「俺の平成史」に刻まれた名番組『ボキャブラ天国』 芸人が出て来ない初期が面白かった|中川淳一郎
TABLO / 2019年7月30日 11時30分
爆笑問題、さま~ず、ネプチューン、BOOMER、X-GUN、U-Turn、金谷ヒデユキ、パイレーツ、アンタッチャブルといった現在のお笑い界の中堅(社会人的にはベテラン)だが、彼らは『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)シリーズで大ブレークし、「ボキャブラ芸人」とも呼ばれる。
芸人がダジャレネタ等を披露する番組の中では、今では伝説のお笑い番組のように扱われているが、芸人が出るまでは視聴者投稿を基にした再現ドラマでダジャレの腕を披露しあっていたのである。私自身はその時の方が面白いと感じていた。すでに存在する歌の歌詞を変更するパターンと、なんらかの言葉をダジャレにする、というものだ。これに審査員の芸能人が評価をしていく。
『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」のような雰囲気だった(こちらの番組も司会はタモリ)のだが、とにかくこれらの中には秀作が多く含まれていたのである。ただし、今の観点からはコンプライアンス的に許されないものも多かった。だが、これも時代を映すものなので紹介する。記憶に頼っているため、若干細部は異なっているかもしれない。
【1】ミシンで裁縫をしている女性が登場。水前寺清子の『365歩のマーチ』のサビ部分のテロップが出るのだが、そこで「ミシン針が指に刺さり貫通、貫通」となり、女性は悶絶。
【2】横浜マリノスのユニフォームを来たデブが3人いきなり飛んできて両手を広げて通せんぼをする。するとテロップの「横浜マリノス」が「横幅アリマス」になる。
【3】イトーヨーカドーの建物の巨大なロゴが登場。カメラが入口の方に向くと男性が立っている。そこにもう一人の男性がやってきて「イトーヨーカドー」のテロップが。そして、男性の一人が「伊藤!」でもう一人が「よー、加藤!」と言うとテロップは「伊藤、よー加藤!」に変更される。
【4】ある相撲部屋、力士が一人になり、存続の危機が迫りおかみさんは悩む。そこに唯一の所属力士がおかみさんのところにやってきて「新弟子来ました」と報告。ホッとするおかみさんだが、そこに赤ふんどしのデブが腹を撫でる映像が登場。「死んでしまおうなんて」という歌詞のテロップが出ると「新弟子モーホーなんて」とテロップが変わり、その新弟子が兄弟子に色目を使い、体を触りまくる、というものだ。
【5】『大阪で生まれた女』という歌がある。サビの部分はこの曲名の後に「やさかい」がつく。「大阪で生まれた女だから」という意味だが、水商売風の女が大阪の道を歩いている。そこで突然踏まれてしまう。そこで「大阪で踏まれた女やさかい」となるのかと思ったら、オチで「他界」と入り、「大阪で踏まれた女が他界」となり、仏壇に遺影が飾られるのだ。こうした「2段階ボケ」というのも同番組の魅力だった。
参考記事:タイタン・太田光代社長との「不倫疑惑」、「パンツ盗難疑惑」について|吉田豪 | TABLO
最近こうした視聴者投稿系の番組は減少しているが、一体なぜかと思ったら、ツイッターだろうがYouTubeだろうが、面白いと思ったことはすぐに発表できるようになったことも影響しているのではないだろうか。世の中にそのネタが発信されるかどうかを他人に委ねるのではなく、自分の判断で世に披露することができるようになった。
とはいっても、いわゆる「再現ドラマ俳優」の大袈裟なアホな演技があるからこそ面白いわけで、素人ではあの面白さは出せないだろう。
時々芸能人が自身の作ったネタを披露するような回もあったが、その中でもっともよく覚えているのは、神田正輝が元妻・松田聖子のヒット曲『青い珊瑚礁』の歌を基に曲の冒頭の歌詞を「あ~、バタ足~のお~岩」と変えたものだ。再現ドラマでは遠くから海で泳ぐ白い着物の長髪の女が登場。近づくと、バタ足をするお岩さんというものだった。
この頃はエロいネタの投稿が多かったのだが1994年、オリックス・ブルーウェーブのイチローが大ブレークした時、私も投稿してみた。「ブルーウェーブのイチロー」にかけ、「すぐー萎えるの、イジロー」というネタだが、当然こんなものが採用されるわけもなかった。これが私の唯一のテレビ、ラジオ、新聞への投稿である。(文◎中川淳一郎 連載『俺の平成史』)
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