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「小保方リーダー」「稲垣メンバー」彼らはなぜ違和感ある呼称になるのか? by草下シンヤ

TABLO / 2014年4月11日 11時30分

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 STAP細胞問題で耳目を集める小保方晴子氏のことをNHKが「小保方リーダー」と呼んでいて違和感があった。リーダーという言葉はあらゆる組織やグループの長を表すときに使うものだから「小保方研究員」とするほうが無難だと思うのだが、NHKには独自の考えがあるのだろう。

 違和感を抱いたこの「リーダー」という呼び方で思い起こされるのが、芸能人や著名人が逮捕されたときにしばしば行われる「容疑者」の奇妙な言い換えである。

 最も話題になったものとしては、2001年に道路交通法と公務執行妨害でSMAPの稲垣吾郎氏が逮捕されたときに使われた「稲垣メンバー」というものだろう。この呼び方からはテレビ業界の生々しい力関係が垣間見えた気がして妙に胸がざわついたことを覚えている。

 この他にも、2004年に傷害事件を起こした島田紳助氏が「島田司会者」と呼ばれたり、2005年に当て逃げ事故を起こした小泉今日子氏が「小泉タレント」と呼ばれたり、挙句の果てには2007年に傷害事件を起こした布袋寅泰氏が「布袋ギタリスト」と呼ばれるなど、「容疑者」という言葉はさまざまな形に姿を変えて我々の前にあらわれる。

 マスコミ各社がなんらかの配慮をすることがある有名人と違い、一般人が逮捕されたときはもれなく「容疑者」と呼ばれるわけだが、起訴後に「被告」となり、刑が確定し収監されると「受刑者」へと変化することに注意が必要である。

 ちなみに巷間でしばしば「逮捕される」=「犯罪者」という見方がされることがあるが、法的には裁判等で有罪が確定してはじめて犯罪者となる。世の中には誤認逮捕などの事例も多いのだから、気に入らない友人が逮捕されたとしても「あいつは犯罪者だぜ」などと言いふらしていると、のちに証拠不十分で不起訴となり、名誉毀損などで訴えられる可能性もあるから気をつけなければならない。

 また、逮捕時の報道でよく目にする言葉に「自称」というものがある。たとえば次のようなものだ。

 兵庫県警尼崎南署は9日、電車内でトラブルとなった男性を殴り、けがをさせたとして、傷害容疑で大阪市北区本庄西、自称大阪市職員寺浦敦容疑者(34)を現行犯逮捕したと発表した。(2014年 4月 09日 11:31 時事通信)

「自称」大阪市職員となっているが、なぜ曖昧な言葉が用いられているのか?

この謎を解く鍵は「現行犯逮捕」というところにある。

 警察が前もって捜査を進め、万全の態勢で逮捕した者ならば個人情報はあらかた出揃っている。しかし、緊急的な現行犯逮捕の場合、その人間の身元を確認することは難しい。本人が取り調べの中で「俺は大阪市職員だ」と口にしていたとしても、裏がとれなければ誤報になってしまう危険性がある。そのため裏がとれていない情報については「自称」という冠がつけられることになるのだ。

 今年3月に千葉県柏市の路上で4人の男性が襲われ、2人が死傷した通り魔事件があったが、このとき逮捕された竹井聖寿容疑者も「自称無職」と報道されていた。逮捕がスピーディーに行われたことと、報道の速報性を重視した結果、このような呼び方になったものと思われる。「自称無職」「自称フリーター」などという一見すると不可解な呼び方には、職業や身元の裏とりができていないという事情が隠れているのである。

 ちなみに先程引用した「自称大阪市職員」逮捕のニュースの場合、その後、記事内容は次のように変化していた。

 兵庫県警尼崎南署は9日、電車内でトラブルとなった男性を殴り、けがをさせたとして、傷害容疑で大阪市北区本庄西、大阪市職員寺浦敦容疑者(34)を現行犯逮捕したと発表した。(2014/04/09-15:24)

「自称」が消え、「大阪市職員」と記されている。公務員ということもあり、すぐに身元の確認をとることができ、記事を変更したものと思われる。しかし、これは確認しやすい職業だったからで、たとえばはっきりさせることが難しい「作家」のような仕事ならばどうだろう。

 2012年に詐欺容疑で逮捕された黒田丞被告は詐欺で騙しとった金で購入した高級ブランドのスーツに身を包み、都内のホテルラウンジで小説家を騙る名刺をバラ撒いてナンパをしていたという。

 このケースは一般的には完全な「自称作家」だが、逮捕時の報道は「無職・黒田丞容疑者」となっていた。実際に出版したことなどないのだから当然の報道といえる。

 2013年に覚せい剤取締法と大麻取締法違反の容疑で逮捕された原田宗典氏は報道で「作家の原田宗典容疑者」と記されていた。原田宗典氏は数十冊の著作を持つ作家であり、「間違いなく作家である」という認識のもと、「作家」という言葉を用いたものと思われる。

 しかし、本を出版していたとしても、「作家」と報道されないこともある。

<みだらな行為>小林亜星さんの息子逮捕 青森県警

 青森県警弘前署は6日、県内在住の女子高校生にみだらな行為をしたとして、山梨県北杜市高根町長沢、自称作家、小林朝夫容疑者(52)を県青少年健全育成条例違反=淫行(いんこう)=容疑で逮捕した。(毎日新聞 6月7日(金)11時19分配信)

 小林朝夫氏も10冊以上の本を出しているが、ここでは「自称作家」の表現が使われている。原田宗典氏と比べれば作家としての知名度は低いが、「自称」がつくかつかないかという基準は判然としない。仮に2、3冊しか本を出していなかったとしても、そのいずれもがベストセラーになり、世間に作家として広く認知されていれば「作家」と報道されることになりそうだ。やはり知名度で判断されているということになるのか。

 わたしも10冊以上の本を出している。しかし、世の中における知名度は肉眼で判別しにくい六等星ぐらいのもの。逮捕されたときに「作家・草下シンヤ」となるのか、「自称作家・草下シンヤ」となるのか、非常に気になるところである。

 その答えを知るためには実際に逮捕されるしかないが、「小心者・草下シンヤ」としてはそのような機会は永遠にご勘弁願いたいところである。

Written by 草下シンヤ

Photo by Thomas Leuthard

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