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なぜ高級SUV「レンジローバー」は誕生した? 英国紳士に愛される理由

くるまのニュース / 2020年9月18日 19時10分

日本だけでなく世界中で人気となっているSUVだが、元祖ラグジュアリーSUVといえば「レンジローバー」といっていいだろう。2020年に誕生から50周年を迎えるレンジローバーの誕生秘話を振り返ってみよう。

■元祖ラグジュアリーSUV誕生の社会的背景とは

 2020年は、自動車界における「アニバーサリーイヤー(記念の年)」の当たり年。自動車史上に冠たる名作たちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。

 現在隆盛を極めている「SUV」というジャンルを、初代フォード・ブロンコとともに開拓したといわれるレンジローバーは、その最たる一例であろう。今年で誕生からちょうど半世紀、50周年を迎えた。

 新型コロナ禍が全世界に影響を及ぼしていることから、大々的な祝賀イベントなどは執りおこなわれることなく終わりそうなのだが、それでも50周年記念モデル「レンジローバー・フィフティ(Range Rover Fifty)」が限定販売されるなど、ジャガー・ランドローバー社ではこれまでこの偉大なモデルを愛してきたファンへの感謝の想いを伝える姿勢を見せている。

 そこで今回は、われわれVAGUEでもレンジローバーの誕生ストーリーを紐解き、偉大なる元祖高級SUVへのオマージュの意を表することにしたい。

●カントリージェントルメンの夢を実現

 かつては地味ながら上質な中型車を作るメーカーだったローバー社から、1948年に誕生した「ランドローバー(のちの初代ディフェンダー)」の走破能力と頑丈さは、英国の伝統である地方在住の上流階級「カントリージェントルメン」たちにも、ほどなく認知されることとなる。

 彼らは、自身が所有する広大な農場での移動手段として、あるいはこれも英国の伝統文化であるハンティングなどにも愛用してきた。

 ところが、イギリスがビートルズやミニスカートなどポップカルチャーに上塗りされてしまった1960年代を迎えると、ランドローバーを取り巻く状況にも若干の変化が生じていた。

 この時代、上流階級の子弟の間では、都会でおこなわれるフォーマルなパーティやオペラハウスにランドローバーで乗りつける、いささかスノッブな洒落が流行したという。

 しかし高速巡行が苦手で、しかもブラックタイの正装にはとうてい似合わないランドローバーよりも、もっと快適でスタイリッシュなクロスカントリー車を求めるリクエストが、少なからず寄せられるようになってきたのだ。

 今からちょうど半世紀前、1970年6月にデビューした高級SUVの開祖「レンジローバー」は、そんなカントリージェントルメンたちの夢を体現したモデルだった。

 この素晴らしき乗り物を創造した名エンジニアの名前は、チャールズ・スペンサー・キング。しかし、このなんとも麗々しい本名で呼ばれる事例はほとんどなく「スペン・キング」という通称名の方が遥かに有名であろう。

 彼は、第二次大戦後のイギリスを代表する天才肌のエンジニア。フランスのシトロエンに傾倒する一方で、独創的なアイデアを英国伝統のクルマ作りにブレンドする、卓越したバランス感覚の持ち主でもあった。

 キング技師は1960年代のなかごろから、走破性やユーティリティでは既に高い評価を受けていたランドローバーをベースに、オンロードでも快適に走ることのできるクルマが創れないだろうかというアイデアをあたため続けていた。

 その企画案についてローバー社首脳陣の認可が下りると、彼はさっそく開発作業に着手。1965年には「ROAD ROVER」という仮の社内コードネームが与えられた第一次プロトタイプとともに、秘密裏のロードテストに入る。

 そして1969年になると、現在ではレンジローバーの人気モデルのネーミングに転用されている「ヴェラール(Velar)」の名を初めて冠した、ほぼ生産型レンジローバーに準ずるプロトタイプを26台製作。砂漠や荒野など、世界中のあらゆる厳しいステージで走行テストをおこなったのち、ついに生産化へのGoサインが出されたのだ。

