社説:比国残留日本人 国籍回復へ政治決断急げ

京都新聞 / 2020年9月7日 16時0分

 75年を経ても、戦後の未完を物語る問題ではないか。早急に解決する必要がある。

 ヤシの林を抜けたフィリピンの小さな集落の簡素な家に高齢の女性が暮らす。「お父さんの名前は」の問いに、女性は「アカホシ、アカホシミノルです」とはっきり答えた-。

 今年、全国で公開されたドキュメンタリー映画「日本人の忘れもの」の一場面だ。

 アジア・太平洋戦争の日本の敗戦後、フィリピンと中国北部に残されたまま、現在も日本国籍の回復を求める日本人2世の苦悩や暮らしに迫っている。

 フィリピンの残留日本人は現在も千人を超えるとされる。日本国籍取得の支援に取り組む日本やフィリピンの法律家やフィリピン政府などの働きかけで、昨年から当事者の代表が日本の国会議員に陳情するなどの活動が始まっている。

 戦前、フィリピンには、南部ミンダナオ島を中心に2万人以上の日本人が移住した。両国とも父系血統主義を採用していたため、日本人男性と現地女性の間に生まれた子どもは日本国籍を持つはずだった。

 しかし、日本人の父親が戦死したり、戦後、日本に帰国したり強制送還されるなどの混乱の影響で、日本国籍取得の手続きをできないまま成長した人たちが多数いた。

 この人たちがいま、日本国籍を求めている。日本国内で父親の戸籍が確認されるなど、身元が確認された一部の人は個別に国籍が認められているが、ほとんどは公的な資料が失われた人たちだ。

 当事者のほとんどは80歳を超える。フィリピン政府や支援者らは個別解決ではなく、包括的な救済を求めている。残された時間が少なくなる中、日本政府はこの声に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 国策による満蒙開拓団などで中国に移住し残留した日本人に対しては、不十分だが帰国支援などの救済がなされている。

 一方、フィリピンについては「自主的に移住した」という理由から放置されている実情がある。

 しかし、フィリピン移住も実際は南方進出という国策の一環で進められていた。

 深刻なのは、日本国籍を主張するためフィリピン国籍も持てない人が多いことだ。

 戦争直後はフィリピン社会で日本人への反感が強く、無国籍のまま、教育を受ける機会も得られず、貧しい暮らしを強いられてきた人が大半という。

 国連難民高等弁務官事務所は「無国籍者根絶」のキャンペーンを行っている。これに合わせ、日本国籍を求める人たちのうち約100人がフィリピン司法省に無国籍者認定を申し立てた。

 日本国籍を認められない場合にフィリピン国籍を求める道を絶つことを意味する。退路を断った高齢の当事者たちの思いを、日本政府はくむべきではないか。放置すれば、問題は解決しないまま消滅しかねない。解決に向け、日本政府は政治判断を急ぐべきだ。

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