良いクルマなのになぜ売れない? 商品力は高いけど販売が苦戦するクルマの裏事情
くるまのニュース / 2021年8月22日 7時10分
月間販売台数が1万台や2万台を超える人気車がある一方、1000台以下のクルマも多く存在します。そのなかにも商品力が高いにもかかわらず、販売が苦戦しているクルマもありますが、どのような事情を抱えているのでしょうか。
■良いクルマなのに売れないのは、何か理由がある
好調に売られるクルマは、多くの人が使っている実績があるので、優れた商品と判断できます。
直近の2021年7月の実績では、もっとも売れたクルマはトヨタ「ヤリス」の2万3200台。
コンパクトカーのヤリスとSUVの「ヤリスクロス」、スポーツモデルの「GRヤリス」のシリーズでの販売台数となりますが、非常に好調な販売であるといえるでしょう。
ほかにも、ホンダ「N-BOX」(1万6992台)やスズキ「スペーシア」(1万983台)、トヨタ「ルーミー」(1万4807台)が同月に1万台以上の販売を記録しました。
その一方で、販売が低迷するクルマもあります。商品力が低いクルマもありますが、そうではないのに、何らかの理由で売れ行きが伸び悩むことがあるのです。
2021年の1か月の平均販売台数が1000台に満たないものの、「もっと売れてもいいのに…」と思える魅力を持つクルマの裏事情に迫ります。
●トヨタ「ヴェルファイア」(751台/月)
トヨタのラージサイズミニバン「アルファード」は、2021年に1か月平均で9392台を登録するなど、好調な販売を記録する一方、その姉妹車となる「ヴェルファイア」は751台です。
基本的に同じクルマなのに、ヴェルファイアの売れ行きはアルファードの8%と大差がつきました。
2015年に現行モデルが発売された時点では、アルファードよりもヴェルファイアが好調に売れていました。
ヴェルファイアは外観の存在感が強く、販売店もネッツ店ですから、アルファードのトヨペット店よりも拠点数が多かったのです。
従って当初はヴェルファイアが優勢でしたが、2017年末のマイナーチェンジで流れが変わります。
アルファードのフロントマスクがカッコ良くなり、2018年3月頃からは、ヴェルファイアよりも多く売られるようになったのです。
さらに2020年5月には、トヨタの全店が全車を扱う体制に変わり、それまでアルファードやヴェルファイアを扱っていなかったトヨタ店とカローラ店でも、アルファードが好調に売れ始めました。
そして遂に、長年にわたりヴェルファイアを売り続けたネッツ店でも、アルファードの登録台数が上まわったのです。
2021年には、ヴェルファイアは特別仕様車のみに整理され、販売格差が一層拡大。フロントマスクの違いで売れ行きに10倍もの開きが生じるのですから、クルマにとってデザインはとても大切です。
そして全店が全車を売る体制への移行は、もともと車種のリストラが目的でした。
ヴェルファイアの販売低迷と車種数の削減は、トヨタにとって想定の範囲内だったでしょう。
●日産「リーフ」(728台/月)
リーフは本格的な電気自動車(EV)で、現行モデルは2017年に登場した2代目です。リーフはEVを代表する存在で、認知度も高いです。
「X」の価格は382万5800円ですが、衝突被害軽減ブレーキや電気自動車専用のカーナビなどが標準装着。
そしてシンプルな買い方でも38万8000円の補助金が交付され、実質的な購入価格は340万円少々に下がります。
環境性能割や自動車重量税も非課税ですから、購入時の経済的な負担は比較的軽いでしょう。
それでも売れ行きが伸びないのは、ユーザーの充電環境です。
日本では総世帯数の約40%がマンションなどの集合住宅に住み、自宅に充電設備を設置しにくいことから売れ行きが伸び悩みました。
またリーフは40kWh仕様のXでも、1回の充電でWLTCモードにより、322km(62kWh仕様は458km)を走行できますが、ユーザーによっては充電場所について不安を感じるでしょう。
一方、ハイブリッドを代表するモデルのトヨタ「プリウス」は、「S」グレードもWLTCモード燃費は30.8km/Lなので、レギュラーガソリン価格が145円/Lなら、単純計算して1km当たりの走行コストは4.7円に収まります。
しかもプリウスSの価格は273万1000円で、環境性能割や自動車重量税は非課税です。
そうなると充電する環境が整っていないユーザーの場合、リーフではなく、簡単に給油できて安心して使えるハイブリッドのプリウスを選ぶという判断も成り立つのでしょう。
■売れ行きが芳しくないのは価格が原因かも?
●三菱「エクリプスクロス」(843台/月)
いまはSUVの人気が高いですが、三菱「エクリプスクロス」は1か月の登録台数が1000台以下です。同じくSUVのトヨタ「ハリアー」の約2%です。
エクリプスクロスが2018年に発売された時点で搭載したエンジンは、1.5リッターターボでしたが、2019年にはクリーンディーゼルターボを追加。
2020年にディーゼルを廃止して、PHEV(プラグインハイブリッド)を設定しました。この経緯はユーザーにとって分かりにくいものだといえます。
ランエボ譲りの走行性能を備える三菱「エクリプスクロスPHEV」
また三菱は「アウトランダー」にもPHEVを用意していますから、ユーザーを奪い合う面も生じるでしょう。
PHEVは価格も相応に高く、エクリプスクロスの中級グレード「PHEV・G」でも415万2500円なので、大量には売りにくい面もあります。
それでもエクリプスクロスPHEVの運転感覚は、良く曲がってスポーティです。
少し過剰なキビキビ感もあり、古典的ともいえますが、そこがかつての「ランサーエボリューション」などに通じる三菱の個性でもあると思います。
●ホンダ「インサイト」(250台/月)
ホンダ「インサイト」は上質なハイブリッドセダンです。1.5リッターエンジンをベースにしたハイブリッドの「e:HEV」は、加速が滑らかでノイズは小さく乗り心地にも優れており、WLTCモード燃費は「LX」が28.4km/Lに達します。
それでも売れ行きが伸び悩むのは、価格が割高と受け取られるからでしょう。もっとも安いLXでも335万5000円です。
ただしその分だけ装備は充実しています。衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能を併せ持つ「ホンダセンシング」に加えて、ホンダインターナビ+リンクアップフリー、アルミホイールなども標準装着しました。
インサイトは先代「シビック」をベースに開発されていますが、シビックハッチバックは1.5リッターターボを搭載して価格は294万8000円でした。
充実装備を考慮すると、インサイトはe:HEVを搭載しながら、実質的な価格は1.5リッターターボのシビックに近いです。
それなのに売れ行きが低迷する理由は、車両全体の雰囲気が地味でハイブリッドらしさも乏しいからでしょう。ほぼ同じサイズでプリウスという強敵もいるため、さらに印象が薄くなりました。
プリウスの「Aプレミアム」(333万1000円)とインサイトの価格は同等で、装備も同水準です。
内外装の質感はむしろインサイトが上まわるのに、販売面では大きな差を付けられました。
またインサイトは、初代モデルが2人乗りの燃費スペシャルで、2代目になるとシンプルなハイブリッドになって低価格を追求。3代目の現行モデルは、逆に上質感を特徴としています。
フルモデルチェンジの度にコンセプトが変わり、インサイトの一貫性が乏しいことも、販売を低迷させた原因でしょう。
商品力が相応に高いのに売れないクルマには、それぞれ違った事情があるのです。
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