ソニーは「第2のテスラ」になれるのか!? ソニー製のEVが東京で公道走行開始へ
くるまのニュース / 2020年8月8日 8時10分
ソニーは2020年7月27日、東京都内で電気自動車(EV)の試作モデル、「VISION-S」を公開した。2020年度中に日本の公道で走行実験を予定しているという。現時点では販売の計画はないというが、現時点での作り込みを見ると、すぐにでも市販化されてもおかしくないレベルだ。ソニーは「第2のテスラ」になることができるのだろうか。
■ソニーがモビリティを学ぶために作ったコンセプトカー
「VISION-S Prototype」とは、ソニーが2020年1月のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表したコンセプトカーだ。
全長4895mm×全幅1900mm×全高1450mmという大きさのボディに、200kW(271ps)のモーターをふたつ搭載した4WDのEVで、乗車定員は4名。サイズ的にはEセグメントのセダンで、メルセデス・ベンツの「Eクラス」やBMW「5シリーズ」と同じくらいとなる。
どういう理由でソニーが、このようなクルマを発表したのだろうか。
公式サイトには「車の仕組みに深く接近すること。さらに、その作り方や課題はもちろん、社会と車の関係性をも掴むこと。そんな目標のもと、ソニーは走行可能で安全にも配慮した一台の車を開発しました」とある。
クルマの「仕組み」「作り方」「課題」、そして「社会とクルマの関係性」を掴むことが目的だという。つまり、ソニーはモビリティ事業に参画したい。そして、その基礎を学ぶためにクルマを作ったというのだ。
面白いのは走行可能だということ。モックアップではなく、きちんと走れるクルマをソニーは用意した。
これは開発パートナーとして欧州のマグナ・シュタイア社と組んだことで可能となった。マグナ・シュタイア社は、オーストリアに本社を置く歴史ある自動車製造会社で、これまで数多くのブランドのクルマの生産を担ってきた。
古くはメルセデス・ベンツ「Gクラス」製造の実績があり、現在ではトヨタ「スープラ」/BMW「Z4」の生産をおこなっている。自動車生産のプロ中のプロだ。マグナ社と組むことで、ソニーは走行可能なコンセプトカーを作ることができたのだ。
ちなみに、ソニーはモビリティを作ってきた歴史はないが、エレクトロニクス系の技術は世界屈指。そして現在のクルマは、どんどんとエレクトロニクスの領域が増えている。
近年の自動車業界のトレンドとなるCASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)には、ソニーの技術が応用できる領域が非常に大きいのだ。実際に、最新のトヨタの先進運転支援システムには、ソニー製のセンサーが採用されている。
つまりVISION-Sは、「ソニーの技術をモビリティに使うと、何ができるのか?」というショーケース的な存在なのだ。
ソニーの最新のCMOSイメージセンサーやToFセンサー(光で距離を測る)などのセンサーを33個搭載。また、没入感のある立体音場をつくる「360リアリティオーディオ」などが搭載されている。走りという意味では、先進運転支援システムにソニーのセンサー技術が使える。車内というパーソナル空間には、ソニーのオーディオ技術が使えるのだ。
またソニーは「発表して終わりではなく、これが第一歩」だという。先進運転支援システムにせよ、車内オーディオにせよ、実際の道でリアルに走らなければ、開発が進まないと考えているという。そのために「日本での2020年度の公道走行」を予定しているのだ。
■家電メーカーが自動車メーカーになる可能性はあるのか
「ソニーがEVのコンセプトカーを発表した」と聞けば、誰もが「ソニーがEVで自動車事業に参入するのか?」と疑問に思うはずだ。世界を見渡せば、テスラという成功例もある。
「VISION-S Prototype」とは、ソニーが2020年1月のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表したコンセプトカーだ
ほんの数年前までは「EVは、エンジン車と違って部品数が少ないから参入は簡単だ」という意見もあった。
しかし、リアルなところでは、2019年のダイソンのEV事業からの撤退があり、かつてあったアップルやグーグルの自動車参入の噂も、現在では、さっぱり耳にしなくなった。
ヤマハが、何度もコンセプトカーを発表しつつも、結局は、自前のクルマの発売はおこなっていない。つまり、テスラという成功はあるものの、それ以外は死屍累々。自動車事業への参入は甘くないというのが、常識ではないだろうか。
しかし、ソニーは「参入しない」とは言っていない。
じつは春先にソニーの開発担当者にVISION-Sの話を聞く機会があった。
その話の端々からは「クルマの開発の大変さは重々承知」という慎重さが伝わってきた。しかし、センサーなどのサプライヤーになるためならば、わざわざ生産能力のあるマグナ・シュタイア社と組む必要はない。
そういう意味では、ソニーはVISION-Sの開発を通して自動車事業の限界をサプライヤーと決めつけるのではなく、どこまでできるのかを見極めようとしているのではないだろうか。
※ ※ ※
ひとことで自動車事業といっても、意外と幅はある。自前でディーラー網を作って、新しくできたEVを乗用車として顧客に売る、というビジネスモデルだけではない。ゴルフ場向けのカートという選択肢もあるし、それこそシェアリング用の超小型EVという手もある。売り切りの乗用車だけではないのだ。
ソニーという会社は、これまで数多くの「世にないもの」を生み出してきた企業だ。できればVISION-Sの学びから、そうしたソニーらしい、あっと驚く新しいモビリティを生み出してほしいものだ。
そんな期待を抱けるのもソニーだからだろう。
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