1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

アメリカ進出に成功した野茂英雄投手がもたらしたもの 国内スポーツメディアの問題点 日本選手だけにフォーカスし過ぎ|中川淳一郎

TABLO / 2019年10月8日 10時37分

画像はビデオ『NOMO!』より

平成の野球を考えるにあたり、重要だったのは野茂英雄の渡米である。今のように日本人選手が続々と海を渡る先鞭をつけたという意味で実にエポックメイキングだった。1980年代前半のプロ野球選手名鑑を見ると日本ハムに村上正則という投手がいて、これまでの経歴として「SFジャイアンツ」とある。

当時は「サンフランシスコ・ジャイアンツ」というMLBのチームがあるのを知らなかったため、「SF(サイエンス・フィクション)」なのかな、と奇異に思っていた。この村上氏がアジア人初のメジャーリーガーだったわけだが、野茂はこの約30年後に近鉄から任意引退をし、ロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約を結んだ。

当初、日本のメディアの中には「我がままだ」や「通用しない」などと酷評する向きもあった。だが、野茂はすぐさま大活躍をし、オールスターゲームでは先発の大役を任された。前年ストがあったMLBは暗い雰囲気で開幕したが、野茂の活躍が救いになった、といった論評もあった。

あの「トルネイド投法」はアメリカ人も真似し、「野茂が投げれば誰も得点できない」といった歌詞の歌も登場し、これは日本語にも訳された。この歌のPVでは、多くのアメリカ人が一斉にトルネイド投法をマネしていた。

サッカーでいえば、野茂の前年に三浦知良がセリエA・ジェノアに移籍し、大きな話題となったが、イタリア屈指のDF・フランコ・バレージと激突して1ヶ月の戦線離脱を余儀なくされ、その後も目立った活躍はできなかった。

そんな翌年の野茂の大活躍である。そして、この活躍がもたらしたものが何かを述べると、珍妙な報道である。

参考記事:張本勲から考えるコメンテーター論、彼を黙らす最終手段とは?|プチ鹿島の『余計な下世話! | TABLO

「松井秀喜は4打数1安打1打点(中略)なお、試合はヤンキースが2-5でレッドソックスに負けた」

ここの「中略」部分では、ヤンキースの松井がこの試合で守備も含めどのような活躍をしたか、観客の反応はどうだったか? 現地メディアはどう報じたか、などが記述されている。最後の「なお」という言葉の意味は、つまり、試合の結果はさておき、海外チーム所属の日本人選手の成績だけが重要で、試合の結果は二の次、ということだ。

私自身、こうした報道はあまり好きではない。というのも、アメリカに約5年住んでいたのだが、テニスのウインブルドン大会やサッカーW杯、オリンピックを除き、海外在住のアメリカ人選手の活躍ぶりを報じることなどないからだ。そこにアメリカのすさまじき実力とプライドを感じたのだ。

たとえば、スポーツ専門チャンネルのESPNが「ランディ・バースがこの日2本の本塁打を打つ大活躍をした。なお、試合はハンシンがキョジンに5-8で負けた」なんて報道をするわけがない。

彼らは他国のバスケリーグと野球リーグのことをNBA、MLBの格下とみており、それらのリーグに行った選手を「都落ち」扱いする。あくまでも国内リーグのことだけ報じれば良いと考えていたわけで、バースが阪神時代に三冠王を取ろうが大々的には報じなかったのでは。

こうした報道スタイルを知っているだけに、日本人メジャーリーガーやサッカー選手がどれだけ活躍したかを報道の中心に据えるやり方に違和感と劣等感を覚えてしまったのだ。

結局「オラが村のヒーロー」が「世界様」でスタメンを取ったことや、チームメイトと見事な連携をしたことなどを絶賛するようなスポーツ報道が今でも定着しているのである。

関連記事:「IT`S SHOW TIME!」 大谷翔平選手のトレーディングカードが高騰で約72万円に! | TABLO

野茂を含めた日本人選手の活躍は確かにすごい。

でも、こうした形の報道は日本人選手が所属するチームの別の選手に対して失礼なのではなかろうか。MLBやサッカーの欧州4大リーグの選手達はワールドシリーズ出場やUEFAチャンピオンリーグ出場を目指し日々頑張っているわけで、チームがこれからどうなるかや自分自身の課題などをメディアには話したいはず。

それなのに、日本のメディアは「オオタニについてどう思うか?」やら「カガワについて意見くれ」などと日本人選手に関する質問ばかりする。

これが日本の視聴者や読者が求めることだから仕方がないだろ、とは思うものの、結局このような質問をするというのはコンプレックスの表れである。今年はワシントン・ウィザーズの試合で八村塁が同様の報道のされ方をされることだろう。

野茂自身に何の責任もないが、結果的に野茂があそこまで活躍したことが、今の「〇〇(日本人選手名)は……(中略)なお、試合は……」形式の報道だらけになった端緒といえるかもしれない。(文◎中川淳一郎 連載「俺の平成史」)

あわせて読む:平成の音楽シーンを席巻した『小室ミュージック』を大学の授業で教授に聴かせてみた結果|中川淳一郎 | TABLO

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください