社説:着床前診断 「命の選別」への懸念も

京都新聞 / 2021年2月10日 16時5分

 重い遺伝性の病気が子どもに伝わらないように受精卵の段階で遺伝子を調べる「着床前診断」が大きく広がるのだろうか。

 日本産科婦人科学会(日産婦)が検査の対象疾患を拡大する最終案を示した。成人に達する前に命を落としかねない病気に限定してきたが、成人後の発症も含め、現時点で有効な治療法がない、または患者への負担が大きい高度治療を要する病気にも広げる。審査手続きも緩和する。関連学会などから意見を募り、来年6月をめどに内規改定を目指す方針という。

 子どもの健康を望む夫婦の願いは切実とはいえ、「命の選別」につながるとして批判は根強い。

 着床前診断は、受精卵から染色体や遺伝子を取り出して遺伝病の有無を調べる検査で、病気の因子のない受精卵を子宮に戻し出産につなげる。日産婦は1998年に「着床前診断に関する見解」を発表し、筋肉が萎縮するデュシェンヌ型筋ジストロフィーなど重篤な遺伝性疾患に限って認可。学会への事前申請を求め、1例ずつ審査し、国内での承認は120件を超すとみられる。このほか、染色体の特定の異常による習慣流産も検査の対象として認めている。

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」と違い、受精卵に異常があれば母体に戻さず、中絶など身体への負担が少ない利点がある。一方で異常とされた受精卵は廃棄され、「命の選別」とも指摘される。男女産み分けにも利用できる技術で、倫理上の問題は多いと言える。

 最終案で従来の年齢条件が削除されたが、日本神経学会は「対象範囲を大幅に拡大させる」などとして反対を表明している。

 日産婦は昨年1月から見直しの議論を始めた。背景には、眼球摘出や失明の恐れがある遺伝性の目のがんなど、従来対象外とされてきた遺伝病の患者が「子どもに病気を遺伝させたくない」として適用を求めた事情がある。真剣に悩む患者らの声も理解できる。

 ただ際限なくこの技術の適用を広げるなら、最後は特定の形質の子どもだけを産む優生思想に行き着かないか。「異常」を排除し、多様な人が生きる社会の否定につなげてはならない。

 国としても学会に判断を「丸投げ」せず、法律による歯止め策も含めた対応が求められよう。障害者団体や生命倫理の専門家らも含め、幅広い議論が欠かせない。国民的な議論を深め、社会が納得できる答えを探らねばならない。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング