「元犯罪者雇用の奨励金制度」が裏社会の新たな金脈になる可能性
TABLO / 2014年11月20日 19時0分
警視庁の発表によると、平成25年末の時点で全国の暴力団構成員と準構成員の数は5万8600人と前年より減少した。これは統計を取り始めた昭和33年以降で最少の数字だ。暴排条例の締め付けがじわじわと浸透し、成果が表れてきているのかも知れない。しかし、暴力団員が減ったという事は、組織を辞めた「元暴力団員」が増加しているとも言える。暴力団を辞めた人間は果たしてどこにたどり着くのか。
組織という足かせがなくなった人間は、歯止めが利かずに非道の限りを犯してしまう危険性もある。それまでは組織のルールに縛られていた連中が、さらなる悪事に手を染めてしまう可能性は否定できない。昨今、ルール無用の「半グレ」がのさばってきたのも、これと無関係ではない。
こういった現象は数字にも表れている。たとえば保護観察の終了時点で仕事を持つ出所者の再犯率が7.5%なのに対し、仕事を持たず無職だった出所者は30%が再び罪を犯しており、その差は約4倍にも上っている。
彼らの再犯率を下げるために法務省は出所者を雇う協力雇用主に対し、1年間にわたって最大72万円(出所者1人当たり)の奨励金を支給する新制度を来年4月から始める。出所者の年間新規雇用を現在の約2500人から約4000人に増やした上で、新たな職場への定着も実現したいとしている。
だが、この制度にも落とし穴がある。善意で刑務所からの出所者を雇用したはいいが、そこで発生するトラブルは少なくないという。東京・多摩地区で建設会社を経営していたAさん(53歳)のケースを紹介しよう。発端はあるNPOからの提案だった。
「あるNPO団体が、『出所者の社会復帰に協力してほしい』と言ってきたのがキッカケでした。私らの業界は慢性的な人手不足で前科者を雇うことには抵抗もない。それに賃金も低く抑えられるというのが魅力的でした」
Aさんの建設会社では最盛期で最大8人雇用した。当初は真面目に働いていた彼らだったが、しばらくすると会社がおかしなことになっていったという。
「半年も過ぎた頃から、彼らが他の従業員を脅したり、イジメたりして、どんどん辞めさせてしまい、結局は元暴力団の人間しか残らなかった。最終的に私の会社は元暴力団員の連中に乗っ取られてしまったんです。紹介してきたNPO団体は国の協力雇用主に登録していると言い張っていたが、今思うと彼らが仕組んだとしか考えられません」
こういった形の会社乗っ取りは、暴力団の典型的なやり方である。かつては暴力団の隠れ蓑は政治結社であったり、宗教団体だった。しかし、時代も移り変わり、現在は社会貢献を謳ったNPOがその代替えとして台頭している。
法務省の来年度予算で計上された刑務所出所者の就職奨励金の十数億円を裏社会に流さないためには、警察当局との連携も必要であろう。果たして善意の協力雇用主は守れるのか。裏社会にとっての「新たな金脈」とならないことを祈りたい。
Written by 西郷正興
Photo by Nicolas Alejandro Street Photography
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
公募、年齢制限の撤廃…非行少年を支える「保護司」確保へ中間報告
毎日新聞 / 2024年3月28日 18時16分
-
「二度と罪は犯さない」信じ伴走 生きづらさに寄り添う福祉専門官
毎日新聞 / 2024年3月28日 12時30分
-
刑務所の前で「出待ち」を毎朝続けるひとりの男性、何をしている? 「刑務官はいい顔をしないが、やめられない」同行して分かった理由と覚悟
47NEWS / 2024年3月24日 10時30分
-
性犯罪「刑が軽すぎる」と怒りの声多数…現行の法律ではどうなっている? 弁護士に聞く
オトナンサー / 2024年3月16日 8時10分
-
「修羅場をくぐって来た私も“人生、終わった”と思った」日本初の「女性暴力団員」と認定された女性がもっともヤバいと思った瞬間
集英社オンライン / 2024年3月15日 16時1分
ランキング
-
1宝塚歌劇団の俳優死亡 上級生からの謝罪文を遺族に手渡す方向で検討 遺族代理人があす交渉内容について会見予定
ABCニュース / 2024年3月27日 22時14分
-
2「G-SHOCK」のカシオが“一人負け状態”に。セイコー、シチズンと明暗が分かれた理由
日刊SPA! / 2024年3月28日 8時53分
-
3廊下に段ボール箱の「専用ロッカー」、児童に使わせる…保護者「指導の域を超えている」
読売新聞 / 2024年3月28日 6時40分
-
4無料で薬をもらえると思っていた74歳の女、薬局で大立ち回り…追跡1年5か月逮捕 札幌市
STVニュース北海道 / 2024年3月28日 12時12分
-
5退職4日前の県民局長、異例の異動…知事「事実無根文書で職員の名誉傷つけた疑いがある」
読売新聞 / 2024年3月28日 6時59分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください