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ボルボはなぜ今後登場する全モデルを電動化する? やむにやまれぬ欧州の事情

くるまのニュース / 2020年8月26日 19時40分

2020年8月25日、ボルボのPHEV「XC40リチャージ プラグインハイブリッドT5」が日本に上陸した。このようにボルボは、2019年以降に発売するすべてのモデルに電気モーターを搭載すると発表している。なぜボルボは電動化戦略に突き進んでいくのだろうか。

■欧州では2021年からCO2排出量を95g/kmへと規制される

 スウェーデンに本社を置くボルボ・カーズ(ボルボ)は、2019年から全モデルを電動化すると、2017年7月5日に宣言した。

 それはICE(Internal Combustion Engine=内燃機関)のみを搭載したクルマの歴史的な終焉の発表だった。2019年以降に発売されるすべてのボルボ車に電気モーターを搭載し、電動化を将来の事業の中心に据えることを明らかにしたことは、ひとつのカーメーカーとしては画期的なできごとである。

 ボルボは全モデルに、EV(電気自動車)、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)、もしくはMHV(マイルド・ハイブリッド車)をラインナップするという。また2019年から2021年の間に5台のEVを発表し、うち3台はボルボ・モデル、2台はポールスターのハイパフォーマンスカーになる予定だという。

 現在、この計画は順調に進んでいるようだが、なぜボルボはこうした方針を選んだのだろうか?

 それはボルボの「徹底してやり抜く精神」からきていると思う。安全に関しても、ボルボは昔から妥協せずに最高の安全性を確保すべく、最大限の努力と工夫をしてきた。

 過去には3点式シートベルトを開発し、その特許は無償で他メーカーにも使わせた。世界中のクルマが安全に乗れるようにするためだ。

 衝突安全性に関しては、あらゆる角度からカーtoカーのクラッシュを再現できる大規模な衝突実験試験場を建設し、北欧で多い路面逸脱によるロールオーバー事故も実験を重ねながら対策を盛り込んでいった。

 最終的には、ボルボ車に乗っている人が、事故で重症や死亡に至らないようにするための対応を進めている。もちろん乗員だけでなく、歩行者を保護するためのボンネットエアバッグもすでに実用化している。

※ ※ ※

 いま自動車メーカーにとって重要なのは環境問題である。

 日本では燃費が話題になるが、欧州では二酸化炭素(CO2)の排出量が大きなテーマになっている。燃費が良くなればCO2の排出量も減るので、これらは深くリンクしたものなのだが、地球温暖化になるといわれているCO2を少なくすることがカーメーカーにも求められている。

 EUでは、2021年にメーカーごとの1台あたりのCO2排出量の平均値が、95g/km以下にしなくてはならないという排出ガス規制がある。つまり1km走行に対して、CO2排出量が95g以下に抑えられていればいいということだ。

 では、排気量1リッター程度の普通のエンジンで走るコンパクトカーはどれくらいかというと、じつは100g/km以下に抑えるのですら難しい。それよりも排気量が大きく、車重が重くなると、CO2排出量はどんどん増えていくから、95g/kmを実現できないメーカーも出てくるはずだ。とくに重量級のモデルを多く生産しているメーカーでは、200g/kmとか300g/kmも排出しているモデルも少なくないからだ。

 しかもこの規制には罰則があって、平均値で1g/kmオーバーするごとに日本円で約1万円の罰金、そして生産台数分が掛け算されるというから、かなりの金額になる。

 仮に平均が145g/kmになったとすると、50g/kmのオーバーになる。ボルボのケースでざっと計算すると

 50(g/km)×1万(円)×70万(台)=3500億円

 にもなる。ただしこれは、145g/kmで収まったら、という試算であり、もしこれが200g/kmになったら罰金の額は約7350億円になってしまう。

■各メーカーが電動化を進めていっても内燃機関が消えることはない

 クルマを電動化することにより、走行中のCO2の排出は小さくなる。BEV(バッテリーEV)の場合はCO2排出ゼロになるから、平均値を引き下げるためには非常に有効だ。

2020年8月25日に日本に上陸したボルボ「XC40リチャージ プラグインハイブリッド T5インスクリプション」2020年8月25日に日本に上陸したボルボ「XC40リチャージ プラグインハイブリッド T5インスクリプション」

 PHVの場合は、大まかにいうと、外部から充電したバッテリーで走行する距離をCO2排出ゼロで走れるという計算だから、CO2排出量は一気に35-50g/km程度に抑え込める。平均値を落とすために、PHVはこれからもどんどん増えるだろう。MHVの場合にはエンジンを頻繁に止めることで燃料を使わない走りができ、CO2の排出も下げられる。

 こうしてEV、PHV、MHVだけになれば、メーカー内での平均CO2排出量が95g/km以下に抑えられる可能性が高くなり、高い罰金を払わなくても済むわけだ。

 CO2排出量が抑えられ、燃費も良くなるのはいいが、電動化をおこなうには必ず高価なリチウムイオンバッテリーが必要になるから、イニシャルコストが高くなる。それはユーザーにとって大きな負担になる。

 他のメーカーもそのあたりのバランスをとりながら、徐々に電動化を進めていくというのが実情だろう。

 テスラのようにBEVしかないメーカーは、CO2の排出権をほかのメーカーに売ることもできるから、罰金よりも安ければ買うメーカーも出てくるだろう。

※ ※ ※

 将来は、ボルボのようにすべてのクルマが電動化される可能性はあるが、電動化を進めていってもICE(内燃機関)がなくなることはないと筆者は考えている。

 もしクルマが充電する電気を火力発電所で発電したとすると、いまクルマに搭載しているエンジンのほうが排出ガスはクリーンだから、直接発電機(エンジン)をクルマに搭載して発電しながら走ったほうがトータルでは環境に良い。この考え方で登場したのが、モーターで駆動する日産のe-POWERになる。

 もし、すべてのクルマがEVになったとしよう。たとえば60kWhのバッテリーに毎晩全車が充電しようとしたら、現状ではかならず電力は足りなくなる。

 あなたの家庭の1か月の使用電気量はどれくらいだろうか。おそらく一軒で400kWhとか500kWhくらい使っているはずだ。

 たとえば日産「リーフe+」を充電するとしよう。クルマ1台充電するために必要な62kWhという電気量は、家庭での3日から4日分の電気量にあたる。

 この電気量を、すべての家庭で充電しようとしたら、それこそ原子力発電所を多く建設しなくてはならなくなるだろう。いろいろな面でそれは無理だ。

 簡単に電動化といっても、一気にEVに行くのではなく、PHV、MHVも使いながら徐々に進めていくしかないのが現状だ。

 ボルボのEV、PHV、MHVという3種類での電動化への舵取りは、そのあたりも考慮した戦略なのだ。

 とはいっても、欧州の排出ガス規制はあくまでも法律で決められたものだから、将来的にはもっと厳しくなるのか、逆に緩くなるのか。それにより自動車メーカー各社の動向が変わってくるかもしれない。

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