中年汁男優を描いた映画『おやじ男優Z』はなぜ高評価なのか

TABLO / 2014年12月8日 14時0分

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※汁男優とは?

AV撮影の際にカメラのフレームの外側で待機し、ここぞという場面で "発射" するだけの最下層のAV男優で、原則として女優の身体に触れる機会すらない。 1発あたり2~3,000円が相場。

 ところが、この作品は今年2月に『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014』に出展したところ、客入りで苦戦したのは初回だけ。2回目は多数のリピーターと口コミで大盛況となり、満席+立ち見で主催者から「もう客を入れるな」と注意されるほどだったという。

 しかし、この映画には大きな弱点があった。監督もプロデューサー陣も、一般作品の広報・営業といった興行のノウハウが殆どなかったのだ。というのも、監督の池島ゆたか氏はピンク映画だけを120本以上撮り続けてきた「ミスターピンク」と呼ばれる人物で、ピンク映画業界の事しか知らない。またプロデューサーの空乃氏など、たまたま事情があって池島監督に金を出しただけで、普段はAV女優のサイン会に並ぶのが趣味の、単なるレズAVオタクである。

 それ以外のスタッフ・出演者の大多数も、池島監督の挑戦を意気に感じて集まったピンク映画業界の人間ばかり。そんなメンバーで場当たり的にどうにかしようとしているのだから、公開に漕ぎ着ける事すら至難の業と言うしかない。

 ピンク映画の場合は、撮影が終わった後は宣伝から上映まで配給会社に任せきりなので、池島監督および池島組のスタッフは、一般作品を興行化する方法を泥縄で学んでいったも同然だった。そんな実にインディらしいドタバタを経て、夕張の映画祭から8ヶ月後にやっと劇場公開が決まる。

 結果から言うと、こんな不安要素しか見当たらない映画『おやじ男優Z』は、渋谷ユーロスペースでの初上映に大成功。ここでも上映期間中に何度も観に来るリピーターが出現し、彼らがSNSで情報を拡散してくれたお陰か、館内が立ち見客で溢れかえるほどだった。

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 さて、本来ならばここから『おやじ男優Z』のあらすじを紹介し、映画紹介記事として無難に終わらせるのが最も楽なのだが、今回はそういった王道を無視させていただく。というのも、この作品は世間に伝えるべき"現実世界での信じられない奇跡の連続"があまりにも多すぎ、映画の内容について語る余裕がないのである。映画が完成に至るまでの経緯は、素人が暇つぶしで書いたライトノベルかと言いたくなるほどチープなご都合主義ドラマで、事実をそのまま伝えても絶対に信じて貰えないような代物なのだ。

[西成のオッサンの遺言]

『おやじ男優Z』のプロデューサーである空乃氏は、その日も日課の大阪日本橋でのAV女優のサイン会巡りを楽しんでいた。すると、とあるビデオ屋で怒鳴り声を聞く。事情を聞いてみると、ホームレスのオッサンがAVを万引きしたので、店員が捕まえたのだという。お人好しの空乃氏は、不憫に思ってDVD代を払ってやり、挙句に店の近くのラーメン屋で飯を食わせてやった。そこでオッサンが西成の木賃宿のような場所で寝泊まりしていること、そこの広間にDVDプレイヤーがあるので、皆が見られるようにAVを土産にするつもりだったこと、昔は会社の経営者だったことなど、様々な身の上話を聞く。

 それからしばらく経ち、空乃氏がいつものように日本橋のビデオ屋でAV女優のサイン会の列に並んでいると、そこにあの西成のオッサンが現れ、突然50万円もの大金を突き付けて来た。なんでもガンの余命宣告をされたそうで、空乃氏に人生最後の頼み事をしに来たのだ。

「この金で池島ゆたかに監督を、五代暁子に脚本をお願いして、映画を撮って貰って欲しい。 あんたAV好きらしいしツテがあるだろ?」

 空乃氏はレズAVが好きというだけで、業界に強いパイプがある訳ではなく、そもそも池島ゆたかを知らなかったため、流石にその金は受け取れなかった。ただ、その後ずっと「世の中には大勢の映画監督がいるのに、なぜあの男性は池島監督に大金を託そうとしたのだろう? そもそも池島ゆたかって何者だ?」という疑問が頭から離れなかったという。

