レクサスが画期的な「MT車」を新開発! EVなのに“エンストあり”の本格派!? 「マニュアルBEV」の走りがスゴかった!
くるまのニュース / 2024年12月13日 8時25分
レクサスは、BEV(バッテリーEV)のMT車の開発を進めています。今回、MT搭載の「UX300e」に試乗したのですが、どのような乗り味だったのでしょうか。
■BEVなのにMT車!? レクサスがスゴいモデルを開発!
群馬県の榛名湖畔で開催されたイベントで、レクサス界隈の興味深いBEV(バッテリーEV)に試乗することができました。
「榛名湖」と聞いて、「おっ!」と感じた人も少なくないことと思いますが、ドライブしたコースは、まさしく某有名漫画のバトルの舞台のすぐ近くです。
広場に何台か並べられていたのはすべてBEV。なんと「AE86」もBEVです。
そのかたわらに置かれた赤いレクサス「UX300e」は、一見すると普通のモデルなのですが、車内を覗くとシフトノブがノーマルと違って、足元にはクラッチペダルもあるではありませんか。
そう、このクルマは、なんとマニュアルBEVなのです。
カーボンニュートラルに向けてBEVの普及が進められる中でも、BEVは楽しくないという先入観を持っている人は少なくありません。
そこでレクサスではそれを打破すべく、「クルマ屋ならではの操る楽しさを提供」できるBEVを作るべく取り組んでいることを、ユーザーの方々にも知ってもらい、体感してもらおうという思いから開発されたものです。
そのためソフトとハードの両面で知恵を絞り、駆動力や速度、出力特性を自在にカスタマイズというBEVの強みを活かし、位置のセンシングで出力をコントロールするとともに、独自のカラクリでフィーリング演出し、クルマの挙動を聴覚と視覚で伝えるものを作り上げました。
UX300eのパワートレイン系は、ベース車のハードウェアに手を加えられておらず、MTのシフトレバーへの交換やクラッチペダルが追加されていて、モーターの制御だけでマニュアル運転できるよう工夫したとのこと。
開発担当者から「ゲームのコントローラーと思ってください。とにかく乗ってみるのが一番!」と伝えられたので、マニュアルBEVのUX300eにさっそく乗ってみました。
このクルマはマニュアルとオートマの切り替えができて、オートマモードでは普通のクルマと同じように、Dレンジに入れてブレーキから足をはなすとクリープで動き出します。その後、マニュアルモードに切り替えました。
クラッチを踏んでスタートボタンを押すと、アイドリング音が聞こえます。MT車と同じくブレーキから足をはなしても動かず、アクセルをあおるとエンジンを空ぶかししたのと同じように音が高まり、タコメーターの表示どおり7000rpmまで回るようになっています。
ただし、車外には音が出ていないので、周囲に迷惑をかけることはありません。たしかにゲームのようです。
アクセルを少し踏んでクラッチをつなぐと、すーっと動き出します。半クラッチの感覚は本当にMT車そのもの。上り坂だと上手くやらないと下がってしまうし、アクセル開度が足りなかったりあわててつないだりするとエンストします。
開発担当者の「マニュアルモードのときは、ちゃんとMTとして運転していただくことが大事です」という言葉どおりです。
3000rpm~5000rpmあたりが“おいしい”トルクカーブになるよう意図して特性が作られているので、そこを探りつつクルマとキャッチボールしながら走る感覚もMTそのもの。
もともと150kWと、自然吸気の2リッターエンジンぐらいのパワーがあるUX300eなので、驚くほどパワフルでもなければ非力でもないのですが、上り勾配を3速で駆け上がろうとするとトルクがあえてしぼられているので加速が鈍り、2速にシフトダウンするとしっかり加速できるあたりも実にMTっぽい仕上がりです。
サウンドにもこだわっていて、市販のサウンドシミュレーターに入っていた音のほかに、なんと5リッターV型10気筒エンジンを搭載するレクサス「LFA」や、高回転型の4気筒スポーツツインカム「3S-GE」を積んだトヨタ「セリカ」の実車から録ったというサウンドが選べるようになっているのも楽しめます。
LFAを選んでもパワーは変わりませんが、音が変わるだけで気分が上がり、実際には存在しない3ペダルのLFAの運転感覚を味わうこともできました。
