なぜ軽は64馬力規制を継続? 普通車は16年前に撤廃も 規制故に出来る事とは
くるまのニュース / 2020年10月19日 7時10分
自動車メーカーの自主規制である「馬力規制」ですが普通車は撤廃されていたにもかかわらず、軽自動車はいまでも64馬力のままです。その理由はどこにあるのでしょうか。
■普通車に「280馬力規制」がおこなわれた理由
かつて自動車メーカーは、普通車や軽自動車に対して、それぞれ「280馬力規制」、「64馬力規制」という、最高出力を抑える自主規制をおこなっていました。
現在、普通車の280馬力規制は撤廃されていますが、軽自動車の64馬力規制は残っています。なぜ軽自動車は現在でも自主規制を継続しているのでしょうか。
クルマは、各国の法規制によって進化する方向が大きく変わります。例えば、世界最大の新車販売市場である中国では、電動車(おもにEV・PHV)を優遇する政策を採ったことで、世界中の自動車メーカーがEVやPHEVの開発に注力するようになりました。
また、日本では道路運送車両法によって、クルマの保安基準などが定められています。近年、いわゆる「流れるウインカー」を採用する新車が増えたのは、道路運送車両法の改正によってウインカーについての規制が緩和されたためです。
このように、クルマの開発や販売は、その国の法律や規制によって大きく影響を受けます。
一方、こうした法規制とは別に、自動車メーカー各社による自主規制があります。
なかでも有名なのが前述の「馬力規制」です。1980年代後半、自動車の技術競争が活発化したことで市販車のパワー(最高出力)の増大化が進みました。
一方で、比例するように増える交通事故を懸念して、運輸省(現国土交通省)が日本自動車工業会に申し入れしたことで実施されたものです。
バブル景気に沸く当時の日本では新車が飛ぶように売れ、なおかつ輸入車ブランドも日本へ攻勢を仕掛けていたことから、国内の自動車メーカーはとにかく魅力的なクルマを作ることに必死でした。
そのなかで、もっともわかりやすく性能をアピールできるのが最高出力だったのです。
しかし、政府が「交通事故非常事態」を発令するほどに、当時交通事故は社会問題となっており、日本の自動車メーカーで構成される日本自動車工業会としては、政府からの申し入れを受け入れざるを得ませんでした。
その結果、当時のクルマは基本的に最高出力が280馬力へと制限されることになり、普通車の馬力規制の発端となったのは1989年に発売された日産「フェアレディZ(Z32)」といわれています。
その後、1980年代後半から1990年代にかけて、ホンダ「NSX」や日産「スカイラインGT-R」、マツダ「RX-7」など、名だたる名車が登場しています。
それらの最高出力が280馬力に統一されているのは、こうした自主規制の影響があったためです。
しかし、その後各所の努力によって交通事故は次第に減少したことから、2004年に日本自動車工業会は普通車の280馬力規制の撤廃を申し入れます。
その結果、日産「GT-R」に代表されるワールドクラスのスーパースポーツカーの国内販売も可能となりました。
■普通車の馬力規制は撤廃も、軽自動車はいまも64馬力が上限?
軽自動車の64馬力規制の第1号となったのは、1987年に発売されたスズキ「アルトワークス」といわれており、アルトワークスは550ccという低排気量エンジンながら64馬力を達成しました。
そして、それ以降ほぼすべての軽自動車が64馬力を最高出力としており、2020年現在も原則として64馬力を最高出力として販売されています。なぜ、軽自動車ではいまなお自主規制がおこなわれているのでしょうか。
64馬力規制について、自動車業界関係者は次のように話します。
「軽自動車の最高出力がいまなお64馬力であるのは、単純にニーズがないということが原因だと思います。
いまはかつてほど、馬力をアピールするだけでクルマが売れる時代ではありません。とくに軽自動車の購入者層ならなおさらで、馬力には興味がない人がほとんどです。
また、エンジン技術や車体の軽量化も進んだことから、64馬力でも日常の足として十分に機能しますし、坂道でも登れないということはありません。
加えて、近年では軽自動車の高価格化も進んでいることから、より動力性能が必要な人は、軽自動車と同じ予算でコンパクトカー(普通小型車)を購入するという選択肢があります。
技術的には、660ccの排気量で100馬力程度のパワーを出すことは不可能ではないでしょう。しかし、クルマの性能は最高出力が高ければ高いほどよいというものではありません。
軽自動車の規格を守ったうえで、なおかつ消費者が求めるクルマというと、64馬力で十分ということだと思われます」
「64馬力規制」のきっかけとなったスズキ「アルトワークス」
そもそも軽自動車は「全長3400mm以下/全幅1480mm以下/全高2000mm以下/排気量660cc以下」のクルマをおもに税制面で優遇するという、日本独自の規格です。
最高出力はあくまで自主規制であるため、国が定める軽自動車の規格には明記されていません。
軽自動車メーカー各社は、当然この規格に合わせるようにクルマを設計します。
とくに、最大限スペースを活用するために、ほとんどのクルマで全長と全幅は最大値ギリギリとなっています。
もし、仮に100馬力のエンジンを搭載した場合、ボディ剛性を高めるためにより肉厚にする必要があますが、全幅や全長はすでに目一杯広げているので、居住スペースを削ることになります。
その結果、居住性が悪く、なおかつ車重は増加し燃費も悪いという軽自動車が出来上がってしまいます。
ボディサイズを拡大したりすれば、それはもはや軽自動車ではなくなってしまうため、軽自動車の最高出力を上げることは、軽自動車の存在価値を失うことでもあるといえそうです。
※ ※ ※
軽自動車は日本独自の規格ではありますが、その厳しい規制のなかで燃費性能や居住性能を高めたり、ライバルと差別化するデザインをしたりという点で非常に優れているため、海外の自動車メーカーの開発者やエンジニアたちが参考にしているといいます。
軽自動車の64馬力という自主規制は、軽自動車を縛るためのものではなく、軽自動車が進化するなかで導き出されたひとつの到達点なのかもしれません。
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