最新パワーステアリングで乗り味激変! ショーワがこだわる2つのEPSに注目!
くるまのニュース / 2020年10月28日 11時20分
ホンダ系シャシパーツ・サプライヤーの「ショーワ」は、電動パワーステアリング(EPS)を手掛けています。最新のEPSを装着した車両は、乗り心地が明らかに変わるようです。どのような乗り味だったのでしょうか。
■ホンダ系サプライヤー「ショーワ」の技術発表は最初で最後?
ホンダ系のシャシパーツ・サプライヤーで知られる株式会社ショーワが自社の技術を公開し、プロトタイプの実車でリアルなテストドライブができるイベントを開催しました。
ショーワの関野専務取締役は「最初で最後のイベントとなりそうです」と語ったのですが、その訳はショーワとホンダ系のサプライヤー2社が、日立オートモーティブと経営統合することが決まっているからです。
統合後の社名は「日立アステモ」となり、日立が66.6%、ホンダが33.4%の株式を保有します。
トヨタを中心とするデンソーやアイシンなどのメガサプライヤーに対抗できる東地区のメガサプライヤーを目指すのが、ひとつの目的。健全な競争が狙いです。
しかし、すでに日産系のシャシメーカーが日立オートモーティブに統合されているので、ショーワのシャシ技術が、新会社のなかでどのようにマネージされるのかは不明です。
その意味でも、技術の足跡をしっかりと残しておきたいという、ショーワの狙いもありそうです。
前出の関野専務は、本田技術研究所時代はアキュラの最高級車(日本では「レジェンド」)の開発を指揮していたエンジニアですが、ホンダから関連企業のショーワに転出していました。
ショーワは、ダンパーや電動パワーステアリング(EPS)を主に開発製造する、シャシまわりを専門とするサプライヤーで、ホンダだけではなく多くの自動車メーカーに部品を納めています。
技術の頂点として知られるF1にもショーワのダンパーが採用されていたこともあるし、二輪のモトクロスではその性能が高く評価されています。
今回は二輪と四輪に分けてイベントが開催されましたが、もちろん私(清水和夫)は四輪のイベントに参加しました。
栃木県塩谷町にあるショーワのテストコースは、鬼怒川に沿って作られた最新のコースで、シャシ技術を鍛えるには十分な機能を誇っています。
今回紹介された技術は大きく分けてダンパーと電動パワーステアリング。ハードや制御も含めて、ショーワが開発中の次世代技術がほとんど公開されました。
走りに直結するサスペンションやステアリングの新技術が公開されるのは興味が湧きます。果たしてどのような技術なのでしょうか。今回は、パワーステアリングについてレポートします。
自動運転時代には電動パワーステアリング(EPS)は欠かせない技術ですが、人が運転するクルマでも、EPSはクルマのキャクターや運動性能に大きく影響します。
世界でいち早くEPSに取り組んだのはホンダですが、当時のEPSは手応えが乏しく、高速道路ではタイヤがどこを向いているのかわからなかったのです。
それまでの油圧パワーステアリングや、初代「NSX」のようにパワーアシストがない、昔ながらのステアリングから比べると、初期のEPSは不安になったものです。
もちろんそのときの技術はショーワ製でしたが、今回テストしてみると、「半沢直樹の倍返しだ!」と思うほど、最新のEPSはしっかりとした手応えでした。
その技術はふたつあります。そのひとつが、デュアル・ピニオン・アシスト型(DPA-EPS)です。
従来のコラムアシスト式では、ドライバーの操舵がタイヤに伝わりにくいというデメリットがありましたが、DPA-EPSでは燃費向上とドライバーにとって安心感のあるステアリングの手応えが可能となりました。
DPA-EPSを理解するには、ハンドルを操舵する力をアシストするモーターをどこに配置するのかという課題があります。
従来はコラムやピニオンにモーターを配置する方式が一般的で、ハンドルに繋がるシャフトを直接モーターでアシストします。
構造がシンプルでコストも安いのですが、モーターの振動がハンドルに伝わることもあり、ドライバーが操作するハンドル操作とタイヤの動きがリニアではないという問題がありました。
また、ハンドルは軽いが手応えが甘く、タイヤがどっちを向いているのか分からないという不満もあったのです。
一方でラックギアをモーターでアシストするタイプは、ドライバビリティが高く、ドライバーも満足できるEPSですが、中空軸を持つ特殊なモーターを使うので、コストの壁が存在していました。
ドライバビリティとコストの課題をクリアすると期待されるのが、DPA-EPSです。ステアリングラックに2か所のピニオンを設け、ひとつは従来通りにハンドル軸に繋がり、もうひとつはモーターを接続しているのが構造上の特徴。
モーターをハンドルにつながる軸から離すことで、振動面でも有利で、コストの壁もクリアできます。もちろんチューニングの自由度も高まっているから、色々なクルマの個性を作り出すことが可能となりました。
■マツダの主力SUV CX-5がさらに走りやすくなった!
実際にDPAをテストコースでマツダ「CX-5」で試しました。市販モデルはコラム型パワーステアリングを持ちますが、プロトタイプにはショーワのDPAが装備されています。
CX-5はロングセラーとなっていますが、最近はライバルも進化してきているので、そろそろアップデートが期待されています。
DPA-EPSを装着したマツダ「CX-5」でテスト走行
さて、ショーワ製DPAを取り付けたCX-5に乗り換えると、「うん、これだよね」とショーワのエンジニアに第一印象を伝えました。
ステアリングがビシッとしてセンター付近の操舵力が締まり、直進性が高まっているのです。
コーナーでもステアリングの手応えが分かりやすく、タイヤの接地感を手のひらで十分に感じることができました。
気になるステアリングからの振動は抑えられており、適度な路面情報が伝わるものの、不快な情報はカットされています。C&DセグメントのクルマにはDPAはありがたい技術だと思いました。
DPA以外にもうひとつのEPSが発表されたのですが、それはベルト・ラック・アシスト型(BRA-EPS)です。すでにBMWなどのプレミアムブランドが欧州サプライヤーから供給を受けています。
構造は電動モーターを使うのですが、ゴムベルトとボールスクリューを組み合わせ、より重いクルマに対応しています。
さらに、機能安全という観点から冗長性が実現可能。冗長性とは、安全の二重系だと理解すればよいですが、なぜこの時期に冗長性が必要なのか知る必要があるでしょう。
日本も参加している欧州自動車安全の基準調和会議(WP29)では「R79・自動操舵に関する規定」があり、そのなかでは自動で車線変更する機能の基準を定めています。
たとえば、車線変更中に電源を喪失しても、問題が起きないような措置が必要です。
しかも、自動運転技術を搭載するクルマでは、冗長性に加えて、高出力と高度な信頼性が重要。そのためにショーワが開発したBRAは汎用モーターを用いながらも、ベルト駆動とボールスクリューを組み合わせて高出力を実現しています。
このように自動運転の実現を前にして、ますますEPSに期待される機能は高まってきているのです。
実際のBRAのテストは、ホンダの高級ブランドであるアキュラの大型SUV「MDX」を使って走ってみました。
市販モデルはラックアシスト型のEPSですが、BRAとの差は歴然。ハンドリング路ではスムースな操舵フィールが得られているし、市販モデルとくらべて高級感で差別化できていました。
操舵したときのステアリングで感じる振動が少なく、大きなSUVでも軽快なハンドリングを示しています。パワーステアリングの技術で、ここまでクルマの乗り味が変わるとは驚きでした。
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