『ノストラダムスの大予言』時代はなんと平和だったのか! コロナ騒動を「予言していた!」と言い出す者に今後は要注意|中川淳一郎
TABLO / 2020年3月31日 11時51分
写真はイメージです。
今はコロナで世界中が右往左往しているが、1999年8月、心底ホッとした人もいたのではないだろうか。それは、ノストラダムスの予言にある「年は1999年と7ヶ月 恐怖の大王が天より姿を現すだろう 彼はアンゴルモアの大王を蘇生させ その前後は火星が幸せに支配する」というものの呪縛から解き放たれたからだ。「あぁ、1999年7の月はようやく終わったか……世界は滅びなかった」といった安堵があったのである。
さすがに私も1999年7月はもう25歳になっていたため、ノストラダムスの予言は99.8%は信じていなかったが「ひょっとして……」という恐怖はあった。我々のような1980年代の小中学生はノストラダムスについては本気で心配していた。
事実、1999年7月に入ると「どうせもう世界は滅びるんだ!」とばかりにヤケになって大金を使いまくる者もいたという。こうした種類の人々は、最後までノストラダムスの大予言で大儲けした五島勉のペテンに騙されたわけだ。まぁ、昭和の時代なんて「川口浩探検隊」をゴールデンタイムでやっていた胡散臭すぎる時代なだけにノストラダムスも許容されていたのだろう。
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昭和の時代、「オカルトブーム」があったが、確かに私も小さい頃は宇宙人が地球を侵略する、といった話を信じていた。地球に人間がいるのだから、地球以外にも当然生命体が誕生する条件はあってもおかしくないと思っていたのだ。
学校の図書室にもこうしたオカルト本はあり、ネッシー、雪男、クッシー、吸血鬼などが多数紹介されていた。宇宙人に関するページには、池袋のサンシャイン60が写る横断歩道の写真があり、キャプションには「この中に宇宙人がいるかもしれない……」と書かれてあった。
今、編集者になったので分かるのだが、編集部が「この中に宇宙人が混じってます!」と言いたいのではなく、あくまでも日常的な人が集まる風景を見せて「この中にいるかもしれないですよね~。決してありえないことではないですよね~」と書いているだけなのは今は分かる。だが、私は必死になって写真に写る人間の中で耳が尖っていたりするヤツがいるかなどをじっくりと眺め、宇宙人を特定しようとしてしまった。
下手すりゃ編集部に電話をかけていたかもしれないが、しなくて良かった。この写真を見て以来、私はサンシャインがある池袋という街が怖くなってしまった。「あそこには宇宙人がいるから行きたくない」なんて言っており、池袋に初めて行ったのは2003年、29歳の時だった。取材で片桐仁さんと一緒にサンシャイン60の屋上に上ったのだ。
こうした純粋な少年少女の心に恐怖を与えたノストラダムスの予言だが、なんだかんだいって1999年7月に入ったその日、会う人会う人がノストラダムスの話をしていた。会話は大抵こんな感じになる。
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私:いよいよ1999年7の月に入りましたね……。
相手:そうですね。いや、まさか、とは思うけど……。
私:そうなんですよ。あんなもん嘘だって分かってるけど、どこかで「本当にあるのでは」なんて思ってしまうんですよね。
相手:恐怖の大王とか、アンゴルモアの大王とかもう恐ろしくて仕方がなかったですよね。
私:そろそろ第3次世界大戦があってもおかしくないですしね。
こうした話をいい年した大人が取引先などともやっていたのである。結果的に我々は無事1999年8月1日を迎えられたが、時は2020年、今はコロナの災害は「恐怖の大王」といえるものだろう。
そして、予想するが、今後、ネットの愉快犯が過去の文献を引っ張り出して「年は2019と11ヶ月、中国に端を発する恐怖の大王が世界を襲う」というといった説を発見! などと言い出すことだろう。コロナウイルスの出現を予想していた、と解釈できる何らかの過去の出版物が取沙汰されることとなる。すでに一部出ているが、ノストラダムス的解釈を強引にする人物が出るかもしれない。
或いは、東日本大震災の時、すでに震災をブログで予言していたと騒がれた占い師の松原照子がいたが、結局あれは震災後にブログの日付を前に設定しただけのもの。今ではこの女は講演等で大忙し。こいつがまた何かやりかさなければいいのだが……。そしてバカな信者が余計なお布施をしなければいい。
それにしても「2000年問題」って一体なんだったんだろう。世界中のコンピュータシステムが一斉に混乱に陥り、生活がハチャメチャになる、といった説だったため、各社のシステム担当は1999年12月31日にも出社を余儀なくされた。毎年年末年始はNTTに勤める友人と一緒にスノーボードをして過ごしていた。通常12月28日あたりには宮城・蔵王まで行っていたのだが、この日は彼が1月1日を会社で迎えなくてはいけないため、出発を延期し、彼の会社前で車を停めて待っていたことを思い出す。
0時30分頃、彼は出てきて「なんかあったか?」「何もなかったよ」という結果だったが、世界が終わるはずだった1999年がいかに平和だったかを今になって思い返す。(文◎中川淳一郎 連載『俺の平成史』)
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