このクマは「人間に母親を殺されました」 旭山動物園の「重い」解説文に反響...なぜ?飼育員の思いを聞いた

Jタウンネット / 2020年7月11日 8時0分

エゾヒグマ「とんこ」の過去(画像は空白寺@vanity_templeさん提供)

みなさんは動物園に行って動物を見る時、その近くに掲示された説明書きを読んでいるだろうか。生き物の生態や個々の特徴などが書かれているが、サラッと読み流して通り過ぎてしまう――そんな人もいることだろう。

しかし旭山動物園(旭川市)の説明書きはひと味違う。

ツイッターで注目を集めている、エゾヒグマ「とんこ」のエピソードを見てほしい。


以下は、説明書きの内容をそのまま書き起こしたものだ。

「とんこはなぜ動物園にいるの?
1999年4月30日、子連れの母グマが中頓別町に現れました。
人間の安全のため、やむなく母グマは射殺され、子グマは生け捕られ、動物園に引き取られました。メスの子グマは中頓別町のとんこと名づけられました。人間に母親を殺されたとんこが来園者の人気を集めているのは皮肉なことでもあります。とんこが動物園で暮らしている意味とはなんでしょう?
ヒグマと人との事故をさけるために、わたしたち人間の側が気を付けるべきことでもあるのです。
(1)山に入るときはくま鈴をつけ、なるべく大勢で入る
クマに人の気配を知らせることで、出会い頭の事故を防ぎます。
(2)山にごみを捨てない
山にお菓子の袋やジュースの空き缶などを捨てると、クマが人間の食べ物の味をおぼえ、やがて人里に近づくようになってしまいます。
(3)山でクマの糞や足あとなど痕跡を見つけたら速やかに立ち去る
このようなちょっとした心がけで、ヒグマと人との事故を減らすことができるのです。
とんこを通じて、『人とヒグマの共存について』みなさんにより深く考えていただけたら...それこそが動物園でとんこを飼育している意味なのではないでしょうか?
とんこも人里にさえ近づかなければ、名も無き野生のヒグマとして山の中で暮らしていたことでしょう...」

体重などのプロフィールの横に書かれた、とんこの過去。動物園で人々の人気を集めているというが、実際はどんな思いで人間のことを見ているのだろうか――。

とんこの心中を慮らずにはいられない。お互いが生きていくために自分たちにできることは何か、深く考えさせられる掲示だ。

制作者「自分の意図や思いが伝わっている」

とんこの説明書きを紹介したのは、ツイッターユーザーの空白寺(@vanity_temple)さん。2020年7月8日に写真を投稿したところ、10日夕時点で1万6000件以上リツイートされている。

他のユーザーからは、

「『人間に殺された』としつつも感情的なことではなく大事なことを伝えようとしている・・。このような掲示が増え、より多くの人に注目されると良いなと感じます」
「大事なこと、書いてある。可愛いだけではない」
「どちらかが悪いわけではない......でもそれぞれの距離感を大切にしていける注意、環境作りを大事にしたいですね」

といった声が寄せられている。

なぜこのような掲示をしたのか。

Jタウンネットは7月10日、旭山動物園の広報担当を通じて、これを制作したもうじゅう館の飼育担当者に話を聞いた。

広報担当者によれば、旭山動物園では1997年から、各動物の飼育担当による「手書き看板」を積極的に取り入れている。今回話題になったのも、その一つ。掲示し始めたのは17年4月29日の夏期開園からだ。

飼育担当者はこの看板を制作した経緯について、

「もうじゅう館の飼育担当となった際に、先輩職員からとんこの話を聞きました。自分自身も看板の内容について深く考えるきっかけとなったことから、来園されるお客様にも少しでも同じように感じていただければと思い制作しました」

と話す。

看板に対する意見を直接聞くことは少ないが、真剣に説明を読む来園者はいるとのこと。そんな時、担当者は「自分の意図や思いが伝わっている」と感じているそうだ。

エゾヒグマ「とんこ」(画像は空白寺@vanity_templeさん提供)
エゾヒグマ「とんこ」(画像は空白寺@vanity_templeさん提供)

広報担当者は「手書き看板」を設置している理由について、

「手書きだからこそ思いが伝わり、多くの人が足を止めてくれます。また、内容の修正も気軽に行えることから、タイムリーな情報をお伝えできます」

と説明する。たしかに、パソコンで印刷した文字よりも書き手の存在を感じられ、身近な問題だと認識しやすいかもしれない。

投稿が話題になったことについては、

「ネットを通じて多くの方に広く知ってもらえることはうれしい限りです」(飼育担当者)

単なる説明に留まらない、動物園の掲示は奥が深い。今一度目を向けてみたいものだ。

(7月11日12時20分追記)記事初出時、タイトルに一部誤りがありましたので、修正しました。

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