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御嶽海を育んだ出羽海部屋、そこにはアバンギャルドな女性がいた 先代おかみ・石田千賀子さんインタビュー

TABLO / 2018年7月23日 18時0分

 三横綱・一大関が休場するという異常事態の中、名古屋場所を盛り上げ、ついには初優勝を手にした関脇の御嶽海。彼を育んだ出羽海部屋は相撲界の中でも歴史深く、なかでも現在の部屋の礎を築いたのは、18年にわたり親方を務めた先代の出羽海親方(元関脇 鷲羽山)である。

 その鷲羽山の奥様で、先代のおかみさんである石田千賀子さんにインタビューをしてみたら、あまりにもアバンギャルドな人だった。そして、相撲部屋のおかみさんの仕事とは。(聞き手・文◎Mr.tsubaking ※ツ=ツバキング、お=おかみさん)


おかみさんから見る相撲


ツ:おかみさんの仕事を終えた今でも出羽海部屋の力士の取組は気になりますか?
お:それはやっぱり気になりますね。
ツ:現役時代の親方(鷲羽山)の取り組みなんかはどんなふうに見てたんですか?
お:取組は見なかったです。見てられないんですよ。怖くて。
ツ:僕も好きな力士の取組でさえみるのが怖いときがありますから、家族ともなるとそうですよね。
お:国技館にいるとそろそろだなってわかるんですよ。そうすると、見たいな見たいな、でも見たくないなって思いながらウロウロしたりして。で、館内放送で鷲羽山のしこ名が呼ばれたら、柱の陰から覗いたりして。
ツ:すごい感情ですね。でも、館内の歓声なんかどっちが勝ったのか物凄く気になりますね。


おかみさんという仕事

ツ:おかみさんをやっていらっしゃるとき、出羽海部屋には何人くらいの力士がいたんですか?
お:多い時で30人くらいですね。
ツ:いろんな性格の子が一ヶ所で生活する。しかも体力はやたらある子たちが30人。その生活ってどんな感じなんですか?
お:まず何より「男の子は...もうしょうがないな」って(笑)。
ツ:含みが多いですね(笑)。
お:男の子って、女性の言うことが理解できないみたいなんですよ。もう、言葉が通じないってくらい(笑)。しかも若い子って、宇宙人な上にジェットコースターに乗ってるから。
ツ:なんですかそれ(笑)
お:言葉も通じないうえに、話しかけようと思ってもすぐどっか行っちゃう。
ツ:相撲部屋にくる子の中には、中学を出て社会勉強なしにすぐに入門する子も多いですしね。
お:しかも、相撲さえやってなくて入ってくる子もいる。
ツ:そうなんですか?
お:親が面倒見きれなくなって、部屋に入れちゃったりね。
ツ:あぁ、昔でいう「吉本に入れるわよ!」的な。じゃあ、相撲の稽古だけでなく社会勉強や心のケアも一手に部屋が負うんですね。何十人と力士を見てくると「この子は強くなるな」っていうのはわかるものなんですか?
お:なんとなくはわかりますよ。
ツ:それは、先ほどでいうところの宇宙人だけど、まだ若干言葉が通じる子ですか?
お:それとはまた違って、まずは取り組むことからはじめる子ですね。やる前や始めてすぐに、ダメだとか無理だとか言わない子。
ツ:まず一歩目をしっかり踏める子ってことですね。
お:そうですね。できないことをできるようになろうとしてるんだから、まずやってみないと始まらないじゃないですか。やってみて失敗したりできないってなれば、一緒にやり方を考えていけますもんね。

ツ:おかみさんをやる上で、我慢してたことってあるんですか?
お:特にないというか、それを我慢だと思わなかったのかもしれません。でもね、部屋の若い子たちってズルいから何か不都合なことがあると「おかみさんが言ったから」とかって、何でもかんでも私のせいにしちゃう(笑)。
ツ:あぁ、自分の思春期を思い出しますね。そういう時はちゃんと叱るんですか?
お:叱ることもあるけど、それでその子が納得して次に進めるなら「違うよ!」って思いながら我慢してた。まずは彼らを前に進めないと。
ツ:逆に部屋での経験が、ご自身の子育てに生かされたということはありますか?
お:子育てだけに限らず、あの状況にずっといると「人間、生きていればそれでいいんだ」って思うようになりました。
ツ:ある種、みんなが極限状態にいるなかだから見えてくるものかもしれないですね。
お:だから何があっても、なんとか生きていけるもんだなって。


大忙しの女将さんの仕事、だが......


