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【ショートストーリー】恋してみたら? 第21話 「写真写り <遙香 ①>」

KOIGAKU / 2014年4月24日 4時10分

恋に落ちる―――なんてドラマの中だけと思っていたのに
 30才春、OL三上遙香は恋をした。

20140422

 結婚相談室エデンの、月に一度の面談の日
「写真・・・もう一度撮り直してみませんか?」
担当カウンセラーの谷口が言いにくそうに言ってきた。
またあ?、思わず顔が強ばる。2ヶ月程前、撮り直したばかりなのに。
言われた通り、欲しくもないピンクの服まで新調して。

 相談室に入って早1年。
ネットから選んでの「お見合い申し込み」に破れること7回。
「30才までに結婚」の目標は、あえなく崩れた。
谷口に言わせると一番の要因は“写真”らしい。
暗い、堅苦しい、笑顔がない・・・

 “苦手なんだからしょうがないじゃん”
帰り道。ブツクサ言いながらいつもと違う道を歩いていたら、小さな写真スタジオの看板が目に入った。

「いつも同じ所で撮るのもよくないかなって思って」
「写メとかも苦手で、すぐ顔が強ばっちゃうんです」
「会ってみると写真よりいい、なんて言われるんですけど」
 黒いポロシャツのカメラマンが黙っているので、つい、ぺらぺら喋ってしまう。
30代後半だろうか。色白、銀縁のメガネ、中肉中背。
カメラマンと言うより科学者みたいな風貌だ。
「写真写りが、とにかく悪いんです・・・」
地下室みたいな薄暗くヒンヤリした空間に、冷たそうなカメラマンと二人きり。
後悔したけど、今さら出ていく勇気もない。

 「誰が決めたの?」 カメラのセットをしていた男が、突然口を開いたので驚いた。
「写真写り悪いなんて自分で決めない方がいいですよ」 戸惑っている間に、男はシャッターを切り、
「たしかに何かつまんねえな」
試し撮りした写真と遙香をためつすがめつ眺める。
つかつかと近寄ってきたと思うと、ひょいっと手を差し伸べ・・・、
遙香の髪を撫でた。え?ええ?!
髪を直す、なら分かる。
だが彼は、まるで、いい子いい子をするように撫でたのだ。
怒るべきだった。引っぱたいても良かった。それが・・・出来なかった。
身体が固まる。顔がみるみる熱くなる。
「デートでさ、彼氏に撮って貰ってるって想像できない? カメラを構えてるのが彼氏だって。あ、俺じゃ無理かな?」
近くで見ると、メガネの奥の目は意外に優しかった。
小さく横に首を振ると、彼はメガネを外し、口と目をすぼめて変顔をして見せた。
やだ、思わず遙香は吹き出す。
「いい感じ。じゃ、ちょっとの間だけ俺たち恋人ってことで」
そう言って、彼はカメラの元へ。

「もっと笑えってば」「また変顔しちゃうぞ」
「かわいいな。その調子その調子」「はるか〜、なに照れてんだよ」

 もちろん嘘だと分かっていた。写真のための疑似恋愛。なのに
30才春。いつもと同じ夕暮れ時、三上遙香は不覚にも恋に落ちてしまった。

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