EV市場は中国が覇権を握る? トヨタと異なる中国版テスラ「NIO」の戦略とは
くるまのニュース / 2021年1月16日 7時30分
EV化が加速する世界の自動車産業ですが、次世代EVの鍵を握るのが「全固体電池車」の市場投入です。そうしたなかで、中国の中国の新興EVメーカーのNIOから2022年第4四半期に全固体電池車の販売を予定していることが明かされました。これまでのEVとは、どのような部分が異なるのでしょうか。
■クルマの未来を占う、「全固体電池」とは
電気自動車(EV)の心臓部ともいえるバッテリーですが、次世代型の「全固体電池」が実用化されれば、世界が大きく変わるといわれています。
トヨタが積極的に開発を進めているといわれていましたが、中国の新興EVメーカーのNIOから2022年度中の実用化が発表されました。
一般的に、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関をもつクルマに比べて、電気自動車(EV)はゼロエミッション(有害な排出ガスを出さない)というメリットがある一方で、内燃機関車に比べて航続距離が短いことや、充電に時間がかかるというデメリットがあります。
しかし、そうしたEVのデメリットを限りなく克服するものとして期待されているのが、全固体電池と呼ばれる次世代型のバッテリーです。
現在販売されているEVには基本的にリチウムイオンバッテリーが採用されており、全固体電池もっ基本的な仕組みはリチウムイオンバッテリーと類似しています。
一方、リチウムイオンバッテリーでは電解液と呼ばれる有機溶剤系の液体が使用されているのに対し、全固体電池はすべて固形物によって構成されています。
リチウムイオンバッテリーのように液漏れによるリスクがないため、安全性の向上や設計の自由度が高まるばかりでなく、より強力なうえ、リチウムイオンバッテリーに比べて急速充電が可能です。
さらに劣化が少なく、寒冷地での効率減少が少ないなどといった、EVに必要とされるあらゆる機能が兼ね備わった次世代型バッテリーといわれています。
日本ではトヨタが全固体電池の開発に積極的で、トヨタによると全固体電池を搭載する超小型EV「コムス」での走行テストは成功しています。
そのため、早ければ2022年頃に登場する予定の次期型「プリウス」で採用されるとの噂もありますが、全固体電池は量産化に課題があるとされており、現時点で公式発表はありません。
新興EVメーカーの代表格であるテスラからも、近い将来全固体電池搭載車両が発表されると目されています。
いずれにせよ、既存のEVのデメリットを打ち消し次世代の覇権を奪う、まさしく「ゲームチェンジャー」となれる可能性を存分に秘めている全固体電池を、どのメーカーが先陣を切って発表するのかという点に、世界が注目しています。
そんななか、ダークホースともいえるNIOから、世界に先駆けて全固体電池の実用化が発表されました。
■2022年に次世代EVを実用化! でも「NIO」が本当にすごいのは…
中国では2010年ころより国策として市販車両の電動化を進めてきました。
その背景には、既存の内燃機関車では日欧米の各メーカーに対する対抗力が弱いことや、急激な経済成長にともなう大気汚染といった中国国内事情があります。
民族系と呼ばれる中国国内の自動車メーカーが積極的に電動車(EVやPHV)の開発を進める一方で、新興EVメーカーも多く登場しました。2014年に登場したNIOは、そうした新興EVメーカーの急先鋒です。
創立6年足らずの新興企業ではありますが、2018年にはニューヨーク証券取引所に上場を果たし、2020年11月には時価総額でゼネラルモーターズ(GM)を超すなど、すでにEVメーカーとしてはテスラと双璧をなす規模にまで成長しているといえます。
2016年に初の市販車となる大型SUVの「ES8」を発表した後、現在では中型SUVの「ES6」や小型SUVの「EC6」などをラインナップし、中国国内で市場を拡大しています。
そんなNIOが2021年1月9日に開催した「NIO Day」というイベントで、新型セダン「ET7」を発表しました。
テスラ「モデルS」と真っ向から勝負することになるNIO初となるセダンの登場となり、従来型のEVラインナップとして「70kWh」(航続距離約500km)と「100kWh」(航続距離約700km)の2種類を設定。
70kWhの車両本体価格は44万8000元(日本円約722万円)のプランと、別途バッテリーの定額利用料を毎月支払う「BaaS」というプランが存在。BaaSプランでは車両本体価格37万8000元(日本円約609万円)+月額980元(日本円約1万5800円)となっています。
100kWhの車両本体価格は50万6000元(日本円約815万円)のプランと、車両本体価格37万8000元(日本円約609万円)+月額1480元(日本円約2万3850円)のBaaSプランの設定があり、従来型EVのデリバリーは2022年第一四半期を予定しているようです。
また、発表時には2022年第4四半期をめどに全固体電池搭載モデル(価格未定)を発売することも明らかにされ、この全固体電池車(150kWh)は、1000kmを超す航続距離を実現するといいます。
中国EVメーカーNIOが発表したセダンタイプの新型EV「ET7」。2022年には全固体電池車を投入するという
実際に全固体電池車が市場に登場するまでにはまだ1年以上ありますが、少なくとも現時点では、NIOが全固体電池のトップランナーに躍り出たように思われます。
しかし、もっとも注目すべきことは、NIOから発売される予定の全固体電池が、既存のNIOモデルのすべてと互換性があるという点です。
つまり、既存のNIOユーザーは、新車を購入することなく、最新の全固体電池を手にすることができるのです。
既存の自動車メーカーの場合、ユーザーが新技術を得るためには、その新技術が搭載された車種を購入するしか方法がありませんでした。
トヨタの場合、現時点では燃料電池自動車(FCV)は「ミライ」しか販売されていないため、FCVが欲しければミライを購入するしかありません。つまり、「車種ありき」の仕組みです。
一方のNIOでは、車種にかかわらず、全固体電池による次世代EVという体験を享受できるという点が、これまでの自動車業界の常識とは大きく異なります。
端的にいえば、「車種ごとの違い」というのがこれまでほど意味を成さなくなるとも考えられます。
NIOでは、これまでもバッテリー部分のみを交換できる「バッテリースワップ」と呼ばれる仕組みを導入してきました。
中国国内各地に展開されるバッテリー交換用の施設で、短時間で充電済みバッテリーへと交換する仕組みを整備することで、航続距離の短さというEVの課題をカバーしてききました。
それらの取り組みは、内燃機関車の対抗馬としてではなく、まったく別のものとしてのEVという新境地を切り開くためのものだったといえるでしょう。
※ ※ ※
筆者(瓜生洋明)は、数年前からNIOに注目し、実際に現地での試乗もおこないました。
わずかな試乗ではありましたが、クルマそのものの質は決して低くないことを実感しています。
しかし、本当に驚いたのは、スマートフォンで購入が完結することや、前述のバッテリースワップと呼ばれる仕組みなどを総合した、NIOを通して得られる体験そのものでした。
全固体電池のように、技術そのものの進化も目覚ましいNIOですが、日本の自動車産業にとって本当に脅威となるのは、「モノ」だけを作っているわけではないという点かもしれません。
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