【恋学 読み切りショートストーリー】恋と罪「優しい罰」

恋学 / 2014年10月1日 12時14分

彼がいないと 恋人も愛せない・・・
20141001

脱がされる為だけの下着を選ぶ喜びなんて忘れていた。
ユキオは、私の下着なんて見ちゃいない。
森本さんは、まず下着を褒めてくれるんだ。
きれいだね、とか。似合うよ、とか。
ゾクッとくるなんて言いながら、ブラの上からキスしたりする。
それから、そっと、そっと、身体に触れる。
トレーナーも脱がず自分勝手に始めるユキオとは大違いだ。

森本さんは、旅行会社に勤めている。
ユキオと行く筈だった温泉ツアーの担当者だった。
彼の目の前でユキオと喧嘩になって・・・ユキオは先に出てっちゃって・・・
森本さんは泣き出した私にハンカチを貸してくれた。
次の日、ハンカチを返しに行ったら彼、ちょうど休憩に行くところで・・・
ランチを食べて、アドレスを交換して、飲みに誘われて、それで何となく・・・。

交際5年。ユキオは私が髪型を変えても気づかないし、誕生日も言わなけば忘れてる。
30才になるまでに結婚する約束は、期限が迫ってから話題にも上らなくなった。
今は仕事に没頭したい、とかなんとか。
構わない。
惰性のようなデートでも私はニコニコしてられる。
ユキオの我が儘や無関心にも一々泣いたりしない。
だって、森本さんがいるから。
 彼が出来ると、恋人に優しくなれるって本当だった。

なのに。
森本さんは急に別れようって言い出した。
ミキちゃんが交通事故に遭ったから。
3才のミキちゃんは、森本さんの一人娘だ。
奥さんの話は全然しないけど、ミキちゃんの話はよく聞かせてくれた。
そのミキちゃんが、私たちがホテルにいる時間に事故に遭った。
足の骨を折っただけなのに、森本さんは罰だって言う。
「これは、もう悪い事はやめろってことだと思うから」
奥さんから何度も入ってた電話に気づかなかったのがショックだったらしい。
1時間早く病院に駆けつけたからって、何が出来たっていうんだろう。

悪いこと?
ドキドキして、元気になって、優しくなれることが?
ユキオのために、凝った料理だって作ってあげられた。
私をほっぽり出して、友達とゴルフ旅行に行く時だって、笑顔で送り出せた。
私は、そんなに悪いことをしてたんだろうか。

もう会えない。連絡も二度とこない。
森本さんは目の前で私のアドレスを削除した。
会社を訪ねたら部署が変わってて、頼んでも教えて貰えなかった。

「具合でも悪いのか?」
ユキオがおでこに手をあててくる。
そんな事されるのはいつぶりだろう。
「うつると嫌だから離れてて」、なんて言う奴が。
でも私の心は震えない。
何もかも退屈。ユキオの手の温もりも鬱陶しいだけ。
 彼がいないと恋人も愛せない。・・・

ユキオが抱えてきたプレゼントは、レースのブラセットだった。
「たまには気分変えてみようよ」
なんて、どういう風の吹き回し?
もしかしたらユキオも新しい恋をしてるんじゃないだろうか。
退屈な現実をほんの一瞬忘れる恋を。
だとしたら、この優しさは私が受ける罰なのかもしれない。
                                  (おわり)

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