日産は即否定!「三菱自動車の保有株売却検討」報道なぜ出たのか?
くるまのニュース / 2020年11月16日 20時22分
2020年11月16日、日産自動車が保有する三菱自動車株の売却を検討するという報道がありました。日産はすぐに否定のコメントを出しましたが、自動車業界再編のきっかけとなる可能性があるだけに、その真偽が問われます。
■なぜ、三菱は日産の傘下となった?
2020年11月16日、日産自動車が保有する三菱自動車の「所有株の売却を検討する」という報道がありました。
日産自動車はすぐに否定のコメントを出しましたが、もし事実であれば自動車業界再編のきっかけとなる可能性があるだけに、その真偽が問われます。
現在、日産自動車は三菱自動車の株の34.0%を保有する筆頭株主です。
この両者は、日産自動車の筆頭株主であるフランスのルノーとともに「ルノー・日産・三菱アライアンス」を構成しており、グループ全体の2019年における世界新車販売台数は1075万6875台と、フォルクスワーゲングループに次ぐ世界第2位の自動車メーカーグループとなっています。
それまでも軽自動車の開発・生産などで業務提携をおこなっていた日産自動車と三菱自動車ですが、正式に資本参加したのは2016年のことでした。
折しも、2016年4月には三菱自動車による軽自動車の燃費不正問題が発覚し、企業価値が大きく損なわれていた時期で、そんな火中の栗ともいえる三菱自動車に対し、日産自動車は同年5月に三菱の株式取得を表明、10月に34%の株式の取得を完了しました。
この際、当時の日産自動車の社長兼CEOであるカルロス・ゴーン氏は「本件は画期的な合意であり、日産と三菱自動車の双方にウィンウィンとなるものです。両社が集中的に協力し、相当規模のシナジー効果を生み出すことで、新たな自動車産業の勢力ができあがることになります」と述べています。
度重なる不祥事によって、企業の存続自体が危ぶまれていた三菱自動車にとってこのオファーはまさに渡りに船といえたことでしょう。しかし、日産自動車にはどのようなメリットがあったのでしょうか。
三菱自動車を傘下とすることで日産自動車が得られる最大のメリットは、東南アジアを中心とした新興国市場を手に入れられることといわれています。
東南アジアなどの新興国は歴史的にも三菱グループが深く根ざしており、現地工場を持つなど地域の雇用にも貢献。
それと同時に、今後の主要市場ともいえる新興国向けの新車開発ノウハウも持ち合わせていることから、東南アジアを課題としていた日産自動車にとっては大きなメリットとなります。
また、国内市場においても、三菱自動車水島工場を活用出来るというメリットがあります。
同工場はおもに軽自動車の生産を得意としており、軽自動車の生産工場を持たない日産自動車にとっては大きな強みです。
そのほか、間接的にではありますが、三菱グループのもつさまざまなノウハウやサプライネットワークを手に入れられるというメリットもあったといわれています。
時系列を見ると、窮地に陥った三菱自動車に対して日産自動車が助け舟を出したかのように思います。
しかし、もう少し深く見ていくと新たな事実が浮かび上がります。あくまで筆者(瓜生洋明)の推測が多分に含まれているという前提ではありますが、この買収劇の背景には、稀代の経営者といわれたカルロス・ゴーン氏らつ腕が垣間見えてきます。
そもそも、日産自動車は2010年頃より三菱自動車を傘下に収めたいと考えていたと思われます。
その理由は前述のとおり、日産自動車が課題としていた、新興国市場向け新型車や国内向け軽自動車の開発ノウハウと生産設備を三菱自動車が持っていたためです。
傘下に収めるためには、少なくとも全株式の3分の1、すなわち33.4%を手に入れる必要がありますが、2016年4月時点での三菱自動車の時価総額は1兆円を超えていたため、33.4%%の株式を取得するためには少なくとも4000億円程度の現金が必要となります。いくら超巨大企業の日産自動車とはいえ、4000億円もの現金を捻出することは容易ではありません。
一方、日産自動車には2000億円を手に入れる目算がありました。それはカルソニックカンセイ株の売却です。「コストカッター」の異名をとるカルロス・ゴーン氏ですが、社長就任直後に、いわゆる「ケイレツ」と呼ばれる関連子会社を切り離したことで大きな批判を浴びながらも業績回復に貢献しました。
しかし、カルソニックカンセイだけは2016年時点でも日産からの売上が大部分を占めていました。「ケイレツ解体」には賛否ありますが、「ケイレツにこだわらずベストなパートナーと組む」を信条としてきたカルロス・ゴーン氏としては、カルソニックカンセイとの関係は見直したかったのでしょう。
そして2016年11月、日産自動車は41%を保有するカルソニックカンセイ株のすべてを米国のファンドに売却。これにより、およそ2000億円の売却益を手にします。
2000億円の調達の目処が立った日産自動車は、かねてから進めていた三菱自動車買収計画を進めます。それまで33.4%の株式の取得におよそ4000億円が必要だったのに対し、仮に三菱自動車の企業価値(株価)が半分になれば、約2000億円での買収が可能となります。
当時、三菱自動車の燃費不正問題が明らかになった発端は、日産と三菱で共同開発していた軽自動車に関して、日産側の研究者から指摘があったことで発覚したといわれています。
2016年4月20日に最初の報道があってからすぐに三菱自動車の株価は急落します。そして、5月のGWを挟んだ2016年5月12日、日産自動車は三菱自動車の株式の34%を取得するという契約を締結しました。その取得金額はおよそ2370億円でした。
本来、子会社化などの資本提携をおこなう際は、デューデリジェンスと呼ばれる企業価値の調査が入念におこなわれます。三菱自動車ほどの大企業であれば、少なくとも数か月は調査にかかるということを考えると、問題発覚を受けてから資本提携を画策したということは考えにくく、すでに調査が進んでいたと考えるほうが自然でしょう。
当然、カルソニックカンセイを売却する話も1年以上前から水面下で進められていたことを考えると、三菱自動車の株式取得とカルソニックカンセイの株式売却の話は、密接に関わっていると考えて差し支えなさそうです。
いずれにせよ、すべては日産自動車、そしてカルロス・ゴーン氏の思い通りになったといえます。
■アライアンスの必要がなくなった?
今回、ブルームバーグが報道した内容では、新型コロナウィルスなどの影響もあり、三菱自動車の業績回復が想定よりも遅れていることと、ルノーと日産から見て三菱自動車とアライアンスを継続していく、つまり資本関係を維持していく必要性が薄れつつあることから、日産自動車が三菱自動車株の売却を計画していると伝えています。
しかし、ブルームバーグが報道した直後に、ロイター通信は「日産広報部による否定のコメント」を報じています。ただ、株式市場や社会的な影響を考えると、このタイミングで日産自動車が否定のコメントを出すことはありえないため、真偽のほどは定かではありません。
仮に、報道が事実だとすると、三菱自動車の売却の理由は日産による資金の確保にほかなりません。11月12日に発表された日産自動車の2020年度上期決算では、前回見通しよりも上向きだったとはいえ、依然として6000億円以上の赤字を見込んでいます。
自動車メーカーのように多くの社員を抱え、工場や開発施設などを持つ大企業では、数千億円単位の現金が毎月必要になるといわれています。日産自動車がとにかく現金の確保を最優先しているならば、三菱自動車の株式を売却するという選択肢もあり得ます。
一方で、日産自動車は社債の発行などの現金確保施策を進めているほか、およそ2兆円の融資枠を持っていることが明らかにされています。つまり、三菱自動車株売却による1000億円から2000億円程度の現金を確保することは急務ではないと見る向きもあります。
しかし、もっとも説得力のあるのは、日産自動車内にある「ゴーン離れ」の思惑かもしれません。前述のとおり、カルロス・ゴーン氏はそのらつ腕を奮ってきましたが、結果として日産自動車を追われることとなり、現在では日産から100億円規模の損害賠償請求をされています。
カルロス・ゴーン氏が去った後の日産自動車は、株価も大きく落ち込み赤字企業へと転落。現在は内田誠社長兼CEOのもと再建を図っていますが、道半ばであることは否めません。
三菱は、日産と共同開発する新型軽EVの製造工場となる水島製作所において、約80億円の設備投資をおこなうと2020年7月に発表している。
カルロス・ゴーン氏の経営者としての手腕を評価する人も少なくない一方で、現在の日産自動車の経営層からすると、一刻も早くカルロス・ゴーン氏の亡霊を消し去り、新生日産自動車として前に進みたいと思うことでしょう。
このように考えると、三菱自動車の売却という噂は、日産自動車内にある「ゴーン離れ」が具現化したものといえるかもしれません。
※ ※ ※
もし仮に、日産自動車が三菱自動車を手放したとき、三菱自動車はどのようになってしまうのでしょうか。報道では三菱商事などのグループ企業が引受先になるといわれていますが、場合によっては外資系ファンドだったりする可能性もあるかもしれません。
株主が変わることが必ずしも不幸な結果になるというわけではありませんが、少なくとも自動車業界再編のターニングポイントになることは間違いありません。まずは各社の公式発表を待ちたいところです。
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