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中国アダルトビデオ革命史~日本製AVと無修正ポルノで混沌とする市場 by藤木TDC

TABLO / 2013年12月30日 15時0分

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 この秋に中国で「日本AV影像史」(新星出版社)という本が出版された。題名からも想像できるとおり、日本のAV=アダルトビデオの歴史の解説書である。こうした書物の発行は中国では非常に珍しい。「中国初のAVに関する書籍」という書評もある。

 実は同書、なにを隠そう拙著『アダルトビデオ革命史』(幻冬舎新書)の中国語翻訳版(阮航訳)である。原書は820円+税の新書だが、中国語版はハードカバーの上製本、といっても定価32元とあるから日本円で540円ぐらい、中国の出版事情にまったく疎いので、高いのか安いのか分かりません。

 中国だからといって、著者に無断で海賊盤のように発行したわけではなく、きちんと原著の版元と出版契約を交わして出版したものだ。春先だったか、突然日本の版元から翻訳出版の印税が振り込まれて、どんな本に? と思っていら、その後、立派な見本誌が送られてきた。とはいえ売れ行きなどについて説明はなかった。

 ただ、この本はネット書店のAmazon china(アマゾン中国)でも売られていて、ランキングとかレビューが公開されているので、なんとなく反響のようなものは理解できる。自分でも驚かされるのは、12月現在ですでに44本もレビューが書かれ(日本語原著でも11本しかないのに...)、ランキングでは歴史書にカテゴライズされ、アジア史ランクで堂々の1位を続けている。歴史分野全カテゴリでもベストテンに入っていて、まあ中国国内でのAmazonの認知度や書籍市場にどれだけシェアを持ってるかなど未知の要素も多いのだが、とりあえず上位にいるというだけで多少は嬉しい気分になるものだ(オレが日本で本出しても売れないからね......)。

 ところで問題は、なぜそれは歴史書なのか、である。

 原著『アダルトビデオ革命史』はAmazon.co.jp(アマゾン・ジャパン)のランキングで見ると、エンターテイメント>サブカルチャー>性風俗、といったように、性メディアのランクに位置づけされるが(まあいちおう"社会学概論"などというカテゴリにも入っていたりするけど、順位はだいぶ下)、中国ではそうならない。

 そうならないのは当然の話で、中国において性風俗、性メディアは公には存在しないことになっているからだ。中国ではポルノも性風俗も建前上は法的に禁止されている。だからまず、中国のアマゾンにも「性風俗」というジャンルは存在しない。ポルノが存在しないということは、中国人は日本の「AV」というポルノも見たことはないはずなのだが......なのにこうして「日本AV影像史」なる書籍が出てそれなりに注目され売れてる不思議な現象がここにある。

 もちろん、とっくに皆さんは知ってるだろうが、政治的、法的には禁止されていても中国各地の盛り場には日本のAV商品があふれている。いや、日本だけじゃなくて世界中のポルノが売買されているし、ネットでも閲覧されている。当たり前だがポルノ禁止という法制度は建前に過ぎないのだ。

 日本製のAVに関しては、中国で販売されているのはほぼ全てがコピーされた海賊版だ。しかしそれでも若者には圧倒的な人気があり、中国で蒼井そらがどんなアイドルよりも人気があり影響力もあるという話は日本でも有名だ(それももう古い話かもしれないけど)。

『日本AV影像史』のコシマキにも蒼井そらと飯島愛の名前がキャッチコピーとして載っている(なぜか"大島渚推薦"の文字もあったりする。推薦をお願いしたことは一度もないし、翻訳されたのは亡くなられた後なのだが......)。

 それだけ認知度があっても、公式的には中国にはポルノはないはずなのだ。そして『日本AV影像史』はポルノや性風俗のない国で発刊されたから、「歴史書」にカテゴライズするしかないのである。つまり本書には海賊版でAVを見た人々が読む、日本AV"正史"というねじれがある。