 かくしてランドローバー第二の市販モデルとなったレンジローバーは、当時のランドローバーに採用されていた、前後とも固定軸のサスペンションは維持されるが、リーフスプリングに代えてソフトなコイルスプリングを採用。最新のセルフレベリング・システムと組み合わせる、革新的なサスペンションが採用されたほか、サーボ付き4輪ディスクブレーキも標準装備とされた。

 パワーユニットは、ランドローバーの2.2リッター直列4気筒からジャンプアップ。もともとは北米GMから生産権を譲渡されたものながら、のちに「ローバーV8」と呼ばれることになる傑作ユニット、軽合金製3.5リッターV型8気筒OHVエンジンが選択された。

 この強力なエンジンを、未開の地などでの使用を想定してオクタン価の低いガソリンでも使用可能なようにデチューンし、132psを発生。4速MT+2速トランスファーによるフルタイム4WDシステムを組み合わせ、最高速155km/hという高速クルーズ性能とオフロード走行性能を完全両立した。

 また、スペン・キング技師はメカニズムのみならず、デザインワークにも深く関与。極めて簡潔ながら、独特の美しさも感じさせるレンジローバーのボディは、ランドローバーと同じく総アルミ製で、2枚のドアと上下2分割式のテールゲートが与えられた。

 そして、ランドローバーの悪路走破性と多用途性、そして高性能な乗用エステートワゴンの性能と居住性を併せ持つモデルとして高く評価されたレンジローバーは、リリースと同時に英国上流階級のステータスシンボルとなるのだ。

■「レンジローバー」はどうして「砂漠のロールス・ロイス」と呼ばれるようになったのか?

「あらゆる作業に適応する農民の従僕」という、朴訥きわまるコンセプトのもとに開発され、農民およびカントリージェントルメンたちからこよなく愛されてきた元祖ランドローバーとは違って、高速道路や都市にも快適に乗り入れられるレンジローバーは、スノッブな都会の富裕層にも新鮮な衝撃を与えて、たちまち市民権を得てゆくことになる。

●砂漠のロールス・ロイス

砂漠のロールス・ロイスと呼ばれた「レンジローバー」砂漠のロールス・ロイスと呼ばれた「レンジローバー」

 加えて、1970年代当時に世界を震撼させたオイルショックによって、急速に経済力を得た中東諸国のオイルダラーにとって、たとえ自国の砂漠であっても快適に高速移動できるレンジローバーは、ほかのどんなクルマにも代えがたい貴重な存在となる。同じ「R-R」のイニシャルを持つことから、ついには「砂漠のロールス・ロイス」と呼ばれることになった。

 ところで「砂漠のロールス・ロイス」なる称号は、上質なレザーとウッドキャッピングに囲まれたゴージャスなインテリアから名づけられたものと誤解されがちだが、現実はそうではない。

 レンジローバーの正規オプションリストに本革シートが載せられるようになったのは、発売から実に17年が経過した1987年。ウッドパネルに至っては、1989年から装着されたに過ぎないのだ。

 ならば、レンジローバーを「砂漠のロールス・ロイス」たらしめた真の理由はといえば、オフローダーとして超一級の性能を保ちながら、オンロードにおいても素晴らしい快適性と、目を見張る走行性能を有していたことにある。

 そのドライブフィールは、常にスムーズにして快適。さらには、地球上のあらゆる道を走破できるほどの耐侯性も備えたレンジローバーは、スペン・キング自身が若きころよりもっとも敬愛していたクルマ、シトロエンDSが受けたのと同じ「マジカル・カーペット(魔法の絨毯)」という賞賛を、本質はあくまで本格的なクロスカントリーカーでありながら獲得することができた。

 そして、持ち前の資質がもっとも試される環境、例えば伝説のラリーレイド「パリ-ダカール・ラリー」などでは、創世期におけるトップコンテンダーとして目覚しい活躍を見せたのだ。

 こんなレンジローバーの素晴らしさに心奪われたのは、何も「下々の」富裕層たちだけではない。

 伝統的に狩猟やポロを嗜むイギリス王室メンバーも歴代レンジローバーを愛用し、初期のランドローバー時代から合わせると、エリザベス女王とエディンバラ公、故エリザベス王太后、そしてチャールズ皇太子の4名から、英国王室御用達の証である「ロイヤルワラント」を得るに至った。

 これは自動車としては、史上初となる栄誉だったのである。

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