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【ショートストーリー】恋してみたら? 第25話 「忙しい彼(後編)」

KOIGAKU / 2014年5月22日 1時4分

どうして勝手に苦しむの?
   俺はここにいて 変わってなんかいないのに。

20140522

 「もう終わりなのかな?一度だけ会って話せませんか?」
泣き顔のスタンプを見て、上田俊之は思わず溜息をつく。
深夜2時。やっと帰宅して、萌から夕方来ていたLINEを開いた。
彼女はもう眠っただろうか。いつ既読になるかと、何度もLINEチェックしていたであろう事を想像すると、さらに気が重くなる。
 だが早く既読になったらなったで、
「一言でいいから、すぐに返信出来ないのかな?」
となるだろう。それで喧嘩になった事がある。
以来、LINE着信に気づいても、しばらく開かないようになった。
この頃は大抵帰宅後、寝る前に開く。時々は翌朝になってしまう。
こういう態度が余計に彼女を不安にさせるのかもしれないが。

 貰うのが嫌なわけじゃない。
仕事に追われていても、萌の言葉に勇気づけられたり、嬉しくなる事もあった。最初の数ヶ月間は、すぐに返信したし、仕事の合間を縫って若者のようにトークだって続けた。
 けれど何だか息苦しくてたまらない、この頃。

 取材に締切に接待、時々ゴルフ。仕事仕事飲み会、土日も関係なく出張・・・瞬く間に20代が過ぎ、30代も終わりに近づいた。
彼女らしき人がいた時もあったけれど、何となく終わっていった。
ある日急に、疲れて帰る家に明かりがついてたらいいな、と思った。—
この俺が見合いかよ!とツッコミたくなる程、気恥ずかしかったけれど、
「20代の方からお申し込みあるなんてラッキーですよ」
カウンセラーに背中を押されて会った萌は、想像以上に可愛かった。
こんな子と結婚出来たら楽しいだろうな、と思った。
彼女になって欲しくて頑張った。
油断するとスルリと逃げてしまいそうな萌の心を掴む為なら、睡眠時間が削られても平気だった。 けれど。

 嫌いになったわけじゃない。
態度が変わったと言われるまで、その自覚もなかった。
ただ、萌が彼女になってくれて・・・そう、俺は安心したんだ、と思う。

 忙しい俊之の1日はあっという間に過ぎる。
「3日も連絡がない」と言われると、
そうか3日経ってたのか・・・と思う位。なのに、
「もう嫌いになったの?」
というメールが来て驚いた。なんでそうなるわけ?
どう答えていいか分からず黙っていると、
「ごめんなさい。でも気持ちが聞けないと不安」、と追っかけメール。
謝る意味も分からないし。気持ちってなんだよ、いきなり。
「もう終わり」とか「会って話したい」とか、萌の中で、二人の関係が知らぬ間に進行しているのが理解出来ない。
俺はただここにいて、なにも言ってないのに。

 1日を終えベッドに倒れ込む前、優しい言葉や、楽しい話が聞きたいと思うのはワガママだろうか。もし結婚したら・・・ふと考える。
「何時に帰ってくるの?」「どうして連絡してくれなかったの?」
「嫌いになった?もう離婚なの?」
毎日毎日聞かれるんだろうか・・・
彼女の笑顔が好きだったのに、思い浮かぶのは、不安そうな顔ばかりだ。

 LINEが着信した。萌からだ。
「嫌いになったなら、はっきり言ってくれない?」
俊之は携帯を放り出して、ベッドにもぐり込んだ。
                           (「忙しい彼」終わり)

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