはめて、“こんなん面白いかな”みたいなネタを作ってた」という彼は、悟ったのだという。

「俺の頭だけで考えたボケじゃ通用しないって、初めて思った」(『アメトーーク!』テレビ朝日系、2020年11月12日)

 その後、ツッコミに転向した向井は2008年に尾形貴弘、菅良太郎とともにパンサーを結成。最初に彼らがテレビで注目されたのはファンの多さだった。当時、ライブを終えると劇場の外には出待ちのファンが長蛇の列を成していたという。特に、向井はその甘いマスクでパンサーの人気を引き上げた。2015年には吉本興業の「男前ランキング」で1位を獲得。イケメン芸人の筆頭格として注目された。

 ただ、「出待ち率ナンバーワン」という触れ込みでテレビに出演していた当時、“面白い”ではなく“イケメン”として頭角を現した自分たちに対する番組スタッフの冷ややかな目を、向井は敏感に感じ取っていた。彼は振り返る。

「打ち合わせのときにディレクターさんが、『ちょっと今回の収録、NON STYLEの井上さんみたいな感じで、男前だねって言われたら全部、そうなんですよねとか、モテるんですよって言ってください』って言われたときに、は? どういう意味? 人格変えさせられんの?って思って」(『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』テレビ東京系、2020年8月18日)

 ボケからツッコミへの転向を経て、向井はアイドル的な人気を背にテレビに出始めた。順調に見える芸人人生の始まり。しかし、そこに待っていたのは“アイドル芸人”としての苦悩だった。

お笑いへの熱い思いと
厳しすぎるほどの自己評価

 “アイドル芸人”の時代を経て、現在もテレビで活躍している向井。しかし、彼の苦悩は続く。向井はしばしばバラエティー番組での自分は「面白くない」と端的に言う。そして、テレビのバラエティー番組が好きで芸人になったという彼は、そのお笑いへの愛の深さゆえに、「面白くない」自分は番組に必要ないとさえ感じてしまうという。

「バラエティー好きが一番就くべき仕事は、芸人ってボクは思ってるんで。でも、お笑い好きの向井で言うと、ゴリゴリのお笑い番組に別に向井いらないんですよ。でも、職業としては出たい。その葛藤と常に戦ってる」(『アメトーーク!』2019年5月30日)

 現在、『アメトーーク!』や『あちこちオードリー』といった番組を筆頭に、テレビのバラエティーでは番組の裏側や、その中での葛藤などを芸人が語る企画が多く放送されている。向井はそういった企画に呼ばれることが多い。テレビやお笑いへの熱い思いと客観的な視線を併せ持った彼のトークには、確かな説得力があるためだろう。

 しかし、もともとボケ役を目指して芸人になった彼は、そんな自身の現状にも批判的な目を向ける。

「こういう裏側話す系(の番組)でシャシャってる向井も嫌いなんですよ。こんなとこで目立つ芸人になりたいと思って入ってきてないじゃないですか、本来。一生満たされない気持ちで芸人やってるんすよ、いま」(『あちこちオードリー』2020年8月25日)

 世代交代の中での自身の立ち位置の変化にも敏感だ。かつてアイドル的な人気で番組に出演していたころ、“可愛い”とイメージづけられていた彼は、“ブサイク”な先輩芸人のフリに使われることが多々あった。当時を振り返り、彼は自分が先輩の笑いのための「道具」として扱われていたと語る。

 年月が流れ、第7世代が台頭。霜降り明星が一足飛びにMCに抜擢され、自身がその番組でロケに行くことになった。そんなとき、スタジオに向けて「粗品、面白くしてね」などとVTRで自虐気味に投げかける向井。彼は当時を振り返り、「やっぱ、ツーッと(涙が)」と少し冗談を交えながら語る。しかし、その悔しさの意味は後輩の後塵を拝しただけではない。彼の心情は、さらに複雑だ。

「結局俺が『粗品、面白くしてね』って言うことは、粗品を道具にしてる先輩になってしまったっていう。俺が一番嫌だった先輩にもなってるっていう悲しさで、いろんな涙が出ちゃった」(『あちこちオードリー』同前)

 向井には日課がある。毎日、仕事終わりに喫茶店に寄り、その日の反省点などをノートに記録しておくのだという。そんなルーティンに象徴される彼の客観的な視線は、周囲だけでなく自分にも向けられる。その自分に向けられた視線は誰よりも的確で、それゆえに誰よりも容赦なく、深くまで届く。

向井の姿は現代社会とも共振する

「6.5世代」と呼ばれる芸人たち。パンサーのほかには、ジャングルポケットや三四郎などの名前が挙げられることが多い。

 しかし、世代の区切りはあいまいだ。芸歴では重なるハライチが6.5世代に括られてテレビに出ることはほぼない。かまいたちも上京後の“くすぶり”が指摘されていたころは6.5世代の括りに入れられていたが、冠番組を任されるほど人気になった現在では、あまりそういう見方をされていないように思う。

 おそらく「6.5世代」という記号は、芸歴やブレイク時期というよりも、芸人たちが置かれた状況を表しているのだろう。あえて言えば、若手に追い上げられ新たなポジションの模索に悩む“かつての若手たち”に与えられた呼び名。それが6.5世代ではないか。そうだとすれば、パンサーの向井は6.5世代を象徴する存在と言っていいかもしれない。

 そして、そんな向井の姿は社会とも共振しているように見える。現在は、“生きづらさ”の時代とも言われる。少なくない人たちから、はっきりとした像を結ばない“生きづらさ”が次々と語られている。生存はできる。けれど実存は満たされない。機会はある。けれど競争の中ですり減っていく。そんな状態に属性を問わず投げ込まれ、曖昧な“生きづらさ”の当事者になっていく時代との共振――。

 しかし、そんな向井が新たな一面を見せているのが『有吉の壁』(日本テレビ系)だ。若手から中堅にかけての芸人たちのネタを有吉弘行がジャッジする同番組には、パンサーもたびたび出演。向井は濁った池に飛び込むなど、それまでのイメージを拭い去るような姿を見せている。

 有吉は番組の特番時代から、向井に繰り返し「面白くない」と言ってきた。その言葉は辛辣だ。しかし、彼を“アイドル”でも“タレント”でもなく、面白いか面白くないかで判断される“芸人”として扱う言葉でもある。向井は言う。

「芸人人生が大きく変わりました、この番組で」(『有吉の壁』日本テレビ系、2020年4月22日)

 芸人たちの中で“芸人”としての解放を味わう向井。彼の姿に“生きづらさ”の先を見てしまいたくなる。救済のヒントを探りたくなる。が、それは芸人に対して最終的に向けられるべき視線ではないだろう。パンサーの向井は面白い。今はただ、そのことを確認しておきたい。

文・飲用てれび(@inyou_te

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