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【読み切りショートストーリー】恋と罪「手当て」

KOIGAKU / 2014年8月6日 11時31分

彼の手で身体を撫でて貰ったら
胸んとこに残ってた痛みが消えた
それは彼にしかできない
“魔法の手当て”だった
20140806

 タケさんの大きな身体に包まれていると、この世に心配事なんか何もないような気がしてくる。
笑うと子供みたいになる顔も、ちょっと出っ張ったお腹も好きだけど、一番好きなのは手。
居酒屋のカウンターで、ジョッキを持ち上げた時にチラッと見て、
「あ、好き」って思った。
アタシの顔くらい大きくて、分厚い。
ジャムの瓶も、お煎餅の缶も簡単にあけられる。
スーパーの袋なんか四つくらい平気だし、ソファだってテレビだって軽々移動してくれるんだ。

 あれは半年前―――――
元彼に「君といても楽しくない」って言われた夜だった。
「映画を観たら“面白かった”。料理を食べたら“美味しかった”。それだけじゃさ」
って。ボキャブラリーが圧倒的に足りないらしい。
上司に紹介された人で、っていうか、受付にいたアタシを彼が見初めてくれたんだけど、
「付き合ってみてガッカリ」、だったって。
まあね、あの制服が変に似合うからアタシ。
確かに教養ないもん。本、読まないし。映画の字幕苦手だし、難しいの眠くなるし。

 でも、
「面白かった、美味しかったで充分だよ!」
タケさんは保証してくれた。
「他に何が必要なんだ。あとは心と身体で話しゃいい。それが恋人だろ?」
言ってからすぐ、「俺の言ってることオッサンくさい?」
なんて聞く所も面白かった。
 あの手で身体の全部を撫でて貰った時、胸んとこに残ってた痛みが消えたような気がした。
「どうしてこんなに気持ちいいの?」、と聞いたら、
「手当てだよ」、って。
 タケさんは週に三日くらいウチに泊まる。
奥さんは料理しないし、タケさんの下着洗ってくれないんだ。
アタシは栄養を考えて料理作ったり、パンツを洗ってアイロンもかけたげた。
家事は割に得意。読書とかフランス映画より好き。
 ウチから帰る時、タケさんはすごく悲しそうな顔をする。
夜だったり、休日だったりしても、必ず、
「ちょっと出勤してくる」、なんて言う。だからアタシは、
「気をつけてね」と笑ってあげんの。
そしたらタケさん、おうって言って、
大きい手でアタシの頭をクシャクシャってして、頬を包んでキスしてくれる。 それが二人の、二人だけの決まり。

 でも見ちゃったんだ。タケさんが朝早く“出勤”した日曜日。 寂しくなって友達とランチした帰り―――――    
タケさん、知らないおばさんと小学生くらいの男の子と三人で歩いてた。
それで、したんだよね。その男の子の頭を私にするのと同じように、クシャクシャって。それから、両手でほっぺを包んでぐりぐりってして。

 「突然だけどさよなら」、ってメールした。
返事を待つのが恐いから、タケさんのアドレスは拒否にした。
慌てて“帰宅”するかな、なんて思ったけど変化なし。

静かな部屋にアタシ一人。
悲しい、寂しい、たいくつ。
他に言葉が浮かばない。
胸が苦しい。ずきずき痛い。これもだめ?
ボキャブラリーのある人は、どんな表現をするのかな?
教えて、タケさん。 この傷の手当ては誰に頼めばいいの?
                                (おわり)

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