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なぜマツダは「X」に注力? 世界初技術を投入も課題は残る 今後の展開はいかに

くるまのニュース / 2020年11月25日 9時10分

マツダの「スカイアクティブX」は、「内燃機関の到達点」とも評される技術です。どの自動車メーカーも市販化まで辿り着けなかった技術ですが、足元の販売はかんばしくないようです。スカイアクティブXの課題や今後の展開について考察していきます。

■「マツダだからできた?」スカイアクティブXは内燃機関の到達点か

 2020年11月19日、マツダ「マツダ3」の年次改良が発表されました。あくまで年次改良であるため、エクステリアやインテリアなどの視覚的な部分での変化はほとんどありませんが、マツダの独自技術による新世代パワートレインである「スカイアクティブX」のアップデートが目玉となっています。

 今回の改良について、マツダは「エンジンとトランスミッションを制御するソフトウェアをアップデートすることで、アクセル操作に対する応答性とコントロール性をより高め、上質でしなやかな走りをより際立たせました」と説明します。

 ここでポイントとなるのが、「ソフトウェアをアップデート」という部分です。

 スマートフォンの台頭によって、ソフトウェア・アップデートという概念自体は浸透しつつありますが、クルマのモデルチェンジや年次改良という文脈で見ると多少の違和感は否めません。

 そもそもスカイアクティブXは、2019年12月に登場したばかりの新技術です。

 一般的にはガソリンエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドカーに区別されますが、モーターのみで走行すること(EV走行)はできない「マイルドハイブリッド」と呼ばれるシステムを採用しています。

 トヨタ「プリウス」に代表されるハイブリッドカーですが、その多くはわずかな距離でもEV走行することが可能な「ストロングハイブリッド」です。

 それを考えると、新世代パワートレインでありながらEV走行ができないという点は、マツダの電動化技術の弱さを露呈しているかのように見えるかもしれません。

 しかし、スカイアクティブX自体は、マツダの内燃機関技術の結晶と呼べるものです。

 マツダはスカイアクティブXにおいて、「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」という独自の技術を用いて、「ガソリンの自己着火」を実現。これは、多くの自動車メーカーが開発をしていながら断念していたものです。

 これは世界最高レベルの高圧縮比ガソリンエンジンと、同じく世界最高レベルの低圧縮比ディーゼルエンジンを持つマツダだからこそなし得た技術だといわれています。

 かつてマツダは「ロータリーエンジン」や「ミラーサイクルエンジン」を世界で初めて実用化するなど、内燃機関における独自技術には定評がありました。

 スカイアクティブX搭載車のインプレッションについてはほかの記事にゆずりたいと思いますが、多くの自動車メディアから高評価を得た背景には、長きにわたるマツダの内燃機関技術の集積があったことは間違いないでしょう。

 しかし、自動車メディアやジャーナリストの高評価とは裏腹に、スカイアクティブX搭載車の販売台数はかんばしくないようです。

 マツダの発表によれば、スカイアクティブX搭載車の販売が開始した2019年12月から2020年9月にまでの10か月間における国内のパワートレイン別販売比率は、ガソリンエンジンが69%、ディーゼルエンジンが18%、そしてスカイアクティブXが13%となっています。

 ブランドの目指しているものが異なることから単純比較はできないにせよ、トヨタやホンダ、日産といった競合メーカーのハイブリッドカー販売比率はおおむね50%前後を推移していることを考えると、現時点ではスカイアクティブXが大成功しているとはいえないでしょう。

 スカイアクティブXの販売がもうひとつ伸びない理由は、その価格の高さにあるといわれています。

 一般的に同モデル内でもハイブリッド車は割高になりがちですが、多くの場合、減税分も考慮すれば20万円から30万円程度の差です。しかし、スカイアクティブXを搭載したマツダ3の場合、70万円ほどの価格差が生じてしまいます。

 そのうえ、スカイアクティブXはハイブリッドシステムではあるものの、必ずしも燃費の向上だけに特化してものではありません。

 かといって、メルセデス・ベンツの「AMG」やBMWの「M」のような、圧倒的なハイパフォーマンスモデルの代名詞的存在というわけでもありません。

 にもかかわらず、これだけの価格差が出てしまうとユーザーとしては厳しい評価をせざるを得ないでしょう。

 もちろん、新技術というものは登場してからすぐに浸透するものではありません。

 まさにプリウスがそうであったように、発売当初は「キワモノ」扱いされながらも市場からフィードバックを得ることで開発を続けつつ、フルモデルチェンジを経て2代目となったときに爆発的な販売を記録するということもあります。

 そのように考えると、今回のアップデートはあくまで将来に向けたひとつのステップであるということもいえるでしょう。

 ITの世界では、必要最低限の状態でプロダクトを市場に投入し、その後アップデートをおこなっていくことで価値を高めるという方法は一般的です。

 クルマの場合は生命に関わることもあるため、安全技術に関しては必要最低限というわけにはいきませんが、乗り味や燃費に関わるコンピュータ制御については、そうした考え方が活かせるかもしれません。

 つまり、現時点でスカイアクティブXの評価を下すのは、少々時期尚早であるということもできます。では、中長期的に見ると、スカイアクティブXはどう考えることができるのでしょうか。

■スカイアクティブXに未来はあるか?

 マツダがスカイアクティブXを開発した理由は、いくつかの視点から考えることができます。ひとつは、世界的なトレンドとなっている「電動化」へのマツダなりの対応です。

 現在、世界各国で環境規制が進み、今後も年を追うごとに厳格化していくことは明らかです。国や地域によってその時期は異なりますが、遅かれ早かれ、従来の内燃機関車は販売すらできなくなると見込まれています。

 そこで、各メーカーは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)や燃料電池車(FCV)の開発を進めています。

 日欧米、そして中国といった世界の主力市場では、今後各メーカーが発売する新車のうちの一定数を、こうした電動車にしなければならないという「CAFE規制」の導入が進められています。

 電動化の具体的な戦略については各メーカーで微妙に異なりますが、マツダのように中規模の自動車メーカーにとって電動化のトレンドは逆風といえます。

 国や地域によって細かい部分に差はあるものの、CAFE規制の考え方のもとでは、販売台数がそれほど多くなくても、有害排出ガスをまったく出さないEVやFCVをラインナップのなかに入れておけば、ある程度は既存の内燃機関車を販売し続けることができます。

 あるいは、既存のモデルにハイブリッドシステムやプラグインハイブリッドシムテムを導入することでも、規制のクリアを現実的にすることができます。つまり、時間稼ぎができるのです。

 しかし、マツダのような中規模メーカーの場合、トヨタ「ミライ」のように、将来を見据えた投資的位置づけのモデルを開発する余裕はほとんどありません。

 かといって、全モデルにハイブリッドシステムを搭載して時間稼ぎをするようなことも難しいため、マツダは欧州でトヨタ「ヤリスHV」のOEM車、北米ではトヨタと新型SUVにトヨタのハイブリッドシステム(THS)を搭載して販売する方針を打ち出しています。

e-SKYACTIV X搭載車に装着されるリアバッチe-SKYACTIV X搭載車に装着されるリアバッチ

 その一方で、自社にある既存の内燃機関車の技術を磨きつつ、比較的容易に搭載が可能なマイルドハイブリッドシステムを組み合わせることで、直近の規制を少しでもクリアしようとしているというのが正直なところといえます。年次改良におけるアップデートも、そうした背景があると考えるべきでしょう。

 この、既存の内燃機関車(ガソリン/ディーゼル)に、マイルドハイブリッドシステムを搭載する仕組みは、欧州メーカーを中心に見られる手法です。しかし、逆にいえば「一時しのぎ」であることは否めません。

 2010年前後に、「ダウンサイジングターボ」と呼ばれる、小排気量エンジンに過給器(ターボ)を搭載することで燃費とパワーを両立するという手法がよく見られました。

 これは、おもに「EURO6」という環境規制に対応することを目的としたもので、電動化技術の進んでいない欧州メーカーなどで多く採用されました。

 しかし、このダウンサイジングターボもあくまで一時しのぎでしかなく、その後の「ディーゼルゲート事件」も手伝って、自動車のトレンドは一気に電動化へとシフトしました。

 実際に、日欧米中の主要市場のほとんどが、将来的に非電動車、つまり従来の内燃機関車の新車販売を規制する方向となっているのは、前述のとおりです。

 つまり、スカイアクティブXは、あくまでも来たるべき電動化への時代へ向けたひとつのステップといえます。

 したがって、今後はマイナーアップデート(ソフトウェアの刷新)を繰り返しつつも、メジャーアップデート(ハードウェアの刷新)はそれほど多くないと考えられます。

 そうしたこともあり、マツダとしては「MX-30」を中心としたより電動車らしい電動車へと注力していくことは間違いないでしょう。

※ ※ ※

 将来的に電動車が主流となることはもはや既定路線です。しかし、かといって足元の販売台数を稼ぐには従来の内燃機関車も必要です。

 また、環境問題を考える際には、そのクルマ自体の有害物質の排出量だけでなく、生産過程で発生する有害物質も考慮に入れる必要があります。

 短期・中期・長期というそれぞれの視点でビジネスを考えなければならないなかで、マツダのようなメーカーは苦戦を強いられることが考えられます。

 明らかに不利な状況に打ち克つには、やはり技術力しかありません。独自の技術で現在の地位を築いてきたマツダが、電動化の時代にどう立ち向かうのか、注目です。

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