もう二度と道に迷わない!? メルセデス「Sクラス」に搭載 オドロキの新機能とは
くるまのニュース / 2021年6月16日 11時10分
2021年1月に日本へ上陸したメルセデス・ベンツのフラッグシップサルーン、新型「Sクラス」。さまざまな最先端技術を惜しみなく投入したモデルだが、そんななかでも世界初となる機能が、オプションで設定された「フロントウインドウに投影可能なAR(仮想現実)ナビゲーション」だ。これはどういうものなのだろうか。その使い勝手はどうか、実際に試してみた。
■3D化したルート案内を実際の風景に重ねてAR表示
メルセデス・ベンツ新型「Sクラス」は、ヘッドアップディスプレイにAR(Augmented Reality=拡張現実)を組み込んだガイド機能「ARヘッドアップディスプレイ」を車載純正として初採用した。
これはメルセデスのインフォテイメントシステム「MBUX」に含まれるもので、ルートガイド中の方角や距離、車速などの情報を、ドライバーの視線上でより直感的にドライバーへ情報を伝えることが可能となる。
ヘッドアップディスプレイ最大のメリットは、ドライバーが視線移動することなく必要な情報を得られることにある。ルートガイドや速度など走行に必要な情報をフロントウインドウに重ねて表示するからだ。
ヘッドアップディスプレイは、これまでも上級車を中心に多くの搭載例があったが、新型Sクラスではそこに3D化したアニメーションによる進路案内を追加し、実際の風景に重ねてAR表示としている。
すでに2021年に日本で登場した改良新型「Eクラス」には、カメラで捉えた映像にこの表示を重ねていたが、メルセデス・ベンツによれば、AR化したのは純正ナビゲーションとしては世界初の採用例になるという。
じつは、ARを使ってルートガイドをする機能は、いままでも市販ナビゲーションなどで少なからず存在した。
よく知られているのが、パイオニアのサイバーナビが採用した「AR HUDビュー」だ。コンバイナーを備えた専用ユニットをルーフに装着し、ルートガイドをフロントウインドウ越しに見える風景と重ねて表示していた。これはレーザーによって表示を描くため、昼夜を問わず解像度が高く、地名やアイコンなどもフルカラーで鮮明に映し出すことができた。
ただし、これは後付けで対応したため、サンバイザーのあたりに大きなユニットがぶら下がる格好となり、その状態はお世辞にもスマートはいえないものだった。
それに対して新型Sクラスでは、フルカラー液晶を使ったヘッドアップディスプレイにこれを組み込んだ。これにより機器の存在をドライバーが意識することは一切ない。その意味でもSクラスに用意されたAR機能付きヘッドアップディスプレイは、フラッグシップモデルに相応しい新装備として捉えても良いだろう。
では、実際にその新型SクラスのAR機能を体験してみよう。
運転席に座ってスタートボタンを押しエンジンをONすると、ほどなくヘッドアップディスプレイが起動した。表示はフロントウインドウのドライバー前方中央より少し下に映し出され、ドライバーが無理なく見られるできる配置だ。メルセデス・ベンツによれば、この表示位置はドライバー視線の10m先に仮想表示するように設定されているそうで、これによりドライバーは焦点を合わすことなく自然に視認できるという。
表示システムはカラー液晶ディスプレイによるものだが、輝度に不足はなく、明るい昼間でも鮮明に見ることができていた。
■今後日本でもこのARナビは普及していく!?
