24時間耐久レース完走で注目集まる水素エンジン! BMWが限定生産した7シリーズとの違いは?
くるまのニュース / 2021年5月27日 11時10分
トヨタが富士スピードウェイで開催された24時間耐久レースに水素エンジン搭載車で参戦、無事に完走したことで一気に注目が集まった水素エンジンだが、実はBMWが2006年には限定生産している技術であった。
■BMWの水素エンジンを覚えていますか?
自動車が電動化への道を突き進もうとしている昨今、わが国のトヨタが水素エンジンの開発を進めていることを公表し、内燃機関の旧き佳き味わいを愛してやまない自動車愛好家たちの「期待の星」となりつつあるようだ。
しかし、水素燃料を用いた内燃機関の研究は前世紀からおこなわれており、「エンジン屋」として世界に名を轟かせているBMWは、あくまで実験的なものながらシリーズ生産にもチャレンジしていた。
今回VAGUEでは、BMWが2006年に開発・限定生産した水素エンジン車「BMWハイドロジェン7」について、将来への期待を込めて解説しよう。
●世界初の量産型ラグジュアリー水素サルーン
地球温暖化に甚大な影響を及ぼすという、二酸化炭素(CO2)を削減させる「カーボンニュートラル」という金科玉条のもと、2030年代にはすべての乗用車用パワーユニットの電動化が待ったなしの状態となりつつある。
そして、筆者を含む古典主義的な自動車エンスージアストが愛してやまない内燃機関のもたらす旧き佳き味わいは、悲しいけれど過去のものとなろうとしている。
そんな状況のもとにあった2021年4月22日、トヨタは水素エンジンの技術開発に取り組むことを正式に表明。総排気量1618cc直列3気筒ターボ、つまりGRヤリス用のエンジンを水素対応化したパワーユニットを搭載する「カローラ・スポーツ」を製作し、同年5月21日から23日の「スーパー耐久(通称S耐)富士24時間レース」にも参戦を果たし、無事に完走を果たした。
しかし、水素を燃料とする内燃機関を搭載したのはトヨタが初めてというわけでもない。1970年代には大学の研究所などで基礎研究が始まっていた水素エンジンは、21世紀には大きな節目を迎えるのだ。
それが「世界初の量産型ラグジュアリー水素サルーン」を謳ったBMW「ハイドロジェン7」である。2006年11月のロサンゼルス・モーターショーにおいて、2006年末から100台を限定生産するというアナウンスとともにワールドプレミアに供された。
世界限定100台という限られた台数で、しかも実験的要素が強かったものの、「E68」という正規コードネームのもとに生産され、日本でも一部のメディアや関係者を対象に試乗のチャンスが与えられたことから、そのレポートなどを目にした人もいるだろう。
ハイドロジェン7のパワーユニットは、同時代のBMW 7シリーズ「760i/760Li」に搭載されていた総排気量6リッターのV型12気筒「バルブトロニック」ガソリン自然吸気エンジンがベース。当時のBMWが「デュアルモード・エンジン」を標榜したように、水素とガソリンふたつのモードで作動し、同じ気筒内で水素とガソリンの双方を燃焼させることができるというものであった。
ただし同じ6リッターV12NAでも、純ガソリン仕様の最高出力445ps/最大トルク61.2kgmに対して、水素燃料で走る際の最高出力は260ps(191kW)、最大トルクは39.8kgm(390Nm)/4300rpmに抑制されていた。0-100km/h加速性能は9.5秒(ガソリン使用時5.6秒)、最高速度は230km/hでリミッターが作動することになっていたとされる。
通常のガソリンタンクの容量を減らすことで得たスペースに、最大容量8kgの液化水素タンクを設置。水素燃料による走行可能距離は最大200kmと謳われていたが、やはりこの「足の短さ」が大きな足かせとなり、本来の実用化はまだ先と判断されてしまった。
■現在の技術なら800kmの航続距離も夢ではない!?
トヨタ「MIRAI」二世代に代表される燃料電池車は、水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を起こし、その電力でモーターを駆動させる。これに対し、水素エンジン車はガソリンの代わりに水素を燃焼させることで動力を得る。
●水素タンク技術の進化した今こそ、BMWの再挑戦に期待したい
「ハイドロジェン7」のパワーユニットは、6リッターV型12気筒「バルブトロニック」ガソリン自然吸気エンジンがベース
100%純水素を燃料とするならば、いわゆる化石燃料には頼らない。したがって走行時のCO2排出は、エンジンオイルが燃焼する時に微小な発生があるのみで、カーボンニュートラルに向けた有力な取り組みのひとつともなりうるポテンシャルを持つ。
そして最大の特徴は、既存のガソリンエンジンをベースにモディファイを施した、正真正銘の内燃機関であること。これまで長年培ってきたテクノロジーの多くが生かせるとともに、不可避的な電動化に寂寥感を覚えていた旧来の自動車ファンにとっては、あの魅惑的なサウンドと振動をもたらす「エンジン」を、この先も楽しむことができるかもしれないという期待感を持たせてくれるものなのだ。
BMWハイドロジェン7の発表に先立つこと2年、2003年にはわが国のマツダも、当時最新モデルだったスポーツクーペ「RX-8」をベースとし、13Bロータリーエンジンを水素対応させた「RX-8ハイドロジェンRE」を実験的に開発。この年の東京モーターショーに参考出品ののち、地方自治体やエネルギー関連企業などにリース販売をおこなったという。
ところがBMWハイドロジェン7もRX-8ハイドロジェンREも、それっきりで終わってしまった。その最大の理由は、当時の技術では十分な量の液化水素を収めるタンクを持ちえなかったことが指摘されているようだ。
確かにこの時代の水素タンクの気圧は200気圧程度しかなかったという。このタンク性能の低さ、つまり一回の水素注入で走行できる距離の短さが最大のネックとなり、2000年代初頭の水素エンジンは高い障壁に行く手を阻まれてしまう。
しかし、水素タンク問題(≒航続距離問題)のブレークスルーは、意外なところにあった。それはトヨタによって開発された燃料電池用の水素タンク技術である。
MIRAIに使われている水素タンクは800気圧で、15年前のBMWハイドロジェン7用タンクの4倍。つまり、同じスペースに4倍の液化水素が注入できることから、無茶は承知で単純計算すれば航続距離も200km×4の800kmになる。これならば実用的な航続距離を得られることになるのだ。
少なくとも現状において、BMWが水素エンジンの開発を継続しているという情報はないようだ。しかし内燃機関を愛する筆者としては、ぜひBMWにもう一度水素エンジンにチャレンジしてほしいと熱望してやまない。
もはやカビの生えてしまったような古い価値観かもしれないのだが、やはり内燃機関の味わいを愛する者にとって、BMWは永遠の「エンジン屋」。SDGsに背を向けることなく、内燃機関の素晴らしいフィールを堪能できるような水素エンジンを、これから世に送り出すことができるメーカーとしては、最右翼になりうるポテンシャルがあるはずだ。
もちろん15年前のハイドロジェン7では、ガソリン単体仕様と比べて大幅なパフォーマンス低下があったことは否めない。それは15年前の技術レベルでは、ガソリンエンジンに匹敵する熱効率が実現できなかったことが大きな要因だったのであろう。
しかし、1970−1980年代のエミッションコントロール(排気ガス公害対策)で一度は牙を抜かれながらも、そののち再びパワーウォーズを展開したガソリンエンジンのごとくパフォーマンスとフィーリングを蘇らせ、しかも環境性能にも優れた内燃機関をぜひとも「エンジン屋BMW」の手で開発してほしいと切に願うのである。
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