 生粋のオタクである空乃氏は、この疑問を解決するためにピンク映画のこと、池島作品のこと、ピンク映画を支える客層のことなどを後付けで学んだ。 その結果「ピンク映画館とは、年配の日雇い労働者やセクシャルマイノリティなど、社会で弱者と見做されるような人々が、一時だけでも日常を忘れるために、クシャクシャの1,000円札を握り締めてやって来る場所である。池島ゆたかは彼らの想いを汲んで作品を撮り、彼らと一緒に泣き、笑える監督である。ならばあの男性への手向けになるような作品は、やはり池島にしか撮れないのだろう」 という結論に至った。

 空乃氏は西成のオッサンの代わりに自力で数年かけて300万円を金策し、約束通り池島ゆたかに直談判をしに行った。場所は池島作品を特集していた某ミニシアター。上映後の懇談会で、空乃氏はあの西成のオッサンを真似ていきなり300万円入りの分厚い封筒を手渡し、映画撮影をお願いした。これが 『おやじ男優Zプロジェクト』 が本格始動した瞬間である。

[坂ノ上朝美の置き土産]

『おやじ男優Z』 のヒロイン・夏目ゆりあを演じる坂ノ上朝美は、グラビアタレントから女優に転身するも、これといって結果を残せず引退を決意した。 引退が決まってから、事務所からのはなむけとばかりに某写真週刊誌のグラビアと、今回の映画への出演が決まる。 そして映画のクランクアップと共に姿を消してしまったのだが、彼女もまたいくらなんでもファンタジーすぎるミラクルを巻き起こした。

 彼女は、最後のブログ更新でこのような言葉を残している。

◇◇◇

http://ameblo.jp/sakanoue-asami/entry-11729761620.html

「坂ノ上朝美は、もう、いなくなりますが、来年公開予定の映画、女優魂をぶつけた、オヤジ男優Zが、みなさんへの最後のプレゼント? です。私がいなくても、作品はずーっと、生き残るんです。撮影会の写真や、DVDや、映画館での映像...ずっと残ります。」

◇◇◇

 彼女が「ずっと生き残る」と言った最後のグラビア(人生初のヘアヌード)は、週刊誌のグラビアページの切り抜きがネットオークションで取り引きされるほどの大反響を巻き起こす。このまさかの事態に所属していた事務所などが面食らい、慌てて写真集として発売することを決定。だが、彼女のその後の消息が解らなかったため追加撮影が出来ず、ページが足りない分はおやじ男優Zの現場スチールやオフショットまで使って無理やり埋めたという。 こうして世に出た坂ノ上朝美の最初で最後のヘアヌード写真集『わすれな草』は売れに売れ、現在は品薄状態のためオークションサイトでは15,000円(最安値)という金額が付けられている。

 プロデューサーの空乃氏は、馴染みの日本橋のビデオ屋を訪れた際に、店員らから「坂ノ上さんは復活しないんですか? サイン会や撮影会はできませんか?」と何度もせっつかれたという。「もし今あの子が復活して撮影会でもやってくれたら、国立競技場が埋められますよ! だってAKBの写真集より実売で倍以上なんですから!」という大げさな声も挙がったほどだ。

 夢破れて芸能界を諦めた女性が、去り際に文字通り裸一貫で勝負を賭け「無名タレントがトップアイドル相手に圧勝する」という結果を残したのである。

[現実か? 創作か?]

「映画の後半に、夏目ゆりあとおやじ男優達との別れが描かれているんですが、そこでこういう台詞があるんです。私は彼女の本名も何も知らないって。事実、ボクらは朝美ちゃんの事を何も知らないんですよ。どうやら新潟出身らしい程度しか。しかも本当にその後の消息も解らない。また映画の中で、AV引退を決意したゆりあが汁男優達に置き土産を残して辞めていくというシーンがあるんですが、実際の朝美ちゃんも写真集がまさかの大ヒットという置き土産を残してくれたでしょう? あれのお陰で映画に興味を持ってくれた人も多いだろうし、現実とリンクし過ぎているんです」

 現実とのリンクと言えば、作中には様々な小ネタが盛り込まれているが、実はその殆どが実話である。 AVやアンダーグラウンド業界を知らない人などは荒唐無稽と感じるかもしれないが、業界内の人間からするとウソがなさ過ぎるのだ。 唯一それは有り得ないだろうと思ったのは「業界のトップ女優が中年の汁男優が共同生活するボロ屋に逃げ込んで来る」という設定だけである。 それがこの映画の "たったひとつの優しいウソ" だと言えよう。

