トヨタは「水素エンジン」自工会は「e-Fuel」 カーボンニュートラルはあくまで目的と言う理由
くるまのニュース / 2021年4月22日 21時0分
カーボンニュートラルという言葉がさまざまな分野で言われるなか、日本の基幹産業となる自動車業界をけん引する日本自動車工業会は4月22日に定例会見のなかで「e-Fuel」の重要性を提言。また、同日にはトヨタが水素エンジン開発に関する発表をおこないました。
■カーボンニュートラルはあくまで目的! 「e-Fuel」が日本の強みになる?
2021年4月22日の11時、日本自動車工業会(以下、自工会)の記者会見がおこなわれました。
自工会会長の豊田章男氏は「カーボンニュートラルは目的、それを実現させるために日本の強みを活かすべき」と語り、具体的には「高効率エンジン+モーターの複合技術」と「e-Fuel」について言及しています。
e-Fuelとは二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を触媒反応で合成した燃料のことです。
ガソリン/軽油と何が違うのでしょうか。
それはCO2の排出と吸収と同じにする「カーボンニュートラル」が実現できる燃料であることです。ちなみにガソリン/軽油と混ぜて使用が可能です。
このe-Fuelと電動化フルラインナップの組み合わせで、大幅なCO2低減の可能性が期待されるのはもちろん、中古車や既販車もCO2排出量を減らすことが可能なうえに、既存のインフラをそのまま使えるなど、メリットは非常に大きいです。
自工会の会見から3時間後の14時、トヨタは「トヨタ、モータースポーツを通じた『水素エンジン』技術開発に挑戦」というリリースを発表。
それと合わせて一部の自動車メディアとジャーナリストに説明会がおこなわれました。
そこでトヨタ自動車社長兼マスタードライバー兼ルーキーレーシングオーナーの豊田章男氏は次のように語りました。
「カローラスポーツがベースのレースカーに水素エンジンを搭載したマシンをルーキーレーシングが委託。
5月21日から23日に開催される『スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース』から参戦をおこなう」
ルーキーレーシングの活動はプライベーター目線でモータースポーツに参戦し、厳しい環境でクルマや技術を鍛えるという方針ですが、これは2007年からおこなわれているニュル24時間耐久レース参戦と同じ思想です。
これまでニュル24時間でも発売前のプロトタイプでの参戦もおこなってきましたが、今回はその対象が水素エンジンというわけです。
筆者(山本シンヤ)は説明会の案内が来たときに、「モータースポーツでe-FUELを使うのかな?」と予想していましたが、その予想を遥かに超えていました。
水素エンジンは、水素ガスを燃料とするためCO2を発生しないことが特徴です。
古くは武蔵工業大学(現・東京都市大学)やBMW、マツダが熱心に研究をおこなっていましたが、最近はあまり話を聞くことはなかったなかで、トヨタは粛々と開発を進めていたのです。
GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントは次のように話しています。
「研究自体は以前からおこなわれていましたが、『車両としてまとめる』は進んでいなかったのが事実です。
とはいえ、環境技術ながらも音や振動…クルマ感が出せると思って試作車を作り、社長に軽い気持ちで乗ってもらおうと思って持っていったら、いきなり『レースに出よう』と(驚)。
最初は『えーっ』でしたが、モータースポーツは量産車に対して時間軸が圧倒的に早いこと、限界が本当に解る。
そんな場で未来の技術を試して現実のものにしていかないと、未来なんてすぐにやって来ない……そんな声だと解釈しました」
※ ※ ※
ちなみにスーパー耐久は、2021年から開発車両で参戦できるクラス(ST-Q)が設けられ、ルーキーレーシングは先行開発に活用すべく「GRスープラ」を走らせていますが、今回のマシンもこのクラスからの参戦です。
実はST-Qはルーキーレーシングからの提案だと思っていましたが、実際は主催者(STO)から「ニュルのように使っていただきたい」という提案で生まれたクラスだそうです。
■トヨタ/レクサス/GRの目指すカーボンニュートラルとは?
では、この水素エンジン、一体どのようなモノなのでしょうか。
ベースとなる1.6リッター直列3気筒直噴ターボエンジン(GRヤリスに搭載)から燃料供給系と噴射系を変更。
燃料となる純粋な水素(気体)をシリンダー内に噴射して燃焼、動力を発生します。
そのプロセスはガソリンエンジンと似ていますが、燃料は水素ですので走行時のCO2はゼロです(ごく微量のエンジンオイル燃焼分を除く)。
水素エンジンの基幹部品となるインジェクターとプラグはデンソーとのタッグで開発、燃料供給システムと水素タンクは「ミライ」の技術が水平展開されています。
ちなみにGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントは次のように語っています。
「水素エンジンの特徴は『燃焼速度が高い』、『応答性の良さ』などから、トルクフルでレスポンスのいいユニットです。
既存のエンジンの部品で対応可能な一方、前出のような燃焼特性のため、『高温高圧への対応』と『インジェクター技術』が重要となります」
水素エンジンはガソリンエンジンより力が無いというのが定説ですが、現時点ではガソリン車同等ではないものの遜色ないレベルのようです。
ただ、燃費に関してはまだまだ課題が多いそうです。ちなみにレース時は移動式の水素ステーション(岩谷産業/大陽日酸/NEDOが協力)を持ち込むといいます。
ちなみにベース車両をカローラにした理由に対して豊田社長は、次のように語っています。
「水素タンクを積むのでGRヤリスより大きいクルマが良かった……という理由もありますが、カローラはトヨタの代名詞のような存在です。
世代を超えてロングセラーになったのは、その時代に合わせて『幸せを量産する』存在でした。
そんなこともあり、今回はカローラで挑みたいと思いました」
ただ、試作車とはいえ「カローラスポーツにGRヤリスのエンジンと4WDシステムを搭載」というのは、違う意味で色々と気になる所でもあります。
水素エンジンには、燃料電池車(FCV)の「MIRAI」の技術が水平展開されている
この説明会を聞いて、筆者が技術的なこと以外に感じた点はみっつありました。
ひとつは、トヨタは水素社会の実現を目指していますが、FCVに留まることなく可能性があるところ(=水素エンジン)に挑戦をおこなっているところです。
ふたつめは、コーポレートとしてカーボンニュートラルに取り組んでいるなか、トヨタは「普及」、レクサスは「電動化リッチ」を表明しています。
そのなかで、カーボンニュートラルに関して解りにくかったGRが「カーボンニュートラルやCASEの時代でも持続的なモータースポーツの未来は何か?」と、この先のモータースポーツの可能性にチャレンジしていることを明らかにしたことです。
そしてみっつめは、トヨタはカーボンニュートラルがルールだからやるのではなく、「社会のため」、「誰かのため」という考え方で取り組んでいることです。トヨタにとって、これも幸せの量産のためのひとつなのでしょう。
※ ※ ※
水素技術を活用して、内燃機関の可能性を探る。そのハードルはe-Fuelの比ではないと思いますが、ハイブリッドとFCVを世界に先駆けて量産化を実現したトヨタですから、水素エンジンも近い将来に製品化されるかもしれません。
そのときの豊田社長のコメントは「うるさくてガソリン臭いクルマが好き」からどのように変わるのでしょうか。
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