ポルシェ的節約大陸! オンボロ「944」で英国から南アフリカまでの2万1000kmの旅
くるまのニュース / 2020年11月23日 8時30分
コロナ禍において、キャンピングカーをはじめとしてクルマでの旅が見直されている。しかし、英国人のふたりがポルシェ「944」で敢行した旅は、スケールの大きさからしてすでに冒険の域に。これは英国の冒険野郎の旅の実録である。
■どうせ手放すなら最期にグレートジャーニーに出かけよう!
クラシック・ポルシェを運転してイギリスからケープタウンまで走った勇敢なイギリス人、ローラ・レディンとベン・クームスを紹介しよう。
多くのカーマニアは、夏の週末に貴重なクラシックカーを外に出すだけで十分満足できるだろう。だがベン・クームスは違った。彼にとっては、ポルシェ「944」を5年間毎日運転したことは、人生を変えてしまうような冒険の始まりにすぎなかった。
●中古車購入時にすでに21万kmオーバーだった「944」
イギリス人のエンジニアであるベンがアルパイン・ホワイトの944を購入したのは2002年のこと。2.5リッター直列4気筒エンジンに5速MTを組み合わせたスタンダードのLuxモデルで、距離計はすでに21万7000kmを示していた。
それはすぐに、彼の唯一の愛車として毎日使われるようになり、通勤だけでなく、長期休暇には国内やヨーロッパへのドライブにも活躍してくれた。
2007年には走行距離が32万kmを超えたため、ベンはもっと仕事の用事に適したクルマを買うことを決めた。「でもあのクルマとは思い出がいっぱいあるから、そのまま知らない人に売りたくはないと思ったんだ。だから有終の美を飾るべく、一緒に出掛けることにした」とベンは振り返る。
ベンが友人でありコ・ドライバーでもあるローラ・レディンと一緒に設定した目標は、イギリスから南アフリカの最南端ケープタウンまで944をドライブするという、2万1000km以上に及ぶ旅だった。
資金はほとんどなかったので、22歳で過走行のスポーツカーに施した改造は、サスペンションを50mm上げて、合板でつくった自家製ルーフテントを装着したことだけ。少なくとも、彼らが計画していたのはそれだけだった。
ベンは振り返る。「僕らが出発する17日前にオイルポンプが故障して、オリジナルのエンジンもダメージを受けたんだ。旅に備えてドライブシャフトやショックアブソーバーなどのスペアを取るために、あらかじめスクラップの944を購入していたから、そこからエンジンを取り出して、サスペンションを上げてくれたショップがエンジンの交換もしてくれた。予定していたとおりに金曜の朝10時に走りはじめたけど、完璧じゃなかった。でもビザやフェリーの日程の関係もあって日程を遅らせることはできなかったから出発したんだ。本当にドーバーまで辿り着けるとは思ってなかったよ」
ところがフランスに到着してしまったので、2人はヨーロッパをそのまま突き進む決意をした。「僕は工学の学位をもっているから、第一原理に立ち戻ることができる」とベンはいう。「でも実際の機械については不慣れだった。それでもどうにか小さな吸気漏れを見つけて直したら、走りが大幅に改善したんだ。そして僕らは冒険心に刺激されながら走り続けたんだ」
その後に続いたのは、肉体的な耐久力の面でも、精神的なポジティブさの面でも、英雄的といえるチームの努力だった。ヨーロッパとトルコを1週間走って、クルマはシリア国境に到着したのだが、その瞬間に両国の情勢が悪化。しかしクルマは快調に走っていたので、ふたりは旅の続行を決め、シリアとヨルダンを走ってエジプト行きのフェリーに乗ることができたのだった。
港で数えきれないほどの複雑な書類仕事をこなした後、944ファミリーはついにエジプトの大地に姿をあらわし、エジプトのナンバープレートを誇らしく掲げてカイロに向かった。
「ピラミッドの前をドライブしているとき、初めて、僕らが何かを成しとげているんだって感じたんだ」とベンはいう。「でも実際には、アフリカを縦断する旅は始まったばかりで、まだ1万6000kmほど走らなきゃいけなかった」
エジプトを走破した後、944は最初の大きなハードル、ヌビア砂漠に直面した。これは500kmの未舗装路で、常に40℃を超える気温のなか、スーダン南部の広大で何もない天空の下をのたうちながら伸びてゆくダートトラックだった。
「ポルシェはこの試練に耐えることができた。マフラーだけ犠牲になったけど、それもルーフに縛りつけて走り続けたんだ」
■さらに事態は深刻に! 果たして「944」はゴールできるのか?
旅はここから、比較的に緑の多いエチオピアへと続き、そしてケニアとの国境に着いた。そこでクルマとドライバーたちは、あらかじめ予想していたとはいえ、旅の最大の試練に直面することとなった。
モヤレからマルサビットへの道は、ケニアとソマリアの係争地である危険な国境をまたいでいて、暴力的な氏族間の小競り合いや密輸が絶えることのない無法地帯なのだ。
●危険な無法地帯で置き去りにされた「944」
ポルシェ「944」は泥のなかを突き進み、アンダーフロアは轍だらけ岩だらけの道から打撃を受けた
ベンは語る。「本当にひどい500kmの道で、もちろん止まっちゃいけない。まして故障なんて論外だ。僕らはケニア軍の護衛と一緒にコンボイを組んだんだけど、2年ぶりの雨が降ってきて道はまるでスープのようになってしまった。僕らは巨大な轍(わだち)に手間どってトラックに着いていけず、とうとう、山賊が出没する氏族紛争地帯の真んなかに置き去りにされてしまった」
ポルシェは泥のなかを突き進んだが、アンダーフロアは轍だらけ岩だらけの道から打撃を受けた。マルサビットで944は損傷した燃料ポンプの修理を受けた後、この旅の危険な部分のファイナルセクションを終えるため、目的地から8000km離れた赤道上の都市ナンユキを目指して出発した。
ベンによれば、そこから数日は比較的トラブルがなく、ウガンダとタンザニアを通過した際には、障害といえばローラのパスポートが強盗に奪われたことくらい。ここまでにクルマの総走行距離は35万kmを超え、少なくともこのうち1600kmはオフロードだった。
マラウイやザンビアではどこへ行っても、ますますボロボロになった1980年代のスポーツカーを見た人たちの困惑と興奮とに出迎えられた。ボツワナとナミビアを経て、映画のように不気味なスケルトン海岸、そして旅の最後の大きな挑戦であるナミブ砂漠へと至った。
「僕らがナミブ砂漠を渡りはじめたとき、太陽が沈みかけていた。でも、誰も今、僕らを停めることはできないって感じていた。約65km/hで走っていた時にボールジョイントのひとつが破損してしまい、スペアもなかった。だからラチェットストラップとケーブルタイを使って無理やり固定することにしたんだ」とベンはいう。
この応急処置は闇が迫ってくるなかで、何度も失敗した。南大西洋の沖合で強力な雷雨が吹き荒れるなか、ふたりは944の車内で夜明けまでぐっすり眠り、それから再びトライした。
8回目の試みでようやくボールジョイントを固定でき、彼らは時速30km/h弱で砂漠から這い出し、8時間かけて舗装路を見つけてスピードを上げることができたのだった。にもかかわらず944は60km/h少々出すのがやっとで、ケープタウンまでの残り1100kmを走破するのにさらに2日かかることとなった。
「それは劇的なフィニッシュで、クルマはヨタヨタとゴールラインを越えたよ」とベン。
「でも、やったんだよ。イギリスを出てからおよそ62日後、2万1000km以上、26の国と5つの大きな砂漠を走りきったんだ。ケープタウンから80kmほど北にある丘の斜面を越えてきて、地平線上のグレーのしみのように小さなテーブルマウンテンを目にしたその瞬間、僕らは、僕らを止めるものは何もないんだってことを理解できた。アフリカ大陸を走破できると思えるスポーツカーは多くはないけど、944のエンジニアリングの奥深さは、僕らにそれが可能だと信じさせてくれた。そして僕らはやったんだ」
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