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日本に2台の激レア車! 奇抜で規格外なイタリアンスーパーカー「チゼタ V16T」をドライブする

くるまのニュース / 2021年2月4日 19時10分

スーパーカーらしさを求め、他には例を見ないV16エンジンを採用するなど、大胆ともいえるスペックのチゼタ「V16T」。希少性が高く、存在を知っている人も多くはないだろう。そのスーパーカーらしい素質はどのようにして誕生したのだろうか。

■天才達による型破りなレシピ

 チゼタ「V16T」。メイド・イン・モデナ。生産台数は10台未満。スタイリングはかのマルチェロ・ガンディーニ。V16エンジンをリアミドシップ。これらの事実だけで“真にレアな正統派スーパーカー”と呼ぶことに何の躊躇いもない。

 チゼタとはイタリア語発音のC(チ)とZ(ゼータ)で、このプロジェクトの責任者であるクラウディオ・ザンポッリのイニシャルだ。後半はV型16気筒エンジン横置き(トランスヴァース)を意味する。ではいったいクラウディオ・ザンポッリとは何者だったのか。

 クラウディオは1966年から1973年まで、ランボルギーニに勤務する開発&テスト担当のエンジニアだった。天才パオロ・スタンツァーニのもとでミウラやカウンタックを作りあげたのだ。

 スーパーカー史に残るモデルに関わった男は、ランボルギーニの開発という仕事に飽き足らず、もっと大きなこと、たとえばオリジナルカーを作り出す、に挑戦したいという野望を持ち始めた。

 1975年頃、すでに社を辞していたクラウディオは夢を追いかけてアメリカ西海岸へ旅立つ。資金を稼ごうと考えたのだ。果たしてランボルギーニやフェラーリといったイタリアンエキゾチックカーのセールス&メンテナンスの拠点を立ち上げたクラウディオは大成功を収め、十分な資金と特別な人的ネットワークを手中にする。野望への道はかくして開いた。

 ここでもうひとり、重要な人物にご登場願おう。ジョバンニ・ジョルジョ・モロダー。モロダーと聞いて音楽通の方ならば即座に幾つかの代表作を思い出すに違いない。

 かのドナ・サマーを発掘したことでも有名なプロデューサーであり、数多くの楽曲も世に送り出した作曲家。たとえば「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」や「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」といった大ヒット映画音楽も手掛けた。

 名前からも分かるとおり彼もイタリア出身だ。自身のクンタッチの整備を通じてクラウディオと出会って意気投合。折しもジョルジョはふたつ目のアカデミー歌曲賞を受賞し、オリンピックゲームの楽曲にも関わるなど絶頂期にあった。

 1985年。ジョルジョと共同でチゼタ・アウトモビリを設立。クラウディオの夢がついに実現へと向かって動き始める。イタリアを出てちょうど10年後のことだ。スーパーカーの聖地モデナに本拠をおいた。

 この地域にはフェラーリのレーシングカーや数々のスーパーカーブランドを支えてきた職人や会社が無数にあった(今でもそうだ)。さらにクラウディオのパーソナリティを知らない職人もいなかった。新たなスーパーカーをゼロから企画し生産することにかけて、世界でもっとも適した場所であった。

 クラウディオのアイデアは奇想天外だった。否、奇想天外でなければ新たなスーパーカーなど成功しないという確信があった。それゆえ16気筒エンジンを自ら設計し、それを車体の真ん中に横置きすることにしたのだ。

■自然吸気V16が生み出す未体験の世界

 1988年の冬、メインマーケットとなる北米カリフォルニアでプロジェクトの全貌を初披露。翌年にはふたりの名を冠したプロトタイプ「チゼタ・モロダー」を発表する。しかしその直後、モロダーがプロジェクトから離脱してしまう。

 湯水の如く現金を必要とするプロジェクトに、さしものモロダーも怖れをなしたのか、1台を完成させた時点で夢から覚めたのか。クラウディオはたったひとりで底なしのスーパーカービジネスへと突き進んだ……。

 1994年、アウトモビリ・チゼタ倒産。

 ランボルギーニの黎明期にあってパオロ・スタンツァーニの片腕としてエンジニア経験を積んだクラウディオ・ザンポッリ(=プロジェクトリーダー)。「ミウラ」や「カウンタック」をデザインしたマルチェロ・ガンディーニ(=スタイリスト)。世界的な有名人でカーマニアのジョルジョ・モロダー(=シェアホルダー)。

 モデナの職人たちとアメリカ西海岸のウルトラリッチたち。これ以上望むべくもない登場人物。これぞスーパーカー誕生物語に他ならない。

●チゼタを高速道路へ引っ張り出す

マルチチューブフレームにボディはすべてアルミニウム製という、まさにレーシングカーといえる構造をしているマルチチューブフレームにボディはすべてアルミニウム製という、まさにレーシングカーといえる構造をしている

 2020年。日本の某所。友人のガレージから赤いチゼタV16Tを引っ張り出すことに成功した。生産4号車。長らく日本にある個体で、過去(前オーナー時代)にもドライブした経験がある。

 チゼタが“スーパーカー中のスーパーカー”であると筆者が断言する理由は、16気筒エンジンをミドに積んでいることにある。しかも横置きとしたからこそ、この極端に幅広いスタイリングが生まれた。「大排気量マルチシリンダーエンジンをミドシップとして人を驚かせるカタチとなったクルマ」、という筆者のスーパーカーの定義をよく満たしている。

 エンジンフードは後端を起点にして丸ごと開くクラムシェルスタイル。現場経験の豊富なクラウディオらしいメンテナンス性重視のアイデアだ。なかに収まる巨大なV16エンジンは6リットル自然吸気で、最高出力は560ps。30年前にはインパクトのあった数値である。

 そのすさまじいアピアランスとは裏腹にドアは至ってフツウに横開き。これがシザードアなら最高だったのに、と思ってしまう。チゼタ唯一の不満かもしれない。

 インテリアはオールレザーで、80年代的ラグジュアリースポーツカーの典型的な雰囲気。シートも大きく、足元も広々、ペダル操作もラク、つまりは快適だ。スパルタンなスポーツカーのイメージなど微塵もない。豪華なGTであること。これもまたスーパーカーの条件である。

 16気筒エンジンはあっけなく目覚めた。日本向けにキャタライザー付きエグゾーストを装備するためいっそう静かなのだ。精緻なメカが淡々と動いているという印象もある。アイドリングミートで慎重にスタートする。

 クラッチペダルは少し重め、カウンタックと同じくらい。低回転域から実用トルクが出ているので、微速域で気難しくなることはない。要するに運転しやすいクルマである。

 高速道路の入り口を見つけて駆け上った。エンジン回転数の上昇とともに、16個のシリンダーが美しいシンフォニーを奏ではじめる。すっかりリズムに乗ったV16のエンジンサウンドにはまるで野蛮さはなく、徐々に「キィイイーン」といういままでクルマでは聴いたことのないサウンドへと収束した。

 どこまでも回っていきそうなエンジンフィールにすっかり陶酔する。絶対的な速さなどもはや関係ない。この夢見心地な時間、ずっと浸っていたい空間こそがスーパーカーに乗るということなのだから。

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