ツ:二ヶ月に一度の本場所、その合間も巡業。さらに何十人もの力士が暮らす部屋を支えるおかみさんは、大忙しだと思うんですが、自分の時間はあるんですか?
お:時間はね、作るんですよ。
ツ:なんとか作った時間は何をされてたんですか?
お:シドのライブに行ったり。
ツ:シドって、あのビジュアル系バンドの? そんなご趣味があるんですか!
お:ツアーにもついて行ったし。まぁ、ツアーに行くと言っても静岡ぐらいまでだけど。
ツ:充分ですよ(笑)
お:あとは、高崎とか宇都宮にアシッドアンドロイド見に行きましたね。
ツ:すごいな! 相撲部屋のおかみさんがビジュアル系バンドのツアーに遠征してるなんて、誰も想像しませんよ! 今はシド推しなんですか?
お:AKIちゃん好き。でも、シドはもう大きくなりすぎちゃってね。
ツ:その言葉、がっつりバンギャですね! シドの前はどんなバンドが?
お:SOPHIAのライブとかもよく行ってましたね。
ツ:「おかみさん」っていうと、生活の全てが相撲なんじゃないかって想像するんですけど。
お:そういう人もいると思いますよ。でも私は、そんなことしてたら、三日で倒れちゃう(笑)。
ツ:意外すぎますよ!
お:こんなのももってますよ。これだけは捨てられなくて。


ツ:うわ、これも行かれたんですね。けっこう規模も凄かったですよね。
お:アメリカで乗ってたロールスロイス。あれもちゃんと置いてあったんです。直筆のピンクスパイダーの歌詞を書いたノートもあって、書いては消してされた痕も残っていて「あ、ホントにいたんだ。いるんだ」って思って。
ツ:筆跡や筆圧を感じられるとリアルに感じますよね。これは貴重ですね。
お:hideちゃんはね、恩人なんですよ。
ツ:恩人?
お:息子が反抗期だったときに、何言っても言うこと聞かなかったんですよ。でも、なんかのときにふとXの「weekend」を口ずさんでたんですよ。
ツ:それは息子さんもびっくりしたでしょうね! 母親がまさかXって(笑)。
お:そしたら息子が「その曲、なんで知ってんの!?」って。だから「当たり前じゃない! 知らない人なんか、この世にいないわよ」っていいましたけど。
ツ:いや、Xには失礼ですけど知らない人はいるでしょ(笑)。
お:でもそれから、反抗が落ち着いたんです。だから、hideちゃんは恩人なんです。
ツ:平行線だった息子さんとの心が「X」みたいに近づいたんだ(笑)。
お:そうそう(笑)。


どん底から立ち上がる相撲界


ツ:稀勢の里らの台頭で、相撲人気が高まりましたが、最近では問題がいくつも噴出してしまいましたね。
お:そうですね。人が来るようになって、みんなで楽しい空間をってことで正面の入り口にいっぱい売店をだしたりもして「お祭り」みたいになってました。
ツ:そうでしたね。でも今はなくなってますね。
お:お祭りじゃなくて「相撲」を見せたいということで。
ツ:たしかに売店で見えなかった相撲の錦絵が、今はしっかりお客さんを迎えてますね。
お:えぇ。大国主命(おおくにぬしのみこと)や瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)といった相撲のもとになった神様たちです。


ツ:そうなることで「相撲そのものに立ち返る」と。
お:そうですね。
ツ:暗いニュースの続く角界ですが、おかみさんのような方が、あかるくしてくれますね。今日はお忙しい中本当にありがとうございました。
お:ありがとうございました。また国技館にもいらしてください。

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