未来のクルマはまるで電車!? 遠隔操作で走る自動運転車の可能性とは
くるまのニュース / 2021年1月7日 17時10分
東急は、伊豆高原で自動運転バスの実証実験をおこないました。まるで電車のように、監視センターで遠隔操作をすることで、運転手が不在でも走行することができるのですが、どのような可能性を秘めているのでしょうか。
■クルマが電車みたいに遠隔操作で走行する時代が来る!
「コントロールセンターから『いずきゅん号』。駐車車両を確認、これより遠隔運転に入ります」
「こちら『いずきゅん号』、了解しました」
2020年12月17日から25日に、東急が主体となって自動運転実証試験が実施されたのですが、そこで「これが未来の自動車の姿なのか」と思えるような場面に遭遇しました。
この実験は、首都圏から近い人気の観光地である静岡県伊豆半島の伊豆急・伊豆高原の最寄り駅を起点に、約2.8kmの公道で小型電気自動車バス「いずきゅん号」が走行するというものです。
筆者(桃田健史)は、駅構内に設けられた遠隔型自動運転コントロールセンターから拝見しました。
室内にある3つの大型モニターは、それぞれが四分割の画面表示になっており、その前に3人の男性が座っています。
モニターに向かって、左側に赤い腕章を巻いた統括責任者。中央は遠隔監視者で、その前には、画像や音声を切り替えたり、遠隔制御許可における緊急停止などの表示されたタッチパネルがあります。その右側に、遠隔運転をおこなう運転手という順番です。
統括責任者が全体の状況を把握して遠隔監視者に操作の指示を出し、さらにいずきゅん号の車内にいる運転手と、コントロールセンター内にいる遠隔運転手に指示を出すという流れです。
こうしたやり取りを見ていて、同席した東急関係者に「電車の総合指令所のようですね」と筆者の感想を伝えました。
総合指令所とは、東急ならば東横線や田園都市線、JRならば新幹線、また自動運転の電車ならば東京・お台場のゆりかもめなどで設置されている、運航管理を統括する施設のことです。
東急としては「電車など交通事業でこれまで培った運航管理のノウハウを、自社向けとして、または全国各地の自動運転事業者向けのコンサルタントとして事業化を考えていこうと思います」と、実証試験の目的を説明しました。
今回の実証での統括責任者と遠隔監視者は電車運行管理の経験があり、また実車と遠隔それぞれの運転手は伊豆急行のタクシー・バスでの運転経験がある人を採用。まさに、自動車の電車化という発想なのです。
次に、いずきゅん号に乗車して、遠隔運転を体験してみました。
運転席には運転手、助手席には乗員へ実験の内容を伝える担当者が座ります。座席は3列あり、コロナウイルス対策として1列に最大2名乗車との設定です。筆者は3列目にひとりで座りました。
走行ルートは想像していたより狭い道で、なおかつ観光客や地元住民のクルマの往来があるという、自動運転車にとっては厳しい状況でした。
そのなかで、最初は運転手が手動で運転し、ルートの途中から自動運転レベル2として、車両側のカメラやレーダーなどセンサーと、GPSおよび地図データを複合されて走行を開始しました。
踏切での一旦停止では、運航再開をコントロールセンターが車内運転手に指示し、車内の運転再開ボタンを押して再び自動運転レベル2走行に移りました。
その後、飲食店やテディベアミュージアムなどを通過していくと、進行方向左側に赤いパイロンを立てて路上駐車の車両が現れました。これが、遠隔操作のための設定車両です。
路上駐車車両の少し手前で、コントロールセンターからの指示により、いずきゅん号の運転手はハザードランプを点滅して停止した後、「遠隔運転を明確化するため、降車します」と車外に出ました。
ここから先は、コントロールセンターの運転手が遠隔運転に入ります。先におこなったコントロールセンター内での視察で、この状態では統括責任者と遠隔監視者も各モニターの状況を注視していることを思い出しました。
遠隔操作で無事に路上駐車車両を回避した後、少しの間、運転席無人の状態で走行が続きましたが、一旦停止して運転手が運転席に戻ってきました。
■乗用車でも遠隔操作は実現可能なのか?
今回の自動運転技術については、名古屋大学が担当し、遠隔運転システムはソリトンシステムズが開発しました。
通信は4G(LTE)を使っていますが、ソリトンシステムズの関係者によると「(データ通信の)遅延は実際の走行に大きな影響を及ぼすほどではない」とのことです。
遠隔運転者がコントロールセンターからリモートでバスを運転
今後は5G(第5世代通信)の導入により、遅延時間はさらに短縮されるといいます。
なお、同社では、建設機械の自動運転・遠隔システム実証をおこなうなどの実績があります。
自動運転の遠隔運転については、建設機械のほか、農業機械や今回の実証試験のような公共交通機関での需要が見込まれます。
ただし、こうした事業者の数は限定的であり、システム開発事業者としては、先行者利益を追求することが重要でしょう。
この場合でも、キーポイントはコスト削減です。今回の伊豆高原実証では、実質的に3人が1台を常時監視する必要がありました。
東急によると、「実用化に向けてはコスト削減が必須で、将来的にはひとりのオペレーターが複数台の自動運転車を運航管理する効率的なシステムを実用化させたい」といいます。
その一環として今回、伊豆高原駅から約40km離れた下田市内での自動運転についても、伊豆高原駅のコントロールセンターから遠隔操作を実施しています。
では、乗用車においても自動運転での遠隔操作は実現するでしょうか。
可能性として考えられるのは、いわゆるデッドマンの状況での対応です。デッドマンとは、運転中に運転者が体調を崩し、意識不明や死亡した場合などの緊急事態のことです。
たとえば、最新のスバル「アイサイトX」では、車内モニターで運転者の異常を感知し、車内警報を鳴らし、さらには位置情報からカーブを過ぎた直線路で緊急停止する仕組みを備えています。
将来的には、こうした緊急状態で車両の停止位置を移動しなければならない状況が生まれた場合、たとえばネクスコなどの道路管理者が遠隔運転をすることも考慮されるのではないでしょうか。
2030年代には、そうしたサービスが実用化されているのかもしれません。
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