本当はパンダじゃなかった!? 歴代フィアット「パンダ」3選
くるまのニュース / 2020年6月8日 11時50分
2020年は、フィアット「パンダ」の誕生40周年のメモリアルイヤー。そこで、歴代パンダの生い立ちを振り返ってみよう。
■ジウジアーロがデザインした、コンパクトカーの金字塔
2020年にアニバーサリーイヤーを迎えるクルマは、けっこうな名作が揃っている。そんななかでもひときわ輝くのが1980年にデビューし、40周年のフィアット「パンダ」である。
2019年春のジュネーヴ・ショーにて発表された、フィアット社創業120周年を記念するプロポーザル、フィアット「チェントヴェンティ(120)コンセプト」が次期パンダとなるのではと噂される今こそ、この小さいけれど偉大なクルマの歴代3モデルを振り返ってみることにしよう。
●1980-2003:初代パンダ
すべての始まりとなった偉大なる初代パンダは、第二次世界大戦後にイタリアの国民車となった「500」とその流れを組む「126」に代わって、フィアットのボトムレンジを担当することになったFF小型車である。1979年11月に発表され、翌1980年2月から生産開始された。
ボディ/インテリアのデザインだけでなく、基本コンセプトの立案からエンジニアリングまで深く関与した、イタルデザイン社のジェルジェット・ジウジアーロ氏は「現代のシトロエン2CV」を目指したといわれる。
彼の想いを体現するように、コストを徹底的に抑える一方、様々なアイデアを駆使して極めて魅力的なベーシックカーに仕立てられていた。
外装では既にカーブド(曲面)ガラスが常識となっていた1980年代にあって、ウィンドスクリーンを含めてすべて平面ガラスを採用。ワイパーも潔く一本のみ。
そしてボディも一切の曲面を排し、機能美さえ漂う平面パネルだけで構成した。これはコストを下げるだけでなく、シンプルさを前面に押し出すことで当時の自動車デザインに一石を投じる、というジウジアーロの高い理想も込められていたといわれている。
一方インテリアも、とくに最初期モデルの特徴であった取外し自由なハンモックシートと、そのデザインを応用したダッシュボード全幅にわたる大きな棚、左右にスライドが可能な灰皿など、実用的かつ魅力的なアイデアに満ち溢れるとともに、いかにもファッションの国イタリアらしい、洒脱なテキスタイルを巧みに使用している。
決して高級ではないが、極めてセンスの優れた空間を醸し出していたのだ。
前輪を駆動するエンジンは、126用を拡大した縦置き空冷直列2気筒OHV652ccと、こちらも127から流用された横置き水冷直列4気筒OHV903ccの2本立てでスタートした。
1986年からは内外装に大幅なフェイスリストが施されるとともに、パワーユニットも生産性アップを目的に開発されたフィアットの新世代エンジン、769ccから999ccに至る「FIRE(ファイア)」SOHCユニットへと暫時スイッチされる。
またその後も、インジェクション化や1108ccへと排気量アップなど、随時おこなわれていった。
一方駆動系についても、1983年以降には、オーストリアのシュタイア・プフ社製4WDシステムが与えられた「4×4」が追加されたほか、1991年からは富士重工から供給されるECVTを組み合わせた「セレクタ」も設定された。
「現代のシトロエン2CV」を目指したフィアット・パンダは、もはやお手本とした2CVに勝るとも劣らない存在として認知されるに至り、21世紀を迎えたのち、2002年11月をもって生産を終えるまで、長らく高い商品力と人気を保ち続けたのである。
■実はパンダではなかった!? パンダの名前が残った理由は?
