【ショートストーリー】恋してみたら? 第23話 「心乱れて <遙香 ③>」

恋学 / 2014年5月8日 1時25分

遙香、30才。恋したのは久しぶり。
  傷つけるならハッキリ傷つけて欲しい。

20140508

“会ってどうする気なの?ただ撮影して貰っただけの人なのに”
“でも一度は誘われてデートしたもの。ただのお客さんじゃないはずよ”
大きな不安と、小さな自信の間で揺れる気持ち。
回れ右して帰りたい気持ちと、会いたくてたまらない気持ち。
一歩進むごとに心がぐらぐら乱れる。
 その時、遙香を追い越した白い車が、朝森写真スタジオの前に停まった。
運転席から降りたのは良太その人で、助手席に回った彼が抱くように手を添えて降ろしたのは、大きなお腹の女性だった。
 瞬間、頭が真っ白になった。と、振り返った良太の視線がこちらに向いた気がして、遙香は踵を返して走り出した。

 ばかだばかだばかだ、わっと声を出して笑いたくなる。
笑いたいのに、涙が溢れて止まらない。

 肘を掴まれたのは路地を抜け横断歩道を渡ったあたり。
思わずキャッと叫んで振り返ると、良太が息を切らして立っていた。
「逃げることないでしょ。用があって来たんじゃないの?」
悪びれない表情に、言葉がうまく出てこない。
「・・・恋人ごっこはもう終わりね」
やっとの思いで言ったのに、
「・・・そうか、結婚決まったんだ」
とんちんかんな答えが返ってきた。
「ちがうって。奥さん、お腹大きいんでしょ!」
もどかしくなって、ぶつけた。傷つくならハッキリ傷つきたい。
「何が恋人ごっこよ。人の気持ち振り回して、お陰でお見合いにも集中できない。こっちはずっと悩んでたのに、ふざけないでよ!」
一瞬キョトンとした良太は、ぷっと吹き出すではないか。
「勘違いしないでよ。あれ姉貴。生まれる前に記念写真撮りたいんだって」

 突っ立ったままの遙香の手をひいて、良太は近くの公園に向かった。
夕陽が、ベンチに座る二人の影を細長く映しだしている。
「レンズの向こうに恋人がいると思って―――ってのは他の人にも言った事あるよ。でも遙香を撮ってるうちに、ほんとに彼女を撮影してるみたいな気持ちになった。あんなのは初めてだった」
初めてだったから自分でも戸惑った。それに、お見合い写真を撮りにきた遙香に近づいていいものかという躊躇いもあって・・・

 良太の告白は嬉しかったけれど、それなら何故?という思いも湧いてくる。
私が来なければ諦めたの?そのままになっても良かったの?
信じてみようかと思ったり、やっぱりおかしいと思ったり、相変わらず心は揺れる。

 立ち上がった遙香は滑り台を背にして両手でカメラを作った。
「ねえ、こっち向いて。笑ってよ」
恋人ごっこから恋人になれるもの?
それは、彼が私のレンズに向けた笑顔で決めよう。
「逆光だよ」
それでも眩しそうに目を細めた良太の向こうに、赤い夕陽が悠然と沈んでいくのが見えた。
 遙香、30才。恋したのは久しぶり。
                            (遙香おわり)

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