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新型「クラウン」セダンはFRじゃないとダメ? 3種のSUVを新設定するトヨタの狙いとは?

くるまのニュース / 2022年8月10日 10時10分

トヨタ新型「クラウン」は、これまでのセダンに加え、3つのSUVを新たに設定し、全4モデルをラインナップします。これにはどのような狙いがあるのでしょうか。

■新型クラウンは4モデルが用意される!

 2022年7月に世界初公開されたトヨタ新型「クラウン」に驚いた人は多いでしょう。クラウンは今まではセダンとして発展してきたのに、SUVを3種類も用意したからです。

 このフルモデルチェンジをユーザーの立場で見ると「クラウンだけは残したい!」というトヨタの願いを感じます。

 近年ではセダンの売れ行きが世界的に低調で、車種の廃止も目立ちます。とくにトヨタは軽自動車を自社開発しない小型/普通車のメーカーですから、かつてはセダンの車種が数多くありました。

 セダンの売れ行きが下がった結果、「マークX(かつてのマークII)」、「プレミオ(コロナ)」、「アリオン(カリーナ)」など、以前は国内販売の主役だったトヨタのセダンが次々と廃止されました。

 クラウンも同様に売れ行きを下げています。1990年におけるクラウンの登録台数は、1か月平均で約1万7300台に達しており、今のヤリスシリーズ(ヤリス+ヤリスクロス+GRヤリス)と同等に売れていました。

 それが2021年のクラウンの登録台数は、1か月平均で約1800台に留まり、1990年の約1割です。

 ここまでクラウンが売れ行きを下げた背景には、セダンの衰退と併せて、「アルファード」や「ハリアー」の人気もあります。

 トヨタの販売店からは、次のような話が聞かれます。

「最近はクラウンからアルファードやハリアーに乗り替えるお客さまが増えました。とくにアルファードは車内が広く豪華で、乗り心地も快適です。

 政治家や企業のトップがアルファードを使い、その様子がTVニュースなどで放送されて、アルファードの人気が急上昇しました」

 つまり今のアルファードは、人気の高かった時代のクラウンに相当する存在なのでしょう。

 とくに2020年5月以降は、トヨタの全店が全車を販売する体制に移行しています。それまではクラウンはトヨタ店、アルファードとハリアーはトヨペット店で売られ、クラウンから乗り替えるには、基本的に販売店を変える必要がありました。

 それが2020年5月になると、トヨタ店でもアルファードやハリアーを買えるようになり、乗り替えも急速に進んだのです。

 2020年には、クラウンの登録台数は前年に比べて約40%減りました。しかしアルファードは32%増えて、ハリアーは現行型に刷新されたこともあって82%増加しています。

 この推移を考えると、かつてのマークII、コロナ、カリーナなどと同様、クラウンも廃止される運命にありました。それを敢えて残した一番の理由は、クラウンが初代モデルを1955年に発売したトヨタの基幹車種になるからです。クラウンだけは、特別扱いされたというわけです。

 クラウンはセダンボディで、もう少し進化させる方法もありましたが、トヨタは先を急ぎました。そしてクラウンを確実に存続させるには、売れ行きを下げない手堅いクルマ造りが必要で、人気の高い売れ筋カテゴリーで開発するのがもっとも効果的です。

 また従来のクラウンは国内市場が中心で、累計販売台数約680万台の内、80%以上を国内で売ってきましたが、今の日本は伸び悩み傾向です。存続を図るなら、海外でも売りたいです。

 そこで新型クラウンは、上級SUVに発展しました。SUVは海外でも販売できる人気のカテゴリーだからです。

 一般的にフルモデルチェンジは、クルマ造りを刷新しても、カテゴリーは踏襲します。

「ランドクルーザー」がミニバンになったり、アルファードがスポーツカーに変わることはありません。

 かつての日産「レパード」のように、2ドアクーペをセダンに変更するようなフルモデルチェンジは稀です。それをクラウンが実践したのは、クラウンの車名を絶やしたくないからといえるでしょう。

■セダンだけは後輪駆動を継続する?

 そしてトヨタらしい周到さは、4種類のボディを用意したことにも表われています。「クラウン クロスオーバー」、「クラウン スポーツ」、「クラウン エステート」、「クラウン セダン」の4種類があり、ボディが1、2種類では販売面で失敗する心配もありますが、4種類をそろえれば売れ行きを伸ばせる可能性も高くなります。

トヨタ新型「クラウン セダン」トヨタ新型「クラウン セダン」

 例えばかつてのマークXは、2007年に3列シートの「マークXジオ」を加えて2種類のボディを用意しましたが、マークXジオは3列目が狭く価格は割高で販売を低迷させました。結局は廃止されており、クラウンでは同じ失敗は許されません。

 そこで4種類のボディをそろえましたが、保守的なイメージのクラウンにSUVを設定して堅調に売れるのか、という疑問もあります。この判断では、「カローラ」が参考になります。

 カローラもクラウンと同じく保守的なクルマですが、SUVの「カローラクロス」が国内市場ではシリーズ全体の45%を占めています。保守的な車名にSUVを組み合わせても、売れ行きを伸ばせることが実証されたので、クラウンもSUVに踏み切れました。

 それならクラウンは以前とはまったく別のクルマになったのか、といえば、継続性も持たせています。

 クラウン クロスオーバーの外観はSUV風ですが、ハリアーや「RAV4」のような5ドアボディではありません。ボディの後部に居住空間とは別のトランクスペースを備えたセダンです。

 セダンでは後席とトランクスペースの間に骨格があるため、ボディ剛性を高めやすく、走行安定性と乗り心地で有利になります。

 居住空間とトランクスペースが切り離されるため、後輪が路上を転がるときに発生する騒音も乗員に伝わりにくいです。

 クラウンクロスオーバーは、走りと快適性を悪化させないために、あえて荷室の使い勝手が悪くなるセダンボディを採用しました。

 駆動方式も同様で、クラウンクロスオーバーはコスト低減も視野に入れ、前輪駆動のGA-Kプラットフォームを使っています。従来型の後輪駆動に比べて走りの欠点が生じないように、全車に4WDを搭載しました。2WDはありません。

 クラウンクロス オーバーの全幅は、GA-Kプラットフォームを採用した影響もあり、先代型の1800mmから1840mmに拡大されました。

 街中などで運転しにくくなる心配もあるため、後輪操舵のDRSを全車に搭載。最小回転半径は5.4mに収まり、従来型の5.3~5.7mと同等です。開発者は「DRSを装着しないと、最小回転半径は5.8m前後に達します」と述べました。

 このようにクラウン クロスオーバーは、クラウンの車名を残すべくSUVに発展させながら、セダンの従来型と比べたときに欠点が生じないよう配慮されています。

 同様のことが4種類のボディにも当てはまります。クロスオーバー/スポーツ/エステートの3種類は前輪駆動ですが、セダンだけは後輪駆動で残す可能性が高いです。

 その根拠は、横方向から撮影した写真です。

 SUVの3タイプはフロントピラー(柱)と前輪の間隔が接近している前輪駆動の形状ですが、セダンだけは従来型と同じく間隔が離れています。

 開発者は駆動方式の明言は避けましたが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)については「クロスオーバーとエステートは2850mm、スポーツは操舵感を機敏にするために2770mmで、セダンは3000mm」と述べています。

 前述の通り後輪駆動では前輪が前寄りに配置されてピラーとの間隔も広がるため、ホイールベースも大幅に長くなりました。

 開発者は新型クラウンのフルモデルチェンジについて「従来型のマイナーチェンジを計画していたときに急遽決定されたため、開発期間も約2年半と短かったです。クロスオーバーは発表しましたが、ほかの3タイプは開発途上にあります」と述べています。

 販売店も「セダンのことはまったくわかりません」とのことです。

 そのため断言はできませんが、外観を見る限り、セダンは後輪駆動か、これをベースにした4WDで登場するでしょう。

 この背景にあるのも、クラウンの存続とブランドイメージの維持です。クラウンが前輪駆動ベースのSUVだけになると、車名は存続できても、そのイメージは時間の経過に伴って「ハリアーの上級車種」へ埋没していきます。今後もクラウンがフォーマルな位置付けを守るには、セダンの存在は不可欠でしょう。

 また今のクラウンの売れ行きは、前述の通り最盛期の約10%まで落ち込みましたが、この内の50%以上を社用車として使う法人ユーザーが占めています。法人需要は手堅く、定期的な乗り替えも見込めるため、セダンを廃止できません。

 以上のようにクラウンは、その車名を守るため、主力はSUVに変更して新規需要を獲得する一方、後輪駆動のセダンも残して従来のユーザーも維持し、4種類のボディをそろえて海外でも販売する一大プロジェクトに発展しました。

 果たしてクラウンという車名は、そこまでして守るべきものなのなのでしょうか。4種類のボディをそろえる開発をおこなって、ユーザーに現実的な利益をどの程度与えてくれるのでしょうか。

「車名とは何か」を考えさせられる興味深いフルモデルチェンジです。

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