2002年12月のボローニャ・モーターショーにて、フィアットは小型SUVを意識したコンセプトカー「シンバ(Simba)」を発表。翌2003年3月のジュネーヴ・ショーにて、市販モデルにあたる「ジンゴ(Gingo)」をショーデビューさせた。
●2003-2011:2代目パンダ
当初、ジンゴという名前で発売される予定だった2代目パンダ(写真はパンダ アレッシィ)
1990年代後半からヒット作に恵まれず、苦境にあえいでいたフィアットは、名作パンダをも一代限りとして心機一転を図るべく、パンダ後継車は「ジンゴ」としてデビューさせる予定だったという。
ところがこの直後、ライバルメーカーの一つであるルノーから、厳しい指摘を受けることになる。ルノー曰く、自社のヒット作でマーケットでも直接競合する「トゥインゴ」とネーミングが似ている、とのことなのだ。
ルノー側では提訴の構えも見せていたことから、フィアットはジンゴの名を放棄することを余儀なくされ、結果として2代目「パンダ」としてデビューすることになった。
2代目パンダのボディデザインは「シンバ」コンセプトおよび「ジンゴ」の段階から、イタリアの名門カロッツェリア「ベルトーネ」が担当していたという。
また、初代が3ドアだったのに対して、2代目以降のパンダは元来SUVの要素をアピールしたコンセプトだったこともあって、よりユーティリティの高い5ドアに変更。SUVないしはMPV的な、背の高いプロポーションとされたのも重要な特徴といえよう。
エンジンはいずれもフロントに横置きする直列4気筒で、1.1リッター/1.2リッター・ガソリン「FIRE」、1.3リッター「マルチジェット」ディーゼルが用意されたが、日本に正規輸入されたのは1.2リッターFIRE版のみだった。
立ち上がりのドタバタこそあったものの、2003年に正式リリースされた2代目パンダは、2004年度の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。商業的にも大きな成功を収め、デビューから4年後の2007年には生産累計100万台を突破したという。
そして、初代と同じく4WD機構が与えられた「4×4」も設定されたほか、2009年には2代目の初期コンセプトカー「シンバ」を思い出させる、ヘビーデューティなSUVスタイルに衣替えした「パンダクロス」も追加される(日本への正規導入はなし)。
その傍ら、2006年3月にはデザインコンシャスなキッチンウェア・メーカー「ALESSI(アレッシィ)」がポップに仕立てたコラボバージョン「パンダ・アレッシィ」もデビュー。
さらに2007年には、現在のアバルトの前身「Nテクノロジー」の開発によって、グランデプント用1.4リッター直列4気筒DOHC16Vエンジンを搭載するスポーツモデル「100HP」も追加された。
●2011~:3代目パンダ(現行)
サイズアップされた3代目パンダ
2011年のフランクフルト・ショーで発表。そののち、生産・市販に移された3代目パンダ。
ボディの基本レイアウトは2代目からのキープコンセプトとされるも、キャビン空間の拡大を図るため、若干のサイズアップがなされた。
イタルデザインのジウジアーロがデザインのすべてを手掛けた初代、ベルトーネが担当した2代目とは違って、3代目パンダのデザイン担当者について公式な発表はなかった。
しかし、実はVWグループの傘下に収まる直前のイタルデザイン社が関与したことが、当時から公然の秘密のごとく囁かれていた。
そろそろ時効と思って白状してしまうと、イタルデザイン社の試作車両を秘密裏に請け負うトリノの某カロッツェリアを2010年に訪ねた際に、筆者は3代目パンダの試作モデル用と思しきフロントドアが治具で製作(?)されている様子を目撃している。
ともあれ完成したスタイリングは、シンプルな直線と面を強調しつつ、あらゆるディテールの角を徹底的に取り払った、その名も「スクワークル」デザイン。日本国内向けプロモーションでは「シカクとマルのあいだのカタチ」と謳っていた。
プラットフォームやシャシは、フィアット500やランチア「イプシロン」と共用。つまりは、先代パンダから踏襲されたものである。
しかし3代目パンダのメカニズムにおける最大のトピックは、フィアット500で世界中のフィアット・ファンを歓喜させた直列2気筒の「ツインエア」エンジンが設定されたことだろう。
加えて、EU仕様では先代と同様に1.2リッター直列4気筒「FIRE」ガソリン、1.3リッター直列4気筒「マルチジェット」ディーゼルも選択可能とされた。
駆動方式は当初FFのみだったが、2012年には「4×4」が復活したほか、2014年には先代と同様ヘビーデューティ仕立ての「パンダクロス(日本未導入)」も設定されている。
そして2020年1月には、最高出力70psを発揮するという新設計の1リッター直列3気筒ガソリンエンジン「ファイアフライ(FireFly)」に、12Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせた「パンダ・ハイブリッド/パンダクロス・ハイブリッド」も発表された。
冒頭で述べた「チェントヴェンティ・コンセプト」が示唆する次期パンダは、EVとして2021年にも登場するという観測もあるが、現行型も一定期間は併売されるといわれているようだ。
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