AVや風俗業界で人身売買はあるのか?告発系記事への反論【前編】

TABLO / 2015年8月28日 14時0分

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 ここ何年か、日本の人身売買を問題視する告発系の記事が増えたように思うのだが、その中にはエロ業界(AVや風俗)の人間からすると事実からかけ離れた、非常に疑わしい内容も多い。特に、売春などのイリーガルではなく、AVや性風俗まで人身取引などと呼び、性的搾取や女性の権利侵害と結び付けたがる思想の持ち主が発する情報にそのようなパターンが多く、発信者は女性団体や女性の権利問題を専門的に扱う弁護士などだ。

 しかし、そうした発信者がもたらす情報は何かがおかしく、どう贔屓目に見ても 「気持ちは解るが、それをやっては逆効果では」 と言いたくなってしまう場合が多い。例えば、ごく最近ネットで話題になった記事にはこのような記述があった。

(※以下は筆者要約)

 ◇◇◇

・スカウトされ、軽い気持ちからプロダクションと契約書を交わしてしまった

→ 現場に行ったら当初の話には無かったはずのヌード撮影だった

→ ビデオが発売されたのにギャラも支払われなかった

→ 辞めたいと言ったら違約金を持ちだされ、断り切れずにAVの撮影を強行された

→ AVの撮影現場に行ったら多人数物だった

→ 再度辞めたいと申し出たら親にバラすと脅され、違約金も跳ね上がっており、おまけに9本契約を結ばれていた

→ 民間団体に相談し、契約解除の書類を送ったところ、自宅にプロダクションの人間が押しかけるなどの迷惑行為を受けた

→ 2,000万円を超える違約金の支払いを求めて訴訟を起こされた

◇◇◇

 これだけを"事実だ"として読むと、何とも許しがたい話なのだが、もし身近にAV業界人がいたら読後に感想を聞いて欲しい。おそらく返ってくる言葉は「これいつの時代の話?」といったものではなかろうか。もしくは「これって流通のしっかりした"いわゆるAV業界"の話じゃないでしょう」とか「誰がやっているか解らないような無修正サイトの話じゃないの?」といった声も挙がるだろう。早い話が、AV業界の内情をよく知る人間からすると、あまりに現実から剥離し過ぎた話なのである。では、どこがどうおかしいのか細かく説明していこう。

●現状のAV業界は金がないので、裁判リスクは何が何でも回避したい

 まず覚えておいて欲しいのがこの点で、十数年前のAV業界ならば、ヒット作品が何本か続けばすぐに億の金が入って来たので、ヤクザ者も含めて多少の無茶なら平気でヤラかす人間も少なからずいた。その時代には、昔ながらの酷い女衒手法もまかり通っており、その被害に遭う女性も多かっただろう。それは事実だ。

 ところが、現在は無料でいくらでも性器が見れてしまい、なおかつtorrentなど逮捕者が続出しているファイル共有ソフトで、新作AVが発売日前にバラ撒かれるような時代である。お陰で業界に回る金は減少を続け、今や超大手メーカーであっても2,000本も売れたら大ヒットと呼ばれるまでに規模が縮小した。2,000本といえば、卸値が1本1,500円として、たかだか300万円だ。これが悲しいかな今のAV業界の実情である。そんな状況なのだから、昔のような1日数百万円などという高額のギャラを取れる女優など殆どいない。

 今はMAXで300万円に満たないのではなかろうか。 よってプロダクションに回る金も昔とは比べ物にならないほど減少しており、そんな中で多額の賠償金を支払わせられるようなヘマをやらかせば、一発で会社が吹き飛んでしまう。

 そんな内情なのに、記事で言われるような民事どころか刑事罰を喰らってもおかしくないような迂闊なマネをするだろうか。知人のAVプロダクションの人間にそれとなく聞いてみたところ「今はそんなヤクザめいたやり方が出来るダクションなんか無いんじゃないですか? ウチなんかもそうですけど、女の子をなだめすかして、お姫様扱いして、なんとかテンションを維持して仕事に出てもらう事に必死ですよ」とのこと。 おそらく今の"AV業界"では、この意見が最も事実に近いと思われる。

●デビュー作でいきなりハードな現場に放り込まれる事はほぼない

 デビュー作がいきなり多人数物のハードな現場だったという話についてだが、『単体 >> 企画単体 >> 企画(※)』と女優を格付けした場合、まず企画単体や単体の女の子に、デビュー作でいきなりハードな現場を用意するプロダクションはまずない。女の子がどうしてもハードなプレイがしたいと駄々をこねたなど、よほどの理由がない限り "ない" と断言していい。考えられるとすれば、女の子が企画女優レベルだった場合だけだ。しかしこれにも疑問点が残る。

