森友学園問題が浮き彫りにした、ファーストレディの見えざる権力

まぐまぐニュース! / 2017年3月31日 4時45分

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3月23日に行われた森友学園問題を巡る証人喚問で、籠池元理事長が明らかにした、「内閣総理大臣夫人付」という聞きなれない人物からのFAXの存在。籠池氏の数々の要望に対する返答として送られたこの文書について官邸サイドは「ゼロ回答だから問題はない」としていますが、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは「昭恵夫人の秘書役からの問い合わせだからこそ官僚が動いた証拠」とし、「昭恵夫人は無自覚なうちに強大な権力の一部として動いてしまっていた」と結論づけています。

無自覚な権力者、総理夫人

戦前の道徳や皇国精神の復活を声高に唱え、やれ愛国だ、反日だと、人を色分けして同調者を集めることにより、なんらかの利益を得ようとする「保守ビジネス」がはびこりはじめたのはいつの頃からだろうか。

おそらくインターネットが普及し、ネトウヨなる排外的娯楽主義者が増殖していくにしたがい、保守マーケットが拡大していったのだろう。

森友学園が今のように極右的な教育方針に転向したのも1995年1月に先代の理事長、森友寛氏が亡くなって以降のことらしい。

現理事長、籠池泰典氏は総理大臣の夫人を愛国小学校開設の仲間とすることで、国のトップとの関係をとり結び、その名のもとに多額の寄付金を集めて学校を運営しようと画策した。そのかいあって一時は「神風」が吹いたものの、最後は自身が特攻隊のようになって砕け散った。

それゆえにこそ、あの証人喚問には、新事実への期待感があった。彼にはほとんど失うものがなくなったからだ。東京都の百条委員会の証人たちとは違う。

籠池氏の口から飛び出した最も印象的な証言は、「内閣総理大臣夫人付なる国家公務員が森友学園に送ったFAX文書の存在だった。「妻や私が関わっていたのなら総理大臣はもとより国会議員を辞めますよ」と見栄を切った安倍首相の足元を揺るがしかねない中身である。

「内閣総理大臣夫人付」。あまり首相官邸が知られたくない非公式なものだろうが、安倍首相の夫人、昭恵氏の秘書をつとめるお役人のことである。官邸内に立派な部屋があり、経済産業省から常勤2人、外務省から非常勤3人、計5人が派遣されている。

彼らが支える昭恵氏は、その行動こそ勝手気ままに見えるが、実は非常に生真面目であるらしく、安倍総理のいわば代役を忠実にこなしてきた。その一つが森友学園が運営する塚本幼稚園での講演だ。

初めて昭恵夫人が講演したのは2014年4月25日のことのようだが、実はそれ以前の2012年9月16日、安倍晋三氏本人に講演してもらうべく、森友学園は次のような案内文をホームページに掲載していたのである。

尖閣諸島・竹島・北方領土は日本固有の領土です。…しっかりとした歴史観・国家感を持ち、それに裏打ちされた方向性と実行力を持ったリーダーに委ねたい。その最も有力な人物こそ、第90代内閣総理大臣安倍晋三先生です。来る9月16日安倍晋三先生が塚本幼稚園に講演に来られます。

90代内閣総理大臣とあるが、これは第一次政権のことで、当時は一議員に過ぎなかった。だが、前回号「証人喚問でも食い違う主張。森友学園「茶番劇」の発端は何なのか?」でもふれたように、2012年2月以来、大阪維新の橋下徹氏、松井一郎氏らと親交を深め、刺激を受けた安倍氏は持病が改善したこともあり、再び政治的な野望を燃やしはじめていた

ぶざまな辞め方をした元首相の再チャレンジは、所属派閥の重鎮、森喜朗氏の反対など党内に波紋を広げたが、安倍氏は同年9月14日告示の自民党総裁選に打って出る決意を固め、塚本幼稚園での講演をキャンセルしたのだ。

総裁に返り咲き、総選挙で政権を奪回してその年の12月に第二次安倍政権が発足すると、安倍首相は、第一次政権で昭恵夫人につけた秘書役の復活を思い立った。好奇心旺盛でアクティブな妻の個性を生かし、ファーストレディとして大いに活動してほしいが、そのためには補佐が必要、という考えだったのだろう。

第一次政権ではその役どころを外務省を退官したばかりの宮家邦彦氏一人が引き受けた。非常勤の一般職国家公務員で、官職名は「首相公邸連絡調整官」だった。宮家氏といえば、フジテレビの新報道2001などで、安倍政権寄りのコメントをして重宝がられている人物である。

官邸内に専用の執務室が設けられ秘書役たちが着任したのは2013年6月のことだ。もちろん、総理夫人の「専用秘書室」のようなものが設置されるのは過去に例がないであろう

なぜ、公務にあたるべき国家公務員を、安倍首相自ら「私人」と主張する昭恵夫人の秘書のような任務にあたらせるのか。そのこと自体が異常であるのはさておき、安倍首相には個人的な思想信条を満足させるため、総理の立場ではできないことを夫人にさせようという狙いがあったのではないだろうか。

ひょっとしたら、2014年4月25日に昭恵夫人が塚本幼稚園で講演したのも、2012年9月に安倍首相が果たせなかった約束を代わりに実行させるという意味合いがあったのかもしれない。

