【恋学 読み切りショートストーリー】恋と罪「待つ女」

恋学 / 2014年10月31日 8時31分

あなたは わたしの 
   “運命の人”だから・・・
20101031

 夜11時。冷えてきた。傘を持たずに来たから薄いコートの下まで、ぐっしょり濡れている。角のコンビニまで行けば雨宿り出来るけど、万一彼を見逃したらと思うと動けない。

 今夜も真鍋クンは来なかった。
落ち着く”と言ってくれた部屋、シチューはトロトロ煮え、好みのCDも揃えてあるのに。
メール返信なし。電話してみてもだめ。
やっぱり怒ってる。・・・そうとしか思えない。

 2つ年下の真鍋クンとは、派遣先の会社で出会った。研修の指導係だった彼は、最初から私に興味があったらしい。
歓迎会の夜、酔った私を家まで送ってくれ、そんな風になった翌朝、照れ臭そうに打ち明けてくれた。
彼が漏らした“運命”という言葉は、私の心に優しく甘く沁み渡った。
今までの辛いこと全部が、真鍋クンに出会うための試練だったんだと思えた。なのに。
自分のバカさ加減が悔やまれてならない。
親の持ってきた、お見合いの話をしてしまったのだ。
ちょっと慌てさせたかっただけ。それなのに。

 人差し指が震えながらスマホの上を滑る。さっき開いて、すぐ閉じたFBのページ。・・・真鍋クンが女の子の肩を抱いてVサインしてる写真。
仕返し?
そういえば、元彼の哲也からメールが来たことも言っちゃったんだ。
哲也の用件はお金を貸せってことに決まってるけど、真鍋クンには、 「復活愛を狙ってるのかも・・・」、なんて言っちゃった。
それもこれも真鍋クンに会いたかったからなんだけど。
ああ、怒らせちゃった。嫉妬させちゃった。
だから真鍋クン、こんなどうでもいい子との写真をFBに載せて仕返ししてる。私に抗議してるんだ。“運命の人は誰なんだよ!”って。
 そう、彼が来てくれないのは・・・返信もなく、電話にも出てくれないのは、怒って、抗議してるから。
 じゃ、だったら、待ってちゃだめだ!

 だから傘も持たずに家を飛び出してきた。
彼の部屋は、FBの情報から探し当ててある。
真鍋クン、しょっちゅう地元のカフェや行きつけの美容室なんかアップしてるんだ。
恋人を部屋に入れる時はサプライズを考えちゃうから、なかなか招いてくれないんだろうけど、私としては彼氏の部屋くらい知っておきたかったから。

 手がかじかんできた。会社の人は8時頃出たって言ったのに、遅すぎる。
郵便受けを探ってみた。今日も広告と請求書ばかり。
いけない、訴えるって言われたんだっけ、この間。
真鍋クンたら真っ赤になって・・・そう、私をひどい言葉で呼んだんだ。
「ストーカー!!」なんて。

 いいの、分かってる。驚いたんだよね。それに私がお見合いの話や、元彼のことメールしたから着信拒否までして抗議してるんだ。
でも、私はこんなに反省してるんだよ。毎日何百回もメール送って、電話だってしたのに、通じないから会いにくるしかないじゃない。

 雨、小降りになったみたい。最終電車が着く時間。
先週の金曜もこの時間に帰ってきたから、そろそろじゃないかな。
もし、またFBの子と一緒だったら?
・・・私はコートのポケットに手を入れ、かじかんだ指でそれを握り締める。
そりゃ可哀想だけど、最初から私の身代わりなんだから仕方ない。
真鍋クンは優しいから、あの子の手前、
「一回だけの事でつきまとうなよ」、なんて心にもない事を言うかもしれない。
でも平気、大丈夫。今夜こそちゃんと話して分かって貰う。だって・・・、
彼は運命の人なんだもの。

 相合い傘の2つの影が近づいてきた。
私はポケットからそれを出して身構える。光るくらいに研いだ果物ナイフ。
真鍋クンの好きな桃を剝く為に買ったものだ。

                                 おわり

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