※ 解りやすくプロレスに例えると、単体女優はシングルマッチ専門、企画単体(キカタン)女優はシングルにもタッグにも出る、企画女優はバトルロイヤルにしか出られない

 なぜデビューでハードな現場があり得ないかというと、これはAV女優の旬の問題に直結する。AV女優は(専属契約をしない限り)、通常最初の1~2本くらい(初月の仕事)が最も高いギャラで仕事が取れる。AVファンは正直なので、新鮮味のある女の子の出演作を好む(=売れる)からだ。

 よって、最初の内はマイルドな内容の作品にだけ出演し、売れ行きが落ちてくる頃に、ちょっとずつプレイ内容を解禁していって、よりハードな路線に進む。それによって仕事の数とギャラの金額を維持するのだ。メーカーの専属契約というのは、その旬の時期をメーカー1社に預ける代わりに、通常より高めのギャラを払って貰うという契約である。

 こうした背景を元に考えると、デビュー作でいきなり数人の男を相手に絡ませるなど、女優の最も高く売れる時期を自ら逃すような行為であり、プロダクションにも女優にも何のメリットもない。よって、単体や企画単体レベルの女の子にそれをやらせるのは考えられないのである。

 また、金になる子はプロダクションにとって生命線なのだから、昔ながらのヤクザめいた恫喝でどうこうするより、焼き土下座でも何でもして、とにかく女の子にその気になってもらい、少しでも長く業界で活躍してくれる事を望む。 間違っても騙して脅して使い捨てなど出来ない。

 では上で少し触れた "企画女優レベルの場合" を考えてみるが、企画レベルの子は正直言ってギャラが1本5万~10万程度である。その内プロダクションが半分持って行き、残りが女の子に入るとして、そんなみみっちい商売にしかならない子に対し、賠償金どころか刑事罰直行なんてリスクを負うだろうか。

 また、AV女優は現場に入るとプロダクション以外の人間と接する機会が多い。マネージャーが張り付きという場合も考えられるが、それには人件費がかかるため、よほど期待できる女の子でもない限り現場に1日張り付かせるなんて事は考え難い。基本的には現場への送り迎えだけやって、頃合いを見て現場を離れ、他の女の子の送り迎えに動くというのが当たり前の仕事内容になるだろう。 であれば、相談できる相手や助けを求めるチャンスが全くない訳ではない。撮影があるたびに、近くに何もない山の中へ連れて行かれ、携帯を取り上げられて働かされるなんて状況は、ちょっと考え難いのだ。

 そもそも、人のいない山の中で撮影するには金がかかる。今の困窮するAVメーカーが、何本売れるか解らないような安い女の子の作品に、地方ロケを組む撮影予算が捻出できるだろうか。演者の移動用の車の手配や高速代で、女優の出演料を超えてしまう可能性もある。もし私がそんな状況で監督しろと言われたら、スタッフのアパートを借りてハメ撮り物を撮る事を選ぶだろう。

 また、辞めたいと言うと「親にバラすぞ」と脅されるという件についてだが、これなどAVメーカーやプロダクションが最も恐れる「親バレ・身内バレによる引退=飛び」という最悪の話である。こうなると撮影済みのものも世に出せなかったり、ギャラの返金も生じてしまうため、プロダクションからすれば何が何でも避けたい話だ。これを逆にプロダクションの側から脅しに使うとは、まったくもって考えられない。過去にも親バレや彼氏バレなどで、何人の人気AV嬢が消えて行ったことか。中にはDMMなどの販売サイトから一切の名前が消えた子までいる。

 次に9本契約されていたという点についてもツッコミを入れねばならない。9本という具体的な数字が上がったならば、それは恐らくどこかのAVメーカーが専属契約をしてくれたという事ではないだろうか。であるならば、その女の子は相当期待されている証拠で、お姫様扱いされなければ話がおかしい。やはりこの点についても騙して脅しての対象になるとは到底思えないのだ。

 一言でぶった切ってしまうのも心苦しいが、女性団体や弁護士といった方々が主張する "人身取り引き被害の実態" は、どう考えても 「余計に金がかかる、余計にリスクが大きくなる」 のである。(続)

Written by 荒井禎雄

Photo by ManNg

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