表示情報は、走行中の速度や制限速度などADAS系を基本に、右左折や車線情報を含んだナビゲーション機能を組み合わせたものになる。
速度を中央に表示し、その左右にはACC設定速度やレーンキープアシストなどの状態を配置。さらにその左右には、斜め後方の車両の存在を知らせる警告もおこなう。
表示レイアウトも、色やサイズによる区分けがおこなわれ、一目見ただけで表示内容が理解できそうだ。また、写真ではやや不鮮明に見えるが、実際は交差点名や車線ガイドといった必要な情報もしっかりと映し出していた。
メルセデス・ベンツ新型「Sクラス」にオプション装備されるARヘッドアップディスプレイは、S500 4MATICに装備した場合のオプション価格は41万円となる ※写真はカメラを固定して撮影したもの
AR機能はそうした情報の少し上に表示される。その機能は右左折の案内と、先行車との車間距離を示す表示の二つだ。
右左折表示は常に方角を示すのではなく、案内が必要な時になると連続する矢印がアニメーションとなって進行方向をガイドする。純正だけにキャリブレーションも合わせ込んであり、進むべき方向へと矢印が正確にガイドするのがわかる。
従来の方面ガイドに加え、この矢印の動きがより確実なガイドとしてサポートするのだ。表記文字の解像度も高く、ACCなどで設定した速度やナビゲーション中の交差点名案内もしっかりと読み取ることができた。
AR表示は、分岐点に近づくと一般道は約300m手前、高速道では約1km手前で直進を示す矢印がポップアップされる。その後、分岐点へ近づくに従って連続する矢印が進行方向を示し、それが徐々にサイズアップして案内が終了するまで続いていく。この時の矢印の表示角度は、直角や斜め方向に曲がるときなど、その道路の状況に合わせて対応する。また、この一連の表示はアニメーションで動きながらガイドするため、それがドライバーへの気付きとしても効果があるようにも感じた。
少し違和感を感じたのは、高速道路での分岐点や出口付近での表示するタイミングだ。実際は分岐が始まっているのにも関わらず案内は直進のままで、右左折がガイドされたのは分岐直前だ。この時、ナビではすでに進行方向をガイドしており、このタイミングに合わせて案内してほしかった。
車間距離の表示では、先行車を一定の距離で捉えると、その距離に合わせてアイコンを表示する。車間距離が短くなるとその位置は徐々に下に(手前)表示するようになり、さらに車間距離が縮まると赤い三角の表示で警告が発せられる。車間距離はあくまで目安程度ではあるが、リアルに対応することで車間距離の注意喚起に役立つ機能と感じたのは確かだ。
車両が停止すると12.8インチの巨大な有機ELディスプレイには前方カメラで撮影した風景を表示。歩行者検知などにも活用されている
* * *
では、新型Sクラスに搭載されたことで、今後このようなARナビは普及していくのだろうか。
正直にいえば、日本の道路事情の下でこの機能での右左折が完結できるとは思えない。それはひとつの考え方として、日本と欧米とでナビゲーションに対する考え方が異なることが背景があるからだ。
欧米では元々、ナビゲーションとして矢印だけを使った「ターンbyターン」方式が普及していた時期があった。それが成り立ったのは、欧米では細街路を含むすべての道路に名称が付いているからで、その方式ではガイドする場合も進行方向の道路名を表示すればよく、交差点のガイドはおおまかでも十分だ。
一方の日本。道路名は主要幹線道路にしか付与されておらず、分岐点での曲がる方向は目印となる施設情報に頼らざるを得ない。つまり、交差点をいかに正確に高精細に描いてガイドするかが、分岐点ガイドのわかりやすさにつながったのだ。
これはカーナビに対する文化の違いでもあり、どちらがいいとも一概にはいえない。ただ、この考え方に立てば、日本での矢印による案内はあくまで詳細な交差点情報のサブガイドとしてのみ成り立つのではないかと思うのだ。
とはいえ、今回の搭載がルートガイドの新たな手段として発展していく可能性は十分考えられる。むしろ、AR機能のさらなる発展は望むところだ。
たとえば表示を液晶からレーザーへ変えれば外光の影響もグンと減ってくるし、ステアリングへのフィードバックなどHMIとのシステム化が加われば、よりわかりやすさが感じられるようにもなるだろう。案内のタイミングも含め、機能の熟成度を高めることで、より魅力的な機能へと発展していくことを期待したいと思う。
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