お笑いテレビ裏方稼業④ だが、俺は、日本屈指の「お笑い捕虜収容所」に自らの意志で入隊した。

太田出版ケトルニュース / 2015年1月6日 0時26分

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「鮫」の細く吊り上った目が、さらに大きく吊り上る。
と同時に、眉間に深く皺が入り、コメカミに血液が集まり出す。
そんな蝶タイ野郎のHに 会釈を一発決めこみながら 気まずさを一蹴。
俺は、オレンジ色のタブロイド版を広げながら もう一枠 勧める。

「Hさん!番号 間違えたら こんな大切なこと、間違えたらあきませんやん!?(笑)
0357…って 昔のオンナの電話番号でしょ!?…勘弁して下さいよ」

相手のプライドをできるだけ傷つけないよう やんわりした関西弁でつなぐ。
小さな頃から大好きだった漫才師たちのテクニックをこんな所で活かす日が来るとは…。

「鮫」のように、若い三行営業マンからは「迷惑料」をボッタクる(金銭を騙し取ること)
小遣い稼ぎは、珍しい話ではなかった。しかし、この場合は、風俗業界用語で“ダブル”と呼ばれる二重取りの手。鮫は、0357のニューハーフ倶楽部とも裏で手を結び、提携していやがった。もちろん、そんな事、口を割らないのは百も承知だから、聞くだけ時間の無駄。一気に畳み掛け、その場を去りたかった。

「で、Hさん!今、全部で、なんぼ(幾ら)ありますの?」
本来、こんな不義理をカマされたら、恩義を返す必要はどこにもない。
…だが、このどうしょうもない男を紹介したS嬢の手前、寸止めにしなければ納まらない。

「20万です!」
いつの間にか、会話に“です”が付き始め、微妙に韓国訛りが飛び出す。

「じゃ、そのカネで、姉さん(鮫のオンナ)の店の広告を出しましょう。
 …おそらく、それが一番効率がいい広告の出し方だと思いますんで!」

俺は、夕刊紙の提灯記事を書くことを魚に…
一段、二段、三段抜きの広告を買ってもらい小さな広告代理店に売り飛ばす。

差額は思った以上に大きい。
代理店にはとことん泣いてもらうが 一宿一食の恩がある風俗店には、トコトン儲けてもらう。もし、反響が薄ければ 俺自身が客として行く。
…それが、俺ができる精一杯の誠意だ。

偉そうな事を 言っているが… 決して他人や同級生に自慢できる仕事ではない。
いつしか俺は、海千山千の魔物のあぶく銭に群がりながら腹を満たしていた。

あの頃、毎晩のように「美人局」に引っかかる夢ばかり見ていた。

罠を仕掛け、人を欺くことでしか生きのびる方法がなかった男たち。
大量にあふれる雌汁で、男を誘き寄せ、むさぼり食う女たち。
いつ何時、寝首をかかれても不思議ではない非日常の世界に俺は身を置いていた。

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