「父急病で入院費用を引き出したい」本人確認できないと銀行は拒否→ロビーで父死亡<中国・広東州>
TABLO / 2013年10月27日 22時0分
人生の最期をどこで迎えるのかは、だれにとっても少なからず気になることだ。病院か、自宅か......だが、銀行のロビーで終わりの時を迎えるなんて、偶然でなければほとんどあり得ないことだろう。しかし、中国では最近、その「あり得ない」はずのことが偶然とはいえない形で起こり、社会に衝撃が走った。
銀行のロビーで息を引き取ったのは広東省高州市のトウさん(69)。9月27日のことだ。トウさんはその日の朝、脳卒中を起こした。病院に行くため、トウさんの息子は父の預金がある信用金庫が開くのを待って出かけていった。しかし、窓口で拒否される。中国では最近、身分証明書の切り替えが行われているが、手続き上の手違いでトウさんの身分証明書上の名前の表記が、古いものと新しいもので微妙に違っていたためだ。
そこを補うための別の証明書の取得を求められ、息子は走り回った。一度ではない。一つ証明書をそろえる度に、また次の証明書を求められた。最初は戸籍証明、次に村の共産党委員会の証明書、それから派出所の印章。窓口で必要だと突き返される度に町を走った。何度かそれを繰り返した末、係員はこう言ったという。
「本人に来てもらって写真を撮る必要がある」
トウさんの息子は瀕死の父親を大八車に載せ、自宅から3キロ離れたところにある信用金庫まで運んだ。しかし今度は信用金庫のトップが「中に入れることはできない」と言って手続きを拒否。さらにどさくさに紛れて、姿を消してしまった。
そしてトウさんは、そんなやり取りの最中に息を引き取ったのだ。
実は、これに近い出来事は別のところでも起こっている。10月13日には西安のある女性が、癌に侵されて入院中の夫の治療費を引き出そうと預金のある中国工商銀行へ行った。海外支店も持つ大手銀行だ。女性はATMを使おうとしたのだが、暗証番号を何度も間違え、口座をロックされてしまった。ロックを解除するには何週間もかかる手続きをするしかないが、急いでいる。相談すると、銀行の係員はこう言った。
「本人が来て拇印を押すしか方法はない」
仕方なく彼女は、救急車を呼び、酸素マスクや点滴をつけた夫を病院に内緒で運びだし、銀行に連れて行った。中国の銀行では、顧客がいるロビーと銀行員がいる部屋は分厚いガラスの壁で仕切られている。瀕死の人間が手続きのために来ていても、銀行の係員は分厚いガラスの向こう側から一度も出てこなかったという。
これらのニュースは中国のさまざまなメディアが次々と報じた。中国版ツイッター「微博」でも話題になり、次々とリツイートされ、意見が書き込まれた。
もともと、中国人で中国の銀行のサービスがいいと思っている人はほとんどいない。金持ちには腰が低いが、一般の人には居丈高な態度を取り、手続きの過程でやたらと身分証をスキャンしあれこれ制限して手数料を取るくせに、顧客の個人情報はすぐ漏らす。
とはいえ、人の生き死にがかかった場面でまさかここまで杓子定規で冷淡な対応をするとは多くの人が想像していなかった。金銭のやり取りに慎重さが必要なのはわかるが、本当にそこまでする必要があったのか?
トウさんの例ではその後、信用金庫側は謝罪をして、13万人民元(約200万円)の賠償金を支払った。業務に関しても、健康的な理由などで本人が窓口に来られない顧客を考慮した処理ができるよう見直しを行っている。また、当日窓口を担当した職員とその上司二人が停職処分となり、警察で取り調べを受けているという。
さて、中国の銀行のサービスは、これを機によくなるのだろうか。
Written by 劉雲
Photo by scottchan
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