借金抱えた地下アイドルファンが地下社会に売り飛ばされて脱走するまでの顛末記
TABLO / 2013年11月10日 19時30分
西成の手配師に売られた男の話だ。
名前は仮に田中と呼ぶ。彼は30代後半の独身男性で今まで東京で事務職の仕事に就いていた。肉体労働の経験は無いが、学生時代には柔道をしていたので多少体力には自信があった。
では、田中はなぜ、西成に流れ着いたのか? この男は、ある趣味が理由で浪費が重なり、多額の借金を抱えるようになったという。
「地下アイドルにハマり、週に4~5回はライブハウスやイベントに通っていました。一回のライブでチケットが4000円、物販のツーショットチェキが3000円、その他グッズ購入で3000円くらいは最低でも使っていて、その出費が月に20万前後、さらに推しメンのバースディ―にはプレゼントも買うし、生誕を仕切る場合もありました。そういった数十万単位の出費がかさんで、借金が雪だるま式に増えていったんです」
その後、取立てからの電話に疲れ果てて夜逃げを決行する。逃亡先に選んだのは西成だった。それはこの町なら、身元を隠した状態の逃亡者でも仕事ができるということをネットの情報で知ったからだ。彼は一ヶ月くらい住み込みで働き、その金で放浪しようという夢を抱いていた。
「西成で一回、人生をリセットしたかった。地下アイドル廃人になっている自分を追い込みたかったということもありました」
西成の朝は早い。午前3時には仕事を求める男、それを斡旋する手配師が路上にあふれる。この街で日雇いの仕事を求める労働者は50~60代が多く、30代は少ないために手配師に声を掛けられる可能性は高い。
そこで田中はある手配師に声を掛けられたという。
「1日現場に入らないか? 9000円になるぞ」
西成に到着して間もなく、右も左もわからない田中にとっては願っても無い話しだった。すぐに「行きます」と答え、手配師に従い、ワゴン車で現場まで運ばれ、西成での初仕事を終えた。
約束の日当9000円を受け取り、現場から帰ろうとしたら、その手配師から連絡があり「明日も仕事斡旋するから」と言われ、それに従うことにした。
後々これが大きな間違いと気づくのだが、その時は「なんて親切な人なんだ」とその好意を有難がったという。翌日早朝、西成でその手配師と待ち合わせ、昨日とは別の現場に向かった。仕事を終えると、そのままワゴン車に乗せられ、あるプレハブ棟の前まで運ばれた。
「今日からお前が住む寮だ。毎日仕事があるから安心しな」
それから田中は休む暇もなく無く、この過酷な現場で働かされたという。休みは週に一日だけで不定期。朝は8時から夜7時までびっしりと働かされた。労働基準法などとは無関係な超ブラック地下世界だった。
「夜に寮へ戻っても同室の班長に監視される毎日。トイレに行くことにも断りが必要なほど過酷な環境でした」
その寮で暮らしている労働者の条件はバラバラで、待遇が良い者で日当9000円のうち寮費が1日3500円、食費が毎日1000円というものだったが、田中には手配師から何の説明もなかった。
「ほかの連中と同じように自分にも給料が出ると思ってたけど、それは甘い考えでした」
田中には結局、一度も給料が出ることなく、3か月が経った。すぐに脱走を考えたが同室の監視の目があまりに厳しく、外へ出ることもできなかった。おそらく同室の班長が監視役を引き受けることで、田中の人件費分を中抜きしていたのではないかと思われる。また、後で知ったところでは、田中は手配師に100万円で売り飛ばされていたということだった。
田中は監禁状態で働き続けることに疲れ果てていた。常にチャンスを伺っていた。それはある日突然訪れた。現場での休憩時間に、ジュースを買いに行く用事を初めて頼まれたのだ。
「そこで、コンビニに駆け込んで通報してもらい、警察に来てもらっいました」
現在、田中は東京に戻って自己破産手続きをして、正業に就いた。これまで生活のすべてだった地下アイドル通いも、今では息抜き程度の回数に減ったと胸を張る。
「地下アイドルのライブも無銭(無料イベント)中心にして、チェキ代も最小限に抑えるようになりました。ツーショットチェキだけは生きがいなので止めることはできません」
この男、こんな過酷な人生を歩んでいながら、何も学んでいない気がするのは筆者だけだろうか。
Written by 西郷正興
Photo by DucDigital
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