[華のないオッサンだらけの広報活動 = 終わらないエピローグ]

 主演の坂ノ上朝美がいない以上、この映画の広報活動ができる人間は池島監督や俳優達くらいしかいない。普通は映画というと主演のキレイどころがあちこち回るものだが、この映画に関してはその手法が不可能なので、40~60代のむさ苦しいオッサン連中が中心となって老体にムチを打って駆けずり回っている。例えばなかみつ氏などは、豪雪の夕張で汁男優の正装(白ブリーフ一枚)でZポーズを決めるパフォーマンスを繰り返し、1人でも多く集客しようと身体を張った。そうした滑稽かつ哀愁漂う光景は、まるでゆりあを失ったおやじ汁男優が必死で足掻いているかのようで、映画のエピローグに見えてしまう。様々な要素が現実とリンクし過ぎてしまったが故に、終わらない映画になってしまったのだ。

 池島監督は坂ノ上朝美についてこう語る。

「彼女の置き土産に応える意味でもさ、我々はこの映画を成功させないといけない。この映画の成功を田舎のどこかにいるであろう彼女が知ってくれたら、それが坂ノ上朝美への最高のはなむけになると思うんだ」

 西成のオッサンの遺言から始まったかのような『おやじ男優Z』は、現実世界で奇跡と人情ドラマを何層にも重ねながら膨れ上がっている現在進行形のプロジェクトだ。この映画はファンタジーを盛り込んだ人情もののように見せかけて、実はドキュメンタリーよりも深く現実を描いている。シナリオの中心になっているのは「絶望のどん底にいる中年男の再生物語」ではあるが、全体的にサラっと見られる軽妙なタッチで描かれており、笑いの要素も強い。

 だが、同時にこの映画に関わった大勢の人々の情念を感じる事ができ、他にはない独特の空気感を醸し出している。 固すぎず、重すぎず、娯楽として消化できるバランスで、されど見終わった後にじんわりと何かが残る。 それに惹かれてついつい二度三度と劇場に足を運んでしまう。 もしかするとこれこそピンク映画の魅力であり、西成のオッサンが人生の最後に 「池島に映画を!」 と思うに至った理由なのかもしれない。

『おやじ男優Z』 は設定こそキワモノに感じるが、中年汁男優と売れっ子AV女優が織り成す人間模様を通して、このどん底の時代に生きる人々そのものを描いているだけなのだ。

【特別付録】 最初に書いた原稿の一部

 とにかく主演の坂ノ上朝美の身体がすごい。美巨乳・美乳首・美尻に見事なくびれ、そしてなんとも肉付きがよく美味しそうな太もも。作中ではそんな彼女が乳をまさぐられ、舐め回され、合体におフェラ描写まであるなど、体当たりの濡れ場に挑戦してくれている。

 近頃はAV女優のクオリティが高まったと言われているが、彼女がもしAVの世界に入ったならば、間違いなく一瞬でトップに登り詰められる逸材であろう。しかもこの卑怯過ぎる身体があれば、長ぁ~く稼ぎ続けられるのではなかろうか?

 彼女は過去に何枚かDVDを発売しているが、カラミのシーンなどなく、そもそもヌードを披露するのもこれが最初で最後だ。この神がかり的な肉体を堪能できるラストチャンスなので、世のエロ紳士の皆様は千円札を握り締めて劇場へ向かって欲しい。

Written by 荒井禎雄

Photo by Twitterより

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『おやじ男優Z』

11月15日~11月27日 大阪・十三『シアターセブン』 にて連日上映中

11月22日~11月25日 名古屋・『シネマスコーレ』 にて上映予定

↑上映情報の詳細はコチラで。

■Cast なかみつせいじ、牧村耕次、竹本泰志、坂ノ上朝美、竹下かおり、星野ゆず、吉行由実、那波隆史、沢村麻耶、倖田李梨、日高ゆりあ、世志男、野村貴浩、他

■Staff

監督:池島ゆたか 原作:有末 剛 脚本:五代暁子 撮影監督:志賀葉一 編集:山内大輔 音楽:大場一魅 プロデューサー:池島ゆたか、森口あゆみ エグゼクティブプロデューサー:空乃雲之、大池 潤 製作:月の石、セメントマッチ

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