 内容は至極真面目に翻訳されていて、アマゾン中国のレビューにも「この本にエロ表現はなく、すごく真面目に書かれている」というような文面がある。AV女優のヌード写真が載っていないことに不満を書いているレビューもあったりして、彼らの感覚はAVの母国・日本とほとんど変わらない。

 そして日本人と同じように(あるいは売れ行きから見るとそれ以上に)彼らはAVの歴史に興味を持っているのだ。時代が時代ならば中国はこの手の書物は発売禁止になったり所持しているだけで逮捕されたりするような国だったはずだが、今や『日本AV影像史』が堂々と書店に平積みされ、購入した人がネットに論評を載せてなんら恥じ入る所がないし、お誉めの言葉を多々書いていただいている。これが改革開放の成果だろう。そういう意味で、ポルノ表現規制をどんどん厳しくしている日本は、改革前の中国的体制に逆戻りしているのかもしれない。

 ネット報道によれば現在の中国には、ポルノ同様禁止されているはずの売春婦が推定2000万人もいて、「いっそのこと売春を合法化してセックスワーカーとして認めるべきだ」と言っているジェンダー学者もいる(その学者の李銀河という方も本書のコシマキで推薦人として名前が挙がっているのだが、これも大島渚同様に許諾をえているのか、本当に推薦してるのか謎)。

 2000万人といえば東京都の全人口よりも多いわけで、並行して取り締りもしているとはいえ、もう半公認のようなものだ。AV=ポルノもまた同じような半公認状況だし、実は海外から日本人女性が出演する無修正AVに資金を出し、世界に向けてネット販売しているサイトオーナーには中国系が少なからずいる。

 つまり完全な生産国あるいは撮影国ではないにしろ、中国は東洋人=日本人ポルノの制作に深く関与しているし、ことに無修整ポルノに関しては日本人よりも多くの商品を作り販売、配信して儲けている。これで中国在住の中国人女性が積極的にポルノへ出演するようになれば、中国が日本にかわり東洋人ポルノの盟主ってしまうだろう。その日も、そう遠くないような気がする。

 一方で、いまだ面倒なモザイク修正をして高い審査料払って検閲機関を通したガラパゴスポルノを作り国内のみに流通させる日本のAVメーカーはさっぱり儲かっておらず、そのあおりでAV女優は低賃金で使われることになる。

 国内のAVをガラパゴスとして横に置いておき、ネット配信される無修整ポルノこそがアジアの、あるいは世界のスタンダードという観点で見れば、なんと日本のAV制作プロは中国企業の下請け工場であり、日本人AV女優は低賃金労働者ということになる。そういう構図になることを推進しているのは「日本をとり戻す」を標榜する政府だ。さっさとポルノ解禁すればこんな搾取状況はなくなるのに。

 でも中国のポルノってダブルスタンダードだし違法な海賊版でしょ、と考える方は、日本の裏DVD(歌舞伎町なんかで"DVDどう?"と囁きかけてくるオジサンが売ってるようなヤツ)の事情を考えるといい。あれは海外のDVDショップが売っていたり配信サイトの動画のコピー商品だ。

 そして無修整ポルノは日本でも違法であるにもかかわらず、多くの人がそれを購入し、鑑賞している。海外サイトの有料配信無修正ポルノを違法コピーした無料動画でしかAVを見たことない人もいるでしょう。つまり中国も日本も状況に変わりはなく、ただ中国人のほうが上手く商売をやっている、ということになる。

 拙著ももしかしたら中国で売れているかもしれないが、今のところ自分に入ってきている印税は微々たるものだ。その意味で自分も、中国にうまく使われているだけな気もするが、まぁ興味ある人はアマゾン中国のサイトだけでも見てください。アカウントを登録すれば日本からでも『日本AV影像史』は購入できます。筆者もアマゾンから買ったけど、送料が意外に高くて、本代と合計で2000円ほどになった。いい商売だよな(涙)。

Written by 藤木TDC

Photo by djandyw.com

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