初めて同幼稚園を訪れた昭恵夫人が、園児に教育勅語を暗唱させる愛国教育に接し、いたく感激しただろうことは、その後の行動が証明している。

最初の訪問と同じ年の12月6日と翌2015年9月5日、昭恵夫人は二年間で三度にもわたる講演を、塚本幼稚園で行なった。とりわけ15年9月の講演は重要で、この日に昭恵夫人は新設が予定される小学校の名誉校長に就任した。

この森友学園に対する尋常ならざる思い入れを、単に、昭恵夫人だけの暴走と片づけるわけにはいくまい

昭恵夫人には、この学園の実践している教育を全国に広めたい、幼稚園だけで途切れず、小学校でもこのような教育ができれば素晴らしい、それは夫も共鳴してくれるはずだ、という強い思いがあっただろう。

国会の証人喚問で籠池理事長が明らかにした内閣総理大臣夫人付、谷査恵子氏からのFAX文書は、昭恵夫人が小学校の名誉校長に就任して間もない2015年11月15日のものである。つまり森友学園と昭恵夫人が蜜月関係の頂点にあった頃といえる。

森友学園が「内閣総理大臣夫人付、谷査恵子」宛の封書で依頼した内容は概ね、次のような内容だった。

定期借地契約が10年間なのを50年契約にしてほしい

月227万円の賃料は高すぎるので、半額程度にしてもらいたい

コンクリート片や鉛などの汚染土を除去するために立て替えた工事費を平成27年度予算で返してくれるよう言ったが、28年度に遅れるというのはなにごとか

これに対して谷氏はFAX文書で「財務省本省に問い合わせ国有財産審理室長から回答を得ました」としたうえで、定期借地の期間延長は難しいと回答した。

しかし、「撤去に要した費用は、第6条に基づいて買受の際に考慮される」と、いずれ森友学園が土地を買い取るさいに、地下埋設物撤去費用に相当する金額を値引きすることが示唆されている。

また、汚染土除去費用については「一般には工事終了時に清算払いが基本であるが…平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中」と書いていた。

本来なら、実際に森友学園が業者に支払った費用を、「清算払い」するのがルールだが、予算がつきしだい国から学園に支払うという特別扱いのお知らせをしたわけである。役所が「調整中」という言葉を使うのは、ほぼOKの場合だ。実際、2015年末までかかった工事の費用として翌2016年4月に、1億3,176万円が国から振り込まれた。

安倍官邸や自民党は、このFAX文書を「ゼロ回答だから問題はない」と言うが、そうではない。官邸に詰めている昭恵夫人の秘書役からの問合せだからこそ、国有財産審理室長、田村嘉啓氏はこれほどまでに丁寧な回答をしたのであり、買い取り時の値引きや工事費用の早期支払いまで示唆したのである。

田村氏にしてみれば、この案件が昭恵夫人、すなわち安倍総理にかかわるものだという印象を持ったに違いなく、そのことは彼の上司からそのまた上司へと伝わっていったと推察される。総理関連の案件というだけで独り歩きすることは十分、考えられるであろう。

このFAXから約4か月後の2016年3月11日、籠池氏は「小学校建設用地から新たな地下埋設物が見つかった」と、近畿財務局にねじ込み、3月15日には上京して田村国有財産審理室長に「値下げ」を談判している。

いわば「総理案件」の当事者が「善処」を求めて乗り込んできたのである。田村室長の上司である国有財産業務課長はもちろん、理財局次長理財局長まで話は伝わっただろう。

当時の迫田英典理財局長(現国税庁長官)は参考人として国会に呼ばれたさい「全く報告を受けていない」と言っていたが、ありえないことだ

その後、2016年3月24日に、森友学園は定期借地から土地購入に切り替え、8億円を超える値引きにより1億3,400万円という破格値で売買契約を国と結んでいる。

この時期はまさに籠池氏の言う通り「神風」が吹いていたのだろう。猛烈なスピードで物事が進展し、しかも1億3,400万円の支払いは10年分割という、通常ありえない好条件だった。

内閣総理大臣夫人付、谷査恵子氏のFAX文書には「引き続き、当方としても見守ってまいりたいと思いますので、何かございましたらご教示ください」とあった。

この場合、見守る対象は何だろうか。素直に受け取れば、森友学園と国側の交渉であろう。つまり、昭恵夫人がなんらかの関与を続けるということだ。

最近、あちこちのメディアで紹介されているが、公益社団法人「日本国際民間協力会」で理事をつとめる京大名誉教授が、ケニアにエコトイレを広める事業の補助金を外務省に交渉したものの埒が明かず、思い切って昭恵夫人に会って話をしたらたちまち8,000万円の予算がついたという。

あらためて権力というものの凄さを思い知らされる。いまや、自民党内にかつてのような実力者は影をひそめ、安倍官邸に気に入られようとする輩ばかりである。

霞が関官僚もそんな状況の中では、大局的視点がますます抜け落ち、安倍首相とその周辺にばかり気を遣っているのではないだろうか。残念ながら、彼らの現実の世界で公平ということはないのである。

権力の恩恵に浴したいと欲張った籠池氏が、結局は権力に捨てられ、破滅覚悟で最後の抵抗を試みているのが今の絵柄だ。

昭恵夫人は、無自覚なうちに強大な権力の一部として動いてしまっていたのである。

image by: Flickr

 

 

『国家権力&メディア一刀両断』

著者/新 恭(あらた きょう)(記事一覧/メルマガ)

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

出典元:まぐまぐニュース!

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