クラッチを切ったときの余韻を残しながらエンジン回転が下がっていくのも巧く再現されています。フライホイールの慣性を計算して、こうなるだろうという特性を作り込んだそうです。
ミスをするとそのとおり挙動に出てクルマから“怒られる”のもキャッチボールの一環です。わざとヘタな操作をすると引き込んだような感じになるあたりも、モーターのトルクを工夫していかにもそれっぽくしてあります。
「モーターならではの制御性の優れているところを、活用というか悪用しました」だそうです。
いわゆるエンスト状態になると音も駆動力も消えますが、エンジンの車だと止まりっぱなしになるところ、このクルマはクラッチを踏むと復帰するようになっています。
それは、エンストというのは恥ずかしいものなので、一刻も早くその状態から脱することができるようにという親切心から、こうしたほうがいいと判断したそうです。
一方で、MTにありがちなジャダー(振動)は出ないようにされていて、開発担当者によると「付けようと思えば付けられますが、気持ちのよいものではないので、ないほうがいいものは付けていません。取捨選択ができるのもモーターのいいところです。リバースもやろうと思えばできますが、楽しいのは前進だけなので、なくてもいい気もするし、やったほうがいいか迷っています」とのことでした。
発着地点にもどり、展示されていたMTの操作感の源となる手作りの「からくり」を見学。
シフトフィールを生み出す部分は、リンクとバネによって感触を作っていて、シフトとアクセルに角度センサーが仕込まれています。それをもとにどのようにトルクを発生させるようにするか、最適値を導き出すのに相当に苦労を重ねたそうです。
■「AE86(カローラレビン)」をBEVに換装! 一体なぜ?
次いで、「AE86 BEV Concept」をドライブしました。車体に貼られたロゴの「LEVIN」の「EV」が強調されているのも微笑ましいです。
車内は2人乗りで、後席からトランクにかけて、「LEXUS」のロゴの付いたバッテリーケースなどが搭載されています。
ボンネット下に搭載されたモーターは北米向け大型ピックアップの「タンドラハイブリッド」用、バッテリーはレクサス「NX450h+」用で、トヨタ「GR86」用の6速MTが組み合わされています。
イグニッションキーを長めにひねるとシステムが起動し、これまた実車から録ったという1.6リッタースポーツツインカム「4A-G(4A-GE)」のアイドリング音が車内にあるスピーカーから発せられます。
半クラッチの感覚も自然で、こちらはエンストの設定はありません。
BEVになった「カローラレビン(AE86)」
走り始めると車内が4A-Gサウンドで満たされます。アクセルを踏み込んだときの吸気音も、往年の4A-Gそのものでワクワクします。
最高出力は95kW、最大トルクはモードにより150Nm~230Nmで、車両重量はベース車の100kg増程度にとどめたといい、動力性能の感覚がちょうどAE86に近く、AE86ならではの軽やかな身のこなしも損なわれていません。
今回は公道での試乗なので控えめに走りましたが、実はこのクルマは本気印のドリフト仕様。足まわりはガチガチ、LSDもバキバキ、シートはフルバケットなのですが、サーキットで思いっきり走らせると本当に楽しめそうな印象を受けました。
実は筆者(岡本幸一郎)は、若い頃にまさしくドリフト仕様の赤/黒のAE86型「スプリンタートレノ」に乗っていたので、とてもなつかしい気持ちでいっぱいになりました。
まさか所有していた頃から30数年後に、BEVでこの感覚を味わえるとは思いもよりませんでした。すばらしい再現力です。
こうしてマニュアルBEVをドライブして、とにかく楽しかったというのが率直な気持ちです。
また、BEVをマニュアルにするとなると、半クラッチやシフトチェンジ時の反応をいったいどうするのかと思っていましたが、この2台はそのあたりも実によく考えられていて感心しました。
これなら古いクルマに新しい命を吹き込むこともできるでしょうし、あるいはクルマが好きで本当はMT車に乗りたいけど、家庭の事情でどうしてもAT車を買わざるをえないという人は少なくないと思いますが、いずれマニュアルBEVが実用化されたら、その悩みは一気に解消するというものです。
今後の展開が楽しみでなりません。大いに期待したいと思います。
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