三菱のディーゼル車が絶滅の危機? 「エクリプスクロス」がPHEVに特化する狙いとは
くるまのニュース / 2020年12月5日 7時30分
三菱のクロスオーバーSUV「エクリプスクロス」に、PHEVが追加されました。それと同時に、これまで設定されていたディーゼル車が廃止されたのですが、その背景にはどのような事情があるのでしょうか。
■ビッグマイチェンで「エクリプスクロス」にPHEV追加
2020年12月4日に三菱は、クロスオーバーSUV「エクリプスクロス」の比較的規模の大きいマイナーチェンジを実施して、PHEV(プラグインハイブリッド)を加えました。
PHEVはいまの三菱を代表する技術で、以前から搭載される「アウトランダー」では高い人気を得ています。
従ってエクリプスクロスにPHEVを加えることは理解できますが、意外だったのは、クリーンディーゼルターボを廃止したことです。
エクリプスクロスのディーゼル車は追加グレードで、2019年6月13日に発売されました。それを2020年12月に廃止したのですから、設定されていた期間はわずか1年半です。
せっかく用意したディーゼル車を、なぜ短期間で廃止したのでしょうか。
三菱に尋ねると、次のような回答でした。
「エクリプスクロスのディーゼル車は、販売比率が少なかったです。そこでPHEVと入れ替えに、ディーゼル車を廃止しました。パワートレーンの種類を増やさず、PHEVと1.5リッターガソリンターボに集中させる意図もあります」
ちなみに2019年にディーゼル車が登場した直後は、エクリプスクロス全体に占める販売比率は約35%でした。それが最近は20%程度まで下がっていました。
ディーゼルは排出ガス規制もあって、欧州における人気も低下しています。
以前は欧州のディーゼル比率が高く、フランスでは乗用車全体の約70%を占めていましたが、いまは状況が変わったのです。
エクリプスクロスの欧州仕様も1.5リッターガソリンターボで、この流れを受けて日本仕様でもディーゼル車を廃止した事情があります。
また、三菱のPHEVに関する市場戦略も影響しています。
PHEVはすべて4WDですが、車両の前側にエンジンとモーターを搭載して、後輪にはプロペラシャフトで駆動力を伝える一般的な4WDではありません。
アウトランダーも含めて、PHEVは前後にそれぞれ別個にモーターを搭載。前後輪の駆動力も、2個のモーターによって別々に制御でき、前輪の駆動力を抑えて後輪を増やすなど、後輪駆動車のような駆動力配分にすることも可能です。
4輪のブレーキを独立制御して、安定性を高めたり、車両の向きを積極的に変えるシステムも備えており、これらの相乗効果で、PHEVは車両の挙動を自由にコントロールしやすいです。
さらにPHEVは、充電された電気で走行できるハイブリッドなので、優れた環境技術でもあります。
PHEVであれば、走行性能や運転の楽しさと、環境性能を高いレベルで両立できます。車両のカテゴリーという意味でも、三菱が得意なSUVは車高が高く、床下にリチウムイオン電池を搭載しやすいのです。
※ ※ ※
三菱は、PHEVをSUVに搭載して、ブランドイメージの再構築を図っています。現在の人気だけでなく、将来に向けたブランド戦略においてPHEVは重要です。
同時に生産効率も考えると、三菱のコメントにあった通り、パワートレーンの種類は増やしたくないという事情もあるのでしょう。
■同じディーゼルエンジンを搭載する「デリカD:5」はどうなる?
エクリプスクロスの国内登録台数は、コロナ禍の影響を受けていない2019年の時点で、1か月平均が652台でした。
同社のミニバン「デリカD:5」の1674台に比べると40%以下ですから、多額のコストを費やしにくい事情もあります。そこでディーゼル車を廃止して、PHEVと価格の割安な1.5リッターターボに整理するというわけです。
新型「エクリプスクロス PHEV」と従来型エクリプスクロス(ディーゼル仕様)」
エクリプスクロスのディーゼル車廃止について、販売店は以下のようにコメントしています。
「エクリプスクロスは、最初はガソリンターボのみで発売されました。そのために追加されたディーゼル車は、お客さまにあまり認知されていませんでした。そのため売れ行きが伸びず、PHEVと入れ替えに廃止されています。
それでも三菱には、パジェロの時代から、ディーゼルのSUVを好むお客さまがいます。いまはパジェロも廃止され、ディーゼルのSUVはエクリプスクロスのみだったので、廃止は残念です。
そうなると、エクリプスクロスが廃止したのと同型の2.2リッターディーゼルを搭載するデリカ:5も心配です。デリカD:5は人気車なので、大切に造り続けて欲しいです」
三菱によると、デリカD:5のディーゼルは、今後も安定的にラインナップを続けるそうです。
それにしても三菱では、既に新しいディーゼルエンジンを開発していません。
ディーゼルはターボを組み合わせることで実用回転域の駆動力が高く、燃費効率も優れているので、車両重量の重いSUVにはピッタリです。
排出ガスに関して課題を抱えていますが、廃止するのは惜しいエンジン技術です。さらに価格の違いもあります。
新型エクリプスクロスは安全装備なども進化しているので、従来型のディーゼル車と単純には比較できませんが、もっとも価格差の少ないベーシックなM同士で比べても、ディーゼル車が311万8500円だったのに対し、PHEVは384万8900円と、ディーゼル車に比べて約73万円高いです。
ディーゼル車は、高い動力性能と低燃費を両立させながら価格を割安に抑え、中級のGは約330万円でした。
この価格は、2リッターのノーマルガソリンエンジンを搭載するトヨタ「RAV4 アドベンチャー(4WD)」や日産「エクストレイル 20Xi Vセレクション(4WD)」などとほぼ同じ。
つまりエクリプスクロスであれば、ライバル車の2リッターノーマルガソリンエンジンと同じ価格帯で、ディーゼル車を購入できたのです。
効果的な訴求をおこなえば、販売比率が35%だった発売当初の人気を維持できたと思われます。
※ ※ ※
PHEVは魅力的なパワーユニットですが、これほど幅広いパワートレーンを選べる国産車はほかに存在しません。
クルマ好きとしては、クリーンディーゼルターボとガソリンターボ、PHEVを選べるエクリプスクロスであって